25.探しモノ⑤
◆
『どうするよ?この状況』
【琥王】がこちらを向いて呟く。
状況は、悪化はしないが好転もする気配が無い。
倒すのは容易だが、倒した端からまた増える。キリがない状況に、いい加減嫌気がさしてるのも事実だ。
「そうね。早くアイツの方に向かわないといけないのに」
気持ちだけ焦ってしまう。
「そんなにお急ぎになら無くても、ごゆっくりしていってくださ……」
相変わらず余裕の表情でユーイがしゃべるていたが、急にピタリと止まる。
「あなた方にとっては、良い知らせであり悪い知らせでもありますね」
少し表情を曇らせながらしゃべり出す。
「"名無し"が僕の顔に傷を付けました。これは一人で一矢酬いたという点では、良い知らせでしょう」
良かった。アイツもなんとか一人で戦えてるようだ。"残滓"との訓練も無駄にはなっていなかった。
「そんな頑張っている"名無し"に敬意を表して、先に始末する事にしました」
言い終わると同時に五体居たユーイの分身の内、二体が砕け散る。
「こっちの数を減らして、向こうに回そうって訳?浅はかね。この程度の戦力なら、いくら【琥王】が居なくてもアイツは倒せないわよ」
『違う。少しだけど、残りの奴らの力が増してる』
【斬魔】に言われて気付く。
「こちらは三対三で良いでしょう。向こうは僕が一人で相手をしますよ。こちらに回していた力は、回収しましたが」
そういうことか。
「分散してた力を回収したって訳だ。アイツがどこまでヤれるか、アイツ次第……」
【琥王】が言葉を止める。
「いや、なんとかなるかもな」
表情が少し緩んでいる。
「……?なに?何か良い案でも思い付いたの?」
【琥王】に訪ねる。
「特に無いぞ。とりあえず、こっちはこっちで相手をせいぜい楽しませてやろう」
少し余裕のある声で告げる。
流石に理由があるだろうが、今問いただしても仕方ない。無事に全員生き延びたらそれで良い。
再びユーイに向かって切りかかる。
どちらにせよ、一秒でも早く合流出来るのが一番だ。
◆
「さて、それでは始めましょうか」
ゆっくりと言い放つユーイが動き出す。先程までとは速さが違うが、反応出来ないほどではない。
ユーイの蹴りを腕で受け止める。
すぐに反撃をする筈だったが、一撃が重い。踏ん張っていなければ、吹き飛ばされていたかもしれない。
「先程までとは違う事が分かっていただけたでしょうか?このままアナタを殴り殺すのも良いですが、少し美しさに欠けると思います。ですので少し趣向を変えましょう」
そう言ったユーイの手には、先程までは無かった西洋の騎士が使うような剣が握られていた。
「武器なんてあったのかよ!?」
こっちは素手だ。それに、見かけ倒しって訳でもないだろう。
"残滓"との訓練も、基本は素手同士の戦闘訓練だった。武器相手の戦い方は詩道と戦った時以来だが良い思い出はない。
とりあえず、距離を取ることしか思い付かなかった。後ろに下がるが、簡単にさせてくれる訳もない。
俺が下がるのに合わせ、ユーイも距離を詰める。
武器の長さが思ったより長い。
かわしたと思ったが、少し首を掠める。
一瞬、冷たい感覚を覚える。
首をさわるとヌルッとした感触。さわった手には赤い血が付いていた。
「残念ですね。今ので首が飛んでいた方が楽でしたよ?」
薄ら笑いを浮かべ、剣先をこちらに向けるユーイ。
纏う力は体の負担を無視して、出来る限り強くしている。それでも、防ぎきれなかった。
そこからは、同じことの繰り返しだった。
攻撃をギリギリでかわし、少し肌を切られる。
腕、足、腹。
少しずつ、切り傷が増えていく。
嫌でも分かった、コイツは遊んでる。纏った力も関係なく、傷付けられる。
そう考えた瞬間、全身に悪寒が走った。
「惨めですね。憐れですね。アポロ様もその姿を見て、きっとお喜びでしょう!」
心底嬉しそうに、ユーイが叫びに近い声で喋る。
このままじゃマズイ。
とにかく、あの剣を何とかしないと一方的だ。俺に白刃取りでも出来る度胸と技術が有れば良かったのだが、失敗すれば死ぬという考えがその選択を拒む。
ユーイを見据え、次の手を考える。
「その目、気に入りませんね。もっと怯えた目をすれば良いのに、そのような挑発的な目をされては抉りたくなるじゃないですか」
全身に鳥肌が立つ。
「アナタが悪いのですよ?恨むなら、自分の愚かさを恨んでくださいね?目を無くしたくないなら、どうぞ守ってください。その代わり四肢のどれかを頂きます」
ユーイが動き出す。
流石に目は失いたくない。かといって、露骨に目を庇えば他の四肢を切り落とされて終了だ。
死を覚悟した。
『不快なのじゃーーーーーーーーーーー!』
突然大きな声が聞こえる。
その声に反応し、ユーイも動きが止まる。
声の主は、ユーイの後方にいた。
そこには可愛いドレスを着た、金髪の幼い女の子が立っていた。
パリッ
乾いた音が聞こえた。
その瞬間、後ろに立っていた幼女は俺の前に立ちユーイと正面から向き合っていた。
『主様に、このような仕打ち。温厚な妾も勘弁ならぬのじゃ!』
おやおやと、ユーイが薄ら笑いを浮かべる。
「予想外のお相手ですね。まさか"蒼炎の爪"が出てくるとは、惨めな主の助太刀ですか?」
"蒼炎の爪"
確かにそう言った。つまり、この幼女が【龍王】なのか?
俺がそう考えていると、幼女がユーイに向かって言葉を放つ。
『小童が、不快だと言ったじゃろ?これ以上、妾の逆鱗に触れるでないのじゃ』
その言葉には、有無を言わせぬ迫力と威圧感が籠っていた。
ユーイはその表情を固め、俺は息を飲んだ。
読んで下さりありがとうございます!
感想、評価、ブクマ頂けると励みになります(*^^*)
下の☆をポチッとお願いします( ☆∀☆)




