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32.旅立つ前に②



「俺と"知神"だけってどういう意味だよ」


 頭が混乱する。

 神が出来るってのは理解できる。だから神なのだろう。

 じゃあ、俺はなんだ?


 自分では普通の人間のつもりなんだが……


「アナタは何で、どうやって自分がココに居るか分かる?私には分からないわ。何で一人でこんな……」


 詩道の語気が強くなっていく。

 心底悔しそうな表情で語る。


『落ち着いて。確かにコイツはバカだけど、今は話がそれてる』


『やーい!バカじゃ、バカなのじゃー』


 【斬魔】だけならまだしも、【龍王】まで一緒になってやがる。

 チビッ子シスターズめ。

 この際、姉妹じゃないとか細かい事は気にしない。


 俺が不満を視線で訴えると、【龍王】は怖いのじゃー。と笑いながら【斬魔】の影に隠れる。

 【斬魔】の俺を見下す表情は、過去一番だと断言できる。


「ごめん。話を戻すわ」


 詩道の言葉で視線を戻す。

 俺を見る【斬魔】の蔑んだ表情は、横目で見ても微動だにしていなかった。

 その後ろでケラケラ笑う【龍王】。


「つまり、アナタは自分の力でコッチの世界に転移したって仮説が考えられるわ。多分【黄泉】の力だと思うけど、どうかしら?」


 当然、この質問に俺が答えられる訳もなく【琥王】を見る。


『概ね正解だな』


 短く【琥王】が答える。


「なんでそうなったか……は教えてくれないのよね」


 詩道の問いかけに【琥王】は何も言わず顔を伏せる。


「俺が聞いてもダメなのか?正直気にはなるんだが……」


 俺から【琥王】に聞いてみる。


『今のお前から聞かれても、これは教えられないな』


 どうやらダメらしい。


 俺が知りたいことを優先してくれている【琥王】が、無理だと言ったんだ。余程の理由があるんだろうと、これ以上の追求は止めることにする。


 いいわ。と詩道が話を続ける。


「アナタの力で移動が可能だって事は、今【琥王】が証明してくれたわ。後はアナタを連れ戻す理由かしら。多分聞きたいことが出るだろうけど、最後まで聞いて」


 前置きをされたので、黙って聞くことにする。


「察してるかもしれないけど、向こうではアナタが居なくなってから私が来るまでに十年経過しているわ」


「十年!?」


 思わず声を上げてしまう。

 向こうの世界とやらの記憶は無いが、単純に十年という時間に驚いてしまう。


 声を上げた俺を【斬魔】がまた睨み付ける。その後ろでケラケラ笑う【龍王】。


 既視感が半端無いんだが。


 そんな状況を知ってか知らずか、詩道は説明を続ける。


「さっきも説明したけど、コッチに来る準備に十年掛かってるの。当然でしょ?」


「あぁ……すまん。続けてくれ」


「この十年で神達の動きが、露骨に人間に害を与えるようになってきたわ。直接的にも、間接的にもね。全ての神が……というわけではないけど」


 詩道の話を要約すると、精霊信仰と同様に神を信仰する人間がいる。そして、そのどちらも信仰しない人間も。


 【琥王】が言っていたように、精霊は自分が司るモノから力を得ているが、神達は人の信仰心によって力を得ている。

 つまり、神を信仰する人間が多ければ多い程良い。

 その懐柔は精霊信仰の人間、どちらにも属さない人間へと広がっている。


 問題は神だけではなく、その狂信者達が神の信仰を拒否した人間達を攻撃対象にしている事らしい。


 詩道に依頼をだした"精霊の集い"は、俺を戦いの抑止力、場合によっては神への対抗手段として協力して欲しいって理由だった。


「"精霊の集い"は、自分達から戦いを起こそうとはしていないわ。世界の調和を願ってる。ただ、中にはアナタが帰ってくる事で、新たな争いが起きると考える人間もいるけれど……」


 詩道が少し言葉を詰まらせる。


 少しの間、沈黙が続いたので俺が口を開く。


「大体理由はわかったけど、俺一人が"精霊の集い"に協力した程度で何とかなるモノなのか?」


 俺自身では、それほどの力が有るとは思えなかった。


 確かに、【琥王】達の力が有れば普通の人間と戦いになっても負けたりはしないだろう。それが抑止力になるかと言われたら、所詮個人の力には限界が有ると思うのだが。


「なるわ」


 詩道がハッキリと真っ直ぐな視線を俺に向ける。


「例えば向こうには、人間の王国"ミーティア王国"が有るけれど、そこの騎士団が束になっても以前のアナタには勝てないでしょうね。そもそも、個人で神と戦える人間なんて存在しないわ。アナタは戦える、それが答えよ」


 ミーティアって名前は当然の事ながら初耳だが、騎士団ってのは何となくイメージ出来た。


「"精霊の集い"にもアナタのように、幼精と契約している人間も居るけど"名前持ち(ネームド)"と契約してる奴なんて居ない。まぁ、それでも契約した人間は騎士数名と対等に戦える位の力は持っているけど」


「お前らって実は凄いんだな……」


 【琥王】と【龍王】を見る。


『前にも言ったろ?俺様達の凄さを再確認出来てよかったな!』


『妾達は凄いのじゃ!えっへん!』


 自画自賛しながら、二人して胸を張る姿を見て本当か?と思ったがせっかく気分が良さそうなので、そっとしておこう。


「"名前持ち(ネームド)"一柱と契約しているだけでも、戦力は想像を絶する。それをアナタは三柱と契約しているの。普通に考えたらあり得ない事だわ。何故それが可能なのかは私にも分からないし、恐らく以前のアナタも分かってなかった。【琥王】達が知っているかは知らないけど、どちらにしても理由を教えるつもりは無いのよね?」


 【琥王】に詩道が問いかけるが、今は無い。の一言で一蹴される。


 それを確認して、私が今答えられるのは以上よ。と詩道が口を閉じる。


 これから俺がどうするか。

 それは、俺が決めなければいけない事だろう。


 直ぐに答えは出せないと思うけど、俺が誰かの役に立てるなら悪くない気もする。


『色々考えることは有るだろうが、一応伝えておくぞ』


 【琥王】が俺を見る。その眼は、いつも以上に真剣な眼だった。


『もし向こうに帰る選択をするなら、コッチには戻れない覚悟をしておけよ』


 なんとなく空気で感じていたが、やっぱりそうなのか。


 【琥王】の表情から、冗談の類いでないことは分かる。


 その決断を直ぐに出すことは、俺には出来なかった。



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