31.旅立つ前に①
「いいの?」
詩道は俺ではなく、【琥王】の方を見て聞く。
『コイツが自分で決めた事だ。何処まで知るかは任せてる』
【琥王】が俺の方を見ると同時に、詩道が俺を見る。
「いいわ。私が知ってることなら何でも教えるわよ」
その場の視線が俺に集まる。
「とりあえず、前に少し聞いたかもしれないけど、詩道が俺の前に現れた理由を詳しく教えてくれ。誰かに依頼されたんだろ?誰が何の目的でどうして俺の記憶を取り戻させたいんだ?」
疑問に思い、聞きたいことを正直に問いかける。
「私がコッチに来たのは、"精霊の集い"からの依頼よ。"名無し"を見つけたが、記憶を無くしている様子だから、調べて連れ帰って欲しいと」
"精霊の集い"
それが、詩道に依頼を出した組織らしい。
「つまり、お前に依頼したのは精霊って事なのか?それに、俺が記憶を無くしてるって何で分かってるんだ?それに連れ帰るって……」
情報量が多すぎて疑問が溢れてくる。
「落ち着きなさい。順番に説明するから」
詩道に言われ、すまん。と謝りベッドに腰を落とす。
詩道も俺の机の椅子に腰かける。
「精霊といっても私に依頼を出したのは人間よ。精霊信仰って言ったら良いのかしら?そもそも、精霊と呼ばれる存在は、現状四柱しか存在しないわ。一柱は微妙な状態だけど……」
詩道が少し言葉を詰まらせる。
とにかく。と話を続ける。
話を掘り下げても脱線しそうなので、一先ず置いておくことにする。
「【琥王】も言っていたけど、精霊って存在は規格外よ。それは、単純に力の強さだけじゃなく世界に与える影響も踏まえてね。精霊達の詳しいことは、私より【琥王】に聞く方が正確だと思うけど」
詩道が【琥王】を見る。
ベッドの上で寝転んでいた【琥王】が顔を上げる。
『俺様たち幼精と、根本はそこまで変わらなかったりするぞ。基本的な性格は自由だしな。良く言えば世界にとって放任主義。悪く言えばただの傍観者だ』
「そうなのか?【琥王】が前に格が違うとか言ってたから、もっととんでもない奴らなんだと思ってたんだけど……」
『あぁ……力の強さって点では正に別格だな。精霊は、それぞれが司るモノから力を得ている。例えば、火の精霊は世界中の"火"が力の源だ。この世界から火が消えると思うか?』
そういわれて考えるが、あり得ないことだと思う。
『つまりそういう事だ。正しく力の底が無いって事だな』
なんか、とんでもない存在らしい。
「でも、そんな凄い奴らを信仰してるなら精霊に助けて貰えば良いんじゃないか?」
当然の考えだ。俺なんかをどうにかするより、その方が遥かに簡単な気がする。
「さっき【琥王】が言ったけど、精霊達は傍観者よ。人間が困ったから助けてくれ、って言ったところで動いたりしないわ」
そういうモノなのか。
良く分からない俺が考えるより、【琥王】や詩道がそう言うなら正しいのだろう。
精霊に頼むのが無理そうなのも何となく察した。
精霊が凄いって事も分かった。
「記憶の件については、組織の人間がこちらの世界に調査員が数人来て住んでいるからね。誰が来ているか私にも分からないし、何処に居るかも分からないわ。コッチの世界の知識は、彼らから送られてきた情報から得てきた感じね」
マジか……
俺の知らない間に、実はファンタジーが満載だったって訳だ。
「でも、意外と簡単に行き来してるんだな。どうやってるんだ?」
「簡単じゃないわ」
詩道が喰い気味に反論する。
「私達の世界からコッチの世界に来るには、例外を除けば複数人で儀式的な準備が必要なの。それも、膨大な力を使用するから直ぐには行えない。数十年単位で準備をして、ようやく一人送る事が出来るのよ」
そんなに大変な事だったのか……
冷静に考えれば、異世界に移動してるんだから簡単なわけないんだが。
「でも、それだけ大掛かりな事を毎回してるなら一度移動したら少なくとも十年は帰れないんだろ?コッチに来てる調査員ってのも大変だな」
十年の単身赴任?なんて考えたら大変だ。
異国の地で、知り合いもいなくて家族とも会えないなんて、考えただけで頭が痛くなる。
「帰れないわよ」
えっ?と間抜けな声が口から漏れる。
「私達の世界で、何人も集まって長期間行う儀式をコッチの世界で一人で出来ると思う?不可能よ。せいぜい短い情報を送れる位だわ」
呆然としてしまった。
そんなことを受け入れる人間が居るのか?
二度と友人や家族に会えないかもしれないのに、異世界に行く選択を取る意味が俺には分からない。
「"精霊の集い"はそれを行っていた。当初の目的までは私にも分からない。でもそのお陰で、アナタを見つける事が出来たわ」
ここで疑問が浮かんだ。
「結果的に俺が居たから良かったけど、もし情報が間違ってて俺が居なかったらどうするつもりだったんだ?二度と戻れないんだろ!?」
「その時は、諦めるしかないわね」
あっさり詩道が答える。
そうまでして探す価値が俺に有るのだろうか?自分では分からない。
「アナタが居ない世界に残るよりマシ」
詩道が小声で何かを呟いた。
良く聞こえなかったが、隣に居た【斬魔】が刺すような視線を向けてくる。
何を言ったか聞き返すのはやめておこう。
「でも、俺を連れ戻すって言わなかったか?二度と戻れないのにどうやって連れ戻すんだよ」
この問題が残っている。
「さっき、例外が有るって言ったわね?その例外が、"知神"とアナタよ」
話の規模がどんどん大きくなっていく。
自分が一体何者なのか。
俺が本当の意味で理解するのは、まだまだ先の話だ。
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