2.出会い
2話目です。
ファンタジー要素が次回から出てきます。
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よろしくお願いします!
次回、9月17日21時投稿予定です。
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今日もいつもと変わらない、俺の愛する普通の日常が始まる。いや、始めなければならない。昨日の出来事が何だったのかは、分からない。頭の何処かに違和感を感じる気がするが、そんなことに俺の普通の生活を壊されては堪ったものじゃない。この生活を続けるのは、俺の使命なのだから!
「何か、今日のお前変じゃない?」
陽介がいつもより、少し真面目そうに聞いてくる。
「悩みがあるなら言えよ?隠し事なんて水くさい」
考えてみれば、こいつに隠し事が出来た試しはないが、昨日の出来事を誰かに話す気には、どうしてもなれなかった。
「まぁ、言いたくないなら聞かないけど。いつでも聞いてやるからな」
なに、コイツ。イケメン過ぎて怖い。
そんな、普段通りの陽介に少し安心感を覚えた。そうだ。こんな事で、俺の普通の生活を棒に振るわけには行かない!
「サンキューな」
短く陽介に返し、二人で歩いていく。
その道が、もう俺の望んだ普通の日常へは戻れない、一方通行の未来に続いているだなんて、俺に分かる筈がなかったのだから。
◆
教室の窓際、後ろから二番目が俺の指定席。そこに、いつものように着席し朝礼の開始を待つ。ちなみに、1つ後ろの席が陽介の席。これが、女の子の幼馴染みとかなら、少しテンションも上がるのだが。
しばらくして、担任が教室に入ってきた。
「席につけー」
ここまでは良かった。いつもの流れだ。
「今日は転校生を紹介するぞー」
正直、嫌な予感しかしていなかった。
「大丈夫か?」
後ろ姿だけで余程気分が悪そうに見えたのか、陽介が声を掛けてくる。入ってきたソイツを見て、昨日の事を思い出す。冷や汗も出ていただろう。
大丈夫。そう返事をするために後ろを振り向く。とりあえず、昨日遭遇したのはオカルトの類いでないことは分かったのだから。
陽介は、少し驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「体調悪いなら、保健室いってくるか?」
そりゃ、死にそうな顔をしていたかもしれないが、そんな驚く事ないだろと思いながら。大丈夫と答え前を向く。
担任の横に立っているのは、うちの制服を着た、昨日と同じ吸い込まれそうな程きれいな、腰まである黒髪の少女だった。
じゃあ、自己紹介して。と担任に促され、口を開く。
「詩道 楓です。よろしく。」
昨日のような、頭痛は起きないが良い気分ではない。
「じゃあ、とりあえず後ろの空いてる席に座って」
よりによって、都合良く空いてる席が俺の隣だ。ってか俺の隣って誰も居なかったか?頭が混乱してくる。
詩道 楓と名乗ったソイツは俺の隣に座る。
これが、普通の女の子の転校生なら、俺も少しは嬉しかっただろう。昨日の出来事がなければ、普通にかわいい女の子だ。そう見える筈だ。今の俺には、隣に座っているコイツは、別の異質なナニカに見えてしまっている。
とりあえず、このまま早く1日が過ぎるのを願うことしか出来なかった。
◆
俺の不安とは裏腹に、本当に何もなく1日は過ぎていった。イベントといえば、隣の席に休み時間の度に人が集まり、詩道が質問を受けていた位だ。
どこから来たとか、なんで転校してきたのかとか、転校生への質問テンプレートだった。
俺は、話を聞く気になれなかったし、離れることが出来るなら、あまり近くには居たくなかった。休憩中は出来るだけ席を離れていたので、どんな会話をしていたかまでは分からないが、返答が無愛想な返事だけだってのは、何となくクラスメイトの反応を見ていて分かった。
休憩時間の度に、集まる人数は減っていき、昼御飯の時間には、誰も近寄らなくなっていた。
もう少し愛想くらい良くしろよ、っと余計な考えを持ったりしたが、すぐに振り払う。
とにかく、コイツとは関わらない方が良い。
1日の終わりを告げるチャイムが鳴る。こんなにも、この音を待ち望んだことはない。いや、いつも待ち望んではいるが……
俺は、足早に席を立つ。とにかく1秒でも速く、この場所から離れたかった。
校舎を出ようとしたとき、
「ちょっと待てよ」
と声を掛けられ一瞬体が強ばったが、声の主は陽介だった。
「今日のお前、様子がおかしいから一緒に帰るよ。途中で倒れでもしたら大変だしな」
正直、安堵した。今日も帰り道にアイツと出会ったら。考えただけで、頭がおかしくなりそうだった。
気を紛れさせるように、陽介と他愛のない話をしながら帰る。昨日、アイツとすれ違った道に入る前は、ビクビクしていたが何事もなく帰ることが出来た。ご丁寧に家の前まで送ってくれた陽介に、今日ばかりは感謝の気持ちで一杯だった。
翌日、何事もなく登校し席についた。
授業を受ける為に、教科書を取り出そうと机の中を漁る。
その中には、見慣れない文字で書かれた、メモ紙が入っていた。
『放課後に屋上へ』
誰の書いたメッセージなのかは、嫌でも分かった。
これが、青春の甘酸っぱい1ページになる筈が無いということも。
読んで頂き、ありがとうございます!