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27.探しモノ⑦


「"蒼炎の爪"だけで僕の相手ですか?もしかして、僕の事をバカにしています?」


 【龍王】は答えない。

 ただ、まっすぐにユーイを見たまま動かない。


 戦意を失った俺は戦力外だ。

 自分一人で戦った方がマシだと【龍王】は判断したのかもしれない。


 【龍王】の言葉の意味を理解できなかった俺は、浅はかな考えで小さな幼女の後ろ姿を見る。


「僕は、"美神"アポロ様に認められた人間ですよ?」


 【龍王】に歩み寄るユーイ。それでも動かず、ただ相手を見つめ続ける。

 後ろ姿から、表情は見ることは出来ない。

 しかし、その後ろ姿からは確固たる意思を感じる。


「そんな目で僕を見るなぁぁぁぁ!」


 叫ぶと同時に、剣を握ったままの拳で【龍王】を殴り付けるユーイ。


 当然、軽く避けるものだと思っていた。


 その拳を正面からまともに受ける【龍王】。


「なっ……」

 

 息が漏れるような声を出すのが精一杯だった。


「反撃もしないとは!主が腰抜けなら、付き従うモノも同じと言うわけですか!」


 剣で切れば一瞬で終わる筈だ。


 それでも、鬱憤を晴らすように拳で殴り続けるユーイ。


「美しさには欠けますが、幼精を殴り続け変わり果てた姿を見たときの"名無し"の顔は、きっとアポロ様が喜ばれるに違いない!」


 元の余裕の表情は消え去り、狂気に満ちた顔で攻撃を続けるユーイ。


 あれほど力強さを感じた【龍王】の後ろ姿も、徐々に弱々しくなっていく。

 全身を打たれ、遂に片膝を着く。


 まるでボールを目の前にした子供のように無邪気に、無造作に【龍王】を蹴り飛ばす。


 ゴロゴロと力無く目の前に転がってくる女の子に、声を掛けることも出来ず目をそらしてしまう。

 服は汚れ、髪も乱れ、血こそ流していなかったがボロボロになった【龍王】。


 なんで。

 なんで反撃しない。

 防ぐことくらい出来る筈だ。

 避けることだって容易い筈だ。

 なんで。


 頭の中はグチャグチャで、マトモに考えることも出来なくなっていた。目の前で自分の仲間の幼い女の子が好き放題に殴られているのに、動けない自分自身が理解できなかった。


 ユーイに対して怒りは持っていた。

 ならば殺せば良い。

 人間であるユーイを。この手で殺せば良い。

 しかし、意識に反して体は動かない。


『なぜ目を反らすのじゃ?』


 ボロボロの【龍王】が声を発する。

 俺は何も言えなかった。


『主様は、人間であるヤツを殺したくないのであろう?ならば、我らが死ぬしかあるまい』


 【龍王】の言葉に絶句する。


『殺したくない相手を殺す必要はないのじゃ。此処に居たのが、妾ではなく他の二柱(ふたり)でも同じ様にしたであろう』


 弱々しい声からも、【龍王】の言葉からは強い意思を感じた。


『妾達はそうあると決めておる』


 意味が分からない。頭が痛くなる。


「……なんでだよ」


 必死の想いで声を絞り出す。


「俺には人を殺す覚悟も、度胸もない!そもそも普通に生きてきて、こんな二者択一を迫られる事なんて無いぞ!俺には殺し合いなんて出来ない!俺の心は折れかけてるんだよ……」


 正直な気持ちを言ったつもりだ。

 こんなことなら、俺が大人しく一人で死んでいれば良かったとさえ思う。


『それでよいのじゃ。主様の思ったように進めば良い!』


 そう言った【龍王】と目が合う。


『心が折れかけた主様を支えるなど、妾達は()()()モノではない!心が折れたならば共にその場でうずくまろう!もう一度立ち上がるなら共に立ち上がろう!死にたいなら共に死のう!生きたいなら共に生きよう!妾の、妾達の心は、常に主様と同じなのじゃ!』


 言葉を放つと同時に、【龍王】の力が沸き上がる。


『ま、退屈な時は自由に遊ばせて貰うがの!』


 ニシシッと【龍王】が笑う。


 強い頭痛と共に、胸の中に言葉が浮かぶ。


 "俺の仲間は、俺が守る"


 今まで動かなかった体が動く。


「お別れの挨拶は済みましたか?退屈なお芝居でしたが、悲劇のスパイス位にはなるかもしれませんね」


 ユーイも同時に動き出す。


「ごめんな、りゅう。もう一度俺と一緒に戦ってくれるか?」


 【龍王】に声をかける。


『もちろんなのじゃ!少しだけ、懐かしい雰囲気なのじゃ!』


 再び光となり、俺の手に収まる。

 少しだけ。ほんの少しだけ何かを思い出した気がする。


「人殺しになる覚悟でも決めましたか!」


 ユーイが勢い良く駆け出す。


「違う。仲間を守る覚悟を決めた。いや、思い出した」


 斬撃を刀身で受け流し、そのまま反対に駆け距離を取る。


「威勢が良かった割には随分と距離をとりましたね。僕とアナタじゃ覚悟も意思も違う!」


 ユーイが叫ぶ。


「僕の住んでいた貧しい村は、アポロ様に燃やされました!しかし、美しさを買われ配下に向かえて下さった!貧困な暮らしに嫌気がさしていた僕を救ってくださった!そのアポロ様の恩に報いるため、アナタ達には死んでもらいます!」


 今までとは比べ物にならない程、大きな力を纏いこちらに向かってくる。


 恐らく、【琥王】達に向けていた力も回収したのだろう。


「行くぞ。りゅう」


『応!なのじゃ!』


 抜き身の刀身を鞘に納め、前屈みの体制をとる。

 

一撃の元に、全てを終わらせる為に。


『《紫電(しでん)》!』

「《一閃(いっせん)》!」



 一瞬の内にお互いが交差する。


 剣を振りかざした体制のまま崩れ落ちようとするユーイに、大きな地鳴りに近い音と共に落雷が落ちる。



 あとに残ったのは、ユーイだった消し炭と胸に残った小さな痛みだけだった。


 その痛みを洗い流すかのように、ポツポツと次第に勢い良く雨が降り注ぐ。



読んで下さりありがとうございます!


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