29.探しモノ⑨
「人を殺してここまで騒げるとは……あなた方の神経を疑ってしまいますねぇ」
下卑た笑みを浮かべ男が喋る。
【斬魔】は既に鎌になり、詩道の手に収まっている。
【琥王】も鋭い眼光で敵を見据え、俺の手には日本刀の形態になった【龍王】が握られていた。
『随分な物言いじゃないか。お前の差し金だろ?"美神"!』
【琥王】が神の名を呼ぶ。
コイツが"美神"。
【龍王】を握る手に力がこもる。
相手は神だ。
先程まで対峙していたユーイとは力の大きさも、威圧感も別物だった。
「直接会うのはこれが初めてですかねぇ。"白滅の牙"に"蒼炎の爪"。一応名乗っておきましょうか、神の寵愛"美神"アポロです」
そして!ととなりの無気力な男に向けて手を広げる。
「………」
男は黙ったままだった。
気の抜けた表情をしているが、隙があるようには見えなかった。まるでこちらの手の内を全て見透かされているような、不気味な感覚に襲われる。
「……なに?名乗らなきゃダメなの?めんどくさいから早く帰りたいんだけど」
『気を抜くなよ。アイツは"知神"だ。戦いになったら、場合によっちゃ"美神"よりも断然厄介だぞ』
【琥王】が俺にささやく。
「はぁ……神の参謀"知神"クロノスだよ。これでいいかい?」
「素晴らしいですねぇ!自己紹介も終わったところで、どうします?参謀としての意見を伺いたいのですが、私はここで始末してしまった方が良いと思うのですが」
威圧感が急激に増す。空気が皮膚を突き刺すようにピリつく。
「そうだね。メンドクサイから帰りたいけど本当に戦うなら一対九って所じゃないかな」
「勝率が九割なら上々ですねぇ」
クククッと"美神"が笑う。
「まぁ、そこのお人形さんは君狙いみたいだし出来れば僕を巻き込まないで貰いたいね」
いきなり仕掛けられても動けるように警戒は解けない。
この状況で、こちらに勝率が一割有るというのも信じられない。なんとか隙を見つけてこの場を離れたいが……
「人形って誰の事かしら?」
詩道が"知神"に言葉に噛みつく。
『不快。"軍神"の言葉通りなら元凶である"美神"は、どうなろうと必ず殺す』
【斬魔】も怒りを隠さずに威圧する。
「だってさ。お人形さんは、まだ奥の手を隠している様だし。戦うなら一人で戦いなよ。僕は帰るよ。"名無し"は何をしでかすか分からないし」
"知神"の手の中には、いつの間にか一冊の本が開かれていた。
「"神書"知識の泉。便利なものですねぇ。世界のあらゆる知識は疎か、相手の思考までも読み取れてしまうのですから!まぁ、私も目的は果たしましたので一緒に帰りますよ」
"美神"の手には、先程の戦いで切り落とした筈のユーイの手が握られていた。
「それをどうするつもりだよ。まさか、墓でも立ててやるって言うんじゃないだろうな」
"美神"に問いかけるが、そんな仲間思いの性格には見えなかった。
「さぁどうでしょうかねぇ?アナタは、壊れたオモチャにワザワザ墓を作るタイプだとでも?理解に苦しみますねぇ」
オモチャ?
仲間ですら無いって言うのか?
ユーイは敵だったが、お前の為に戦って死んだんだぞ?
『ふむ。不快きわまりないのじゃ』
【龍王】の言葉が威圧感を放つ。
『妾をヤツに向けるのじゃ』
何をするのかは分かっていた。言われるがまま抜き身の日本刀の切っ先を"美神"に向ける。
『《紫電》』
刀の先から雷撃が放たれ、"美神"に向かって一直線に襲いかかる。
捉えたと思ったが、寸前で"美神"の前の見えない壁に阻まれた。
「血の気が多いのは困りますねぇ。こんな輩の相手は"軍神"に任せるに限ります。それでは、ごきげんよう」
手をヒラヒラとさせ、嘲笑うかのような態度の"美神"。
それと同時に、クロノスと名乗った"知神"の手中の本がパラパラと捲れだす。その動きが止まった瞬間、神達の後ろに大きな門が現れる。ゆっくりと扉が開き、その中に入っていく。
パタンと"知神"が本を閉じると扉がしまり、門は初めから何もなかったかのように姿を消した。
今度こそ、本当に終わった。
そう自覚した瞬間に冷や汗が吹き出す。
『"美神"はまだしも、"知神"まで出てくるとはな』
【琥王】が顔をしかめながら呟く。
「何か企んでるみたいだったけど、逃がして良かったのかしら」
詩道の表情からも疲れを感じる。それでも、気は張ったままのようだった。
『悔しいけど"知神"が言ってた通り、あのまま戦ってたらこちらの勝率は一割位。不確定要素が多い中で戦う必要はない。"美神"の目論見が何であろうと、やることは変わらない』
いつもの冷静な【斬魔】が答える。
何にせよ【龍王】という仲間が帰ってきた。
俺たちの目的も達成できたのは確かだ。再び疲れが襲いかかってくる。色々考えなきゃいけない事も多いが、 とにかく一度帰ってゆっくり休みたい。
通り雨だったのか、緊張状態で気にしていなかった雨はいつの間にか降り止んでいた。
一人増えた仲間と共に帰路につく。
先程まで戦っていた場所には、雨で流されたのか戦いの痕跡は何一つ残されていなかった。
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