28.探しモノ⑧
◆
詩道と【琥王】は大きな力がぶつかり合っていた方に向かって走る。
「急に虚像が消えたけど、これって良い意味かしら?」
走りながら【斬魔】に問いかける。
『アイツがそれ程追い詰めたか、足止めしておく理由が無くなったか。多分前者。でしょ?』
【斬魔】は詩道の中から同じく走る【琥王】に同意を求める。
『あぁ。りゅうの気配を感じた。余程の事がない限り負けるなんて事は有り得ないだろうが……』
【琥王】が少し言葉を詰まらせる。
『少しだけだが、一瞬りゅうの力が弱まった。何か問題が有ったのだけは確かだな』
【琥王】の言葉に不安が胸をよぎった瞬間、大きな音と共に閃光が目に写った。
その光の正体が落雷であることと、それが自然現象でないことは放つ力で同時に確認できた。
『りゅうのヤツ、派手にやってるな……だが、アイツの勝ちだろう。相手が神ならまだしも、アレを受けて無事な人間なんて居やしない』
【琥王】の言葉から僅かだが安堵が現れる。
《紫電一閃》
直接この目で見たのは数度だが、確かに人間がまともに受けきれるモノではない。
アノ技を基に、《斬光》は作り出したのだから。
本物には程遠いが……
アレを攻撃と認識できるのは神の奴ら位だろう。
稲妻と同じ速度での攻撃。大抵の相手に対しては、不可視で不可避の一撃。
使用者の負担も通常であれば、相当なモノの筈だ。以前のアイツは自身の力によって相殺していたが……
今のアイツは大丈夫だろうか?
疑問は不安になり、不安は焦りになる。
走る足に力がこもる。
頬に雫が触れる。
ポツポツいう雨音と共に空は薄暗くなり、本格的に降りだした所で視界にアイツが入る。
その場に立ち尽くし、ユーイの姿は見当たらない。
声を掛けようとして一瞬躊躇する。何処か声を掛けづらい雰囲気を感じて、少しずつ歩いて近付く。
こちらに気付いたのか、私たちを見る。その表情は戦いに勝利し笑っている筈なのに、なぜか悲しんでいるように見えた。
◆
雨に打たれながら立ち尽くす。
終わった。
絶望的だと思われた戦いに勝利した。
後悔はしていない。俺が戦わなければ大事なモノを守れなかった。仲間を守るための行動に、後悔なんて言葉は付随しちゃいけない。
人の気配を感じてそちらに目をやる。
そこには、【琥王】と詩道が立っていた。【斬魔】の姿は見えなかったが詩道の中に居るのだろう。
雨で濡れ始めている俺の貸した服は、汚れが目立っていた。向こうの戦いも決して楽では無かったのだろう。
そんな詩道達に向け、やったぞ!と精一杯の笑顔を作ったつもりだった。
だったが、詩道の俺を見る目は捨てられた子犬でも見ているかのようだ。どうやら、俺に作り笑いの才能は無いらしい。
ユーイに勝って、自意識過剰かもしれないが仲間を守れた。それは間違いなく嬉しいし誇らしい。
でも、戦う前の俺と今の俺では決定的に違う。
古い記憶が少しだけ戻った事と、人殺しになったという事だ。
【龍王】と話して、考えは纏まったが感情の整理までは付ける事が出来ないでいた。
一先ず、帰ろう。
身体も痛むし、何より疲れた。
詩道達に声を掛けようとした時、俺より先に口を開いたヤツがいた。
『トラ男!久しぶりじゃな!』
この場の空気感など意に介さず、ハツラツとした声の主は【龍王】だった。
いつの間にか日本刀の形態から、幼女の姿に戻っていた。手をブンブン振りながら駆け寄る【龍王】。
『あの程度の相手に出遅れるとは、まったく情けないヤツなのじゃ!』
『相変わらずうるせぇな。心配して損したぞ!』
少しは落ち着けと【琥王】がなだめる。
『お前こそ、途中で力が弱まってたのはどういう訳だよ』
【琥王】が【龍王】を問いただす。
「すまん!アレは、俺のせいなんだ……」
俺は【琥王】に向けて謝罪する。
責められる覚悟は出来ていた。
『りゅうのヤツがサボってたんじゃないかと思っただけだ。詳しい話は後でりゅうに聞くから、謝る必要なんてないぞ』
あっさりと許された……のか?当然責められるモノだと思っていた。
『妾はサボってなどおらぬのじゃ!まったく失礼なヤツなのじゃ!』
頬を膨らませ、露骨に不満を【龍王】が表す。
『そんな失礼なトラ男は放っておいて、気配は感じておったがそこに居るのはびゃ…』
何かを言いかけた【龍王】の顔に【琥王】が飛び付き口を塞ぐ。
何をするのじゃ!っとご立腹の【龍王】をちょっとこっちに来い!とまるで子猫を捕まえた親猫のように引っ張っていく【琥王】。
俺たちに声が聞こえない場所まで行き、何やら話している。
その姿を呆然と見詰めているしかなかったが、少しして一緒に戻ってくる。
「なんの話しをしてたんだ?」
『なんでもないのじゃ!気にするでない!』
逆にここまで言いきられると、追求できなくなってしまう。
『それより、さっきの続きじゃ!ざんちゃん居るのじゃろ!?出てくるのじゃ!』
さっきからトラ男だの、ざんちゃんだの、アダ名が飛びっかているが大体誰を指しているのか分かりやすいのは助かる。
黙って詩道の方を見ると、
呼んでるよ。
まぁ気持ちは分かるけど。
と、どうやら【斬魔】と会話をしているのと渋っているのが伝わってきた。
しばらくして、観念したような表情をした【斬魔】が現れる。
蔑んだような顔か無表情な【斬魔】の顔しか見たこと無かった俺は、それだけでも十分に驚いた。
『ざんちゃんじゃーーーー!』
出てきた【斬魔】にいきなり抱きつく【龍王】。
『こっちはもーーーっと久しぶりなのじゃ!』
頬を相手の頬にすり付け喜びを全身で表す【龍王】。
『ちょッ……分かったから、落ち着いて。りゅうちゃん』
りゅうちゃん?
いま、りゅうちゃんって言った?
アノ【斬魔】が?
他人が見れば、小学生位の仲の良い女の子がじゃれあっている様に見えるだろう。
今迄の【斬魔】を知る俺は、あまりのギャップに驚きを隠せない。
『見るな。殺す』
俺にはいつもの【斬魔】だった。
目を反らして、見ていませんと表現するだけで精一杯だったが。
「おやおやおや。随分と楽しそうにしているじゃないですかぁ!」
背筋に悪寒が走る。
声のした方を見る。
そこには、二つの影が立っていた。
一つはクククッと笑いながら立っている男。
もう一つは心底めんどくさそうな顔をしている、ヤル気の無さそうなヤサ男。
悪寒の正体は嫌でも分かった。
コイツらは"神"だ。
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