33.旅立つ前に③
◆
「はぁ~~~~~~~」
深い、本当に深いため息を吐く。
休日に一人、見慣れた町を歩く。
【琥王】も【龍王】も居ない。文字通り一人だ。
昨日、詩道の話を聞いて直ぐに休んだ。俺の理解力を越えた話だったと思う。自分で決めて聞いた話だから、後悔はもちろんしていない……といえば嘘になってしまうかもしれない。
俺が何より愛していた普通から、程遠い世界に自ら足を踏み入れてしまった。
一夜開けても、頭の中をグルグル回る考えはまとまらない。
衝撃的な話の連続で、混乱している。
でも、それで助かっている部分も有った。
気を抜いて、何も考えていない時間が出来るとユーイの顔が頭をよぎる。
俺が殺したという事実が、拷問のように胸をキリキリと締め付ける。
記憶を無くす前の俺は、他にも同じように殺した事が有ったのだろうか?
考えたくもない。
騒がしくて心地が良いとさえ思える【琥王】達と一緒にいると、全てを忘れてしまいそうになる。
その方が楽なのは、分かっていた。
でも、このまま忘れて良いのか?と自問自答してしまう。
どうするべきか分からず、一人で考えさせてくれと【琥王】達に話し今に至る。
【琥王】も【黄泉】と話があると、一人で出掛けていった。
昼間に誰かに見られても、野良猫に間違われるだけだろう。白色に黒のシマが入った野良猫が居るかは議論の余地ありだが。
詩道達は、【龍王】が面白いモノが一杯有ったから一緒に見に行こうと、困惑する【斬魔】を引きずり、その後を詩道が少し楽しそうに着いていった。
【龍王】が無茶しなければ良いが、詩道と【斬魔】が居るから大丈夫だろう。歩いていく後ろ姿は、妹二人の付き添いをする姉にしか見えなかった。
そうして、各々が自分達の時間を過ごしている。
とは言っても、俺に何か目的がある訳じゃない。なんとなく散歩しているだけだった。
何処に向かうわけでもなく、ただ歩く。
それ程大きくない町だ、見渡せばそれなりに思い出が甦る。唯一無二の友人の陽介と良く立ち寄った本屋、コンビニ、ゲーセン。
陽介との思い出ばかりだった。
三浦陽介。
俺の小さな頃からの幼馴染み、腐れ縁。
陽介とも会えなくなるかも知れないのか……
アイツと初めて会ったのは何時だったか、記憶をたどる。
そうして気付く。
自分でも愕然としてしまう。
どうして、今まで気にしなかったのか。
気付けなかったのか。
俺に幼少期の記憶は一つもなかった。
「ははっ」
自分に呆れ、乾いた笑いがこぼれる。
俺の居場所はココじゃないのか。
そう考えた瞬間に、胸にポッかりと穴が開いたような喪失感に襲われる。
自分でもどうして良いか、どんどん分からなくなっていく。
「おー。天草じゃないか!どうした?世界の終わりみたいな顔して」
不意に声をかけられる。
声のした方に目を向ける。
「えっと……先生?」
そこに立っていたのは、俺の担任だった。
◆
『どうじゃ!?楽しいじゃろ!色々あって飽きないのじゃ!』
元気にはしゃいでいる【龍王】。
促されるままに着いてきたのは、拠点から然程離れていない商店街。
確かに、向こうでは見ることの出来ないモノが多い。
楽しいもの好きの【龍王】が、浮かれる気持ちも分かる。衣食住の文化は向こうより進んでいる。
コチラの世界に来てから、すぐにアイツを探した。
あくまで可能性で、本当に居るなんて確証は無かった。
見つけてからは神の相手もしたし、周りの事など気にしている余裕なんてなかった。
『わかったから、少し落ち着いて』
普段冷静な【斬魔】が、振り回されているのを見るのは随分久しぶりだ。
こんな気持ちになれる日がまた来るなんて、想像もしていなかった。
ある日、突然アイツは私の前から消えた。
理由も告げず、別れの挨拶も無しで。
暫くして、"名無し"が死んだと噂で聞いた。
また、一人ぼっちにされたのだと思った。最初は何も感じなかった。感じたくなかった。
こんなことになるなら、最初から一人のままが良かったと思い、次に怒りが込み上げてきた。
私に希望だけ与えて急に居なくなったアイツ、世界に望まれなかった自分、こんな自分を生み出したヤツ。
全てが憎くて憎くて仕方なかった。
どのくらい経ったか分からない程、一人で過ごした。
誰とも関わりを持ちたくなかった。
そんな時、どうやって居場所を調べたのか"精霊の集い"が接触してきた。
マトモに話を聞く気なんて無かった。適当にあしらって追い返すつもりだったが、彼等が放った言葉に耳を疑った。
「"名無し"が異世界に居るかもしれない」
その他にも何か言っていたが、その時は聞こえていなかった。
何も感じなくなった心が、身体が、大きく高鳴るのを感じた。
正直、世界がどうこうなんて建前で別段興味は無い。
でも、"軍神"の言っていた実験の話。
首謀者は"美神"で間違いないだろう。こんな悪趣味な事をするのは、神の中でもアイツ位だ。
"美神"を許す訳にはいかない。
アイツがコッチの世界に残ると言っても、"美神"だけは私がこの手で……
『さっきのアレが食べてみたいのじゃー!』
【龍王】の大きな声で、現実に引き戻される。
『分かったから、大きな声出さないで。他にも有るかも知れないでしょ?』
【斬魔】が完全に保護者になっていた。
思わず笑いそうになるが、グッと堪える。今笑ったら、【斬魔】がきっと嫌な顔をする筈だ。
『イヤじゃ、イヤじゃ!さっきのが食べたいのじゃ!』
流石に、周りの目線が痛くなる。大体が、微笑ましいモノを見るような暖かい目線だったが。
「代価がないでしょ?私も、この世界の通貨なんて殆ど持ってないわよ?」
【斬魔】を助けるつもりで口を出す。
『クックックッ。こんなことも有ろうかと、主様の財布を手に入れておいたのじゃ!』
高らかにアイツの財布を掲げる【龍王】。
【斬魔】は表情を変えていなかったが、眉毛がピクピクと動いていたのを見てしまった。
『これで、買ってくるのじゃ!』
【斬魔】が、今にも走り出しそうな【龍王】の腕を掴んで止める。
『私が行ってくるから、りゅうちゃんはココでまってて』
少し不満そうな顔をしながら、財布を【斬魔】に渡す。
私が行こうかと声を掛けたが、大丈夫。アナタも疲れた顔してる。というので任せる事にした。
気を使わせてしまったかもしれない。
【斬魔】が私に【龍王】を押し付けた訳ではない無い筈だ。
……多分。
じっと待っててね。と言い残して【斬魔】が歩いていく。立って待つのも何なので、近くのベンチに【龍王】と一緒に座る。
『さっきから浮かない顔をしておるが、何を考えておるのじゃ?』
【龍王】が私の顔を覗き込んでくる。
吸い込まれそうな蒼い瞳。
私の目とは比べられない位に、美しいと思う。
『せっかく楽しみに来たのじゃ!妾が何でも聞いてやろう!妾の方が、おねえちゃんじゃしな!』
【龍王】に促され、口を開く。
それは、瞳に魅入られたからではなく。
なんとなく話したくなった。
アイツの側に、私より長く居た【龍王】に聞いてみたかった。
本当に、ただそれだけだった。
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