35.旅立つ前に⑤
「夢の話なんですが、良いですか?」
思春期の少年が、自分の事を喋るのが恥ずかしいやら、怖いやらで使うような手法を取ってしまう。
まぁ、僕には不思議な力が有って、人を殺してしまって、異世界に旅立つか悩んでいます。
なんて正直に言っても、違う意味で心配させるだけなので有効な手段だと思う。
「夢って将来の夢か?」
生徒が悩んでいるんだから、そう思った先生に落ち度はない。
「いや、寝てみる夢ですね。最近、妙にリアルな夢を見てしまって……」
あー。と少し考えて、どんな夢だ?と真剣な顔で聞いてくれる先生は良い人なんだと思う。
「夢の中で、急に襲われて俺は戦って相手を殺しました。自分の仲間を守る為だったから後悔はしてません。でも、衝撃的すぎて今でも最後に見た顔がチラつくんです」
また、少し悩んだ後に先生が口を開く。
「世の中には、正当防衛って言葉があるからなー。殺してしまうのは、過剰防衛かもしれないが、大事なモノを守るためにやった事なら良いんじゃないか?後悔も無いなら尚更な。そもそも、何で相手がそんなことをしたのか分からんが」
「相手も、自分の信じるモノの為みたいでした」
ユーイは、"美神"の為に戦っていた。
"美神"を信じて戦ったんだろう。それこそ、狂信的に。
「なるほどな。じゃあ、尚更しょうがないと思うけどな。お互いが大切なモノを守るために戦うってのは、人間に限らず生き物の本能みたいなモノだと俺は思う」
それに。っと先生が続ける。
「俺がもし、天草と同じように大切なモノ……いや、人かな。それを傷付けようとするヤツが居たら、それこそ相手を殺しても、自分が死んでも守ると思う」
それが、人間じゃないか?と笑ってみせる先生は、眩しい程に人間らしいと思った。
「お前は真っ当に生きてるよ。心配するな!俺が保証する!」
「ありがとうございます……少し気持ちが楽になった気がします。さすが、先生になる人は違いますね」
気休めだし、本当に俺が人を殺してたら出てくる言葉が違うのも分かる。それでも、幾分か気持ちが楽になった。
「おう!まぁ、そんな立派なものでも無いけどな。大切な人が傷つけられたら、どんな手を使っても相手に報いを受けさせる!ってタイプだぞ。俺は」
そう言って苦笑いを浮かべているが、優しさが伝わってくる。
「もし、先生が大切な人と会えなくなるかもしれない……そのくらい遠くに行かなきゃいけない。そんな状況になったらどうします?」
この人なら、どうするのだろうか?
「ん?夢の話の続きか?そうだなぁ。行かなきゃいけない理由にもよるから、一概には言えないが……」
少し考えるように、顎に手を当てる先生。
暫くして口を開く。
「それが、俺にしか出来ない役目なら行くかな」
シンプルな答えだったが、今の俺には十分だった。
「難しい問題はシンプルに。簡単に見える問題こそ良く考えるってのが俺の座右の銘だ!」
「良い言葉ですね」
そうだ。
向こうに行って、俺の故郷を何とか出来るのは俺しかいない。そう詩道は言っていた。
もちろん、今の普通だった生活も大好きだ。
じゃあ、向こうの問題を解決して、また戻ってくれば良いじゃないか!
【琥王】は戻れない覚悟をしておけと言っていたが、方法はある筈だ。
その時は、詩道も一緒に。
普通とは、ほど遠いかもしれないけど【琥王】も【龍王】も詩道も【斬魔】も、そして【黄泉】も。
都合の良い結論だし、子供染みてるかもしれないが全部を諦めたくないと今は強く思った。
「俺の婚約者が良く言ってたんだ」
「へぇー。というか、独身だったんですね」
見た目は三十代後半か四十代だと思っていたが、意外と若いのかもしれない。
「今、失礼なこと考えてなかったか?」
俺の周りは、読心術を履修してる人が多いらしい。
「まぁ、今は遠くに居て会えないんだけどな。だから、会えない位遠くにって質問は俺の実体験も踏まえてる」
なるほど。
実体験に基づく結論なら、信用度も高い。
浅はかな俺はそう思った。
「本当に出来た人だったよ。俺には勿体ないくらいの」
そういって、先生はポケットから小さな瓶を取り出し眺める。
小瓶の中には、キラキラ光る紫色に見える砂が入っていた。
「それは?」
「あぁ、お守りみたいなモノかな」
そういって小瓶を見詰める表情は、今までの優しさとは程遠い悲しいものだった。
顔を見ているだけで、胸が苦しくなる。
そんな顔をしていた。
俺の視線に気付いたのか、すぐに表情が戻る。
「すまん、すまん!天草の相談なのに、自分の事を話してしまった!」
大丈夫です。と答えるのが精一杯だった。
「申し訳ついでに少し話をさせてもらうと、実は婚約者がカエデって名前なんだ」
そんな偶然があるのか。
まぁ、事実あるのだが。
「詩道と同じ名前だろ?だから、詩道と仲良くしてるお前を何となく放っておけなくて、相談に乗ったって訳だ!お前と同じくらい、詩道の事も心配してるんだ。クラスに馴染んで無いみたいだったけど、お前と仲良くしてるみたいで安心したよ」
意外と、といったら失礼かもしれないが生徒の事を見ているんだな。
普通なら、笑って気にするな。で終わらせても文句は言えない程度の話を聞いてくれる先生だ。見ていて当然かもしれないと思い直す。
「ありがとうございます。もう少し自分で考えてみます」
気付いたら、空は少し薄暗くなり始め夕日色から夜の色に染まりだしていた。
「もうこんな時間か!俺の方こそ長々とすまんな。大した事は言えなかったかもしれないが、また学校でな!」
俺の中で答えは出ていた。
また学校で。
その言葉に、スグに答えることが出来なかった。
「はい」
何とか言葉を振り絞る。
こんなに良い先生なら、もっと早く色々話していたら良かったなと思った。
家に向かって歩き出す。
何故かは分からないが、あの騒がしくなった我が家に早く帰りたかった。
不安が無い訳じゃない。
でも、詩道や【琥王】達となら何とかなりそうだと思えた。
もう、迷わない。
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一人残された場所で、男は手の中の小瓶を見詰め呟く。
「ごめんな。こんな事しか、してやれなくて」
その声は誰にも聞こえない。
ただ空に吸い込まれ、消えていくだけだった。
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