19.神の円卓①
◆
薄暗い広く大きな部屋。部屋というより、大きな建物そのものと表現した方が近いかもしれない。
中の光源は中央にある円卓と周囲の柱に付いている燭台の明かりだけの為、その全容は分からない。
部屋の入り口の大きな扉が、勢い良く開かれる。
その瞬間に、ガハハハハハと大きな笑い声が響き渡った。
「いやはや!我としたことが、全くもって情けない結果となってしまった!」
言葉とは裏腹に、悪びれた様子もない大男がソコに立っていた。
神の先鋒"軍神"アレスである。
アレスが中央の円卓に目を向ける。座っている影が三つと空席が三つ。空席の一つは自分の席だ。
「兄弟たちよ!久方ぶりではないか!」
自分の席に座る。大柄な男には少々窮屈な椅子である。
「先ずは、我等が兄弟である"軍神"の帰還を喜ぼうではないか」
最初に口を開いたのは、自分の正面に座る口髭を蓄えた初老の男性だった。
小柄で初めて姿を目にした者には、弱々しく見えるかもしれない。しかし、内包した存在感と力を感じ取れる者は見掛けには騙されない。その逆鱗に触れれば無事で済むものなど存在しないだろう。
「クククッ。また煩いのが帰ってきたものです。最近は静かで良かったのに、これでは円卓の秩序が乱れてしまいますねぇ」
初老の男から右に一つ席を空け、座る男が口を開く。
「ガハハハハハ!相変わらず、陰険な事をいうものだな!"美神"よ!」
「その品の無い笑い声を、どうにか出来ないものですかねぇ。体格は好みでは無いですが、顔の作りはまぁまぁなのに勿体無い。そうは思いませんか?"裁神"殿」
「静かに」
一言で空気が張り摘める。
"美神"の呼び掛けに答えた"裁神"が口を開いた。
初老の男の隣に座る、綺麗なストレートの金髪。顔立ちは当然の如く整っており、声からもその気品が滲み出ている。
「やはり貴女は、本当に美しい!この"美神"が美しいと認める、数少ない神の一柱だ!」
「私は静かにと言いましたよ?"父上"も聞いていらっしゃいます。これ以上の無駄口を続けるなら、貴方から裁きます」
クククッと笑いながら、少し不満げな表情を浮かべ"美神"が押し黙る。
「すまぬな"裁神"!手間を取らせるが、先ずは我の裁きであろう!このような失態だ!如何様な罰も甘んじて受けよう!」
右手で、肘から先が無くなった左手を押さえながら"軍神"が申し入れる。
「私は、理由無く罰することは有りません。"軍神"。貴方の話をお聞かせ願えますか?その左腕を失った経緯を含めて」
声は酷く穏やかだが、嘘偽りは無意味であると感じさせる凄みがこもっている。
異世界での出来事を詳細に語る。
向こうに、"名無し"が居たこと。兄弟の実験で生まれた化物が居たこと。その戦闘によって、自分が左腕を無くしたこと。
何一つ、包み隠さず話した。
自分は悔いてはいなかった。正面から戦い、神器を持っていなかった事を踏まえても、奴らは十分に"軍神"と渡り合ったのだ。恥ずべき事は何も無い。
「只一つ!我の意見が通るなら、次は万全の状態で奴らと戦いたい!次は遅れを取るまいさ!」
自分の行いを悔いる筈がない。我等は神だ。己の行いこそが、絶対正義なのだという考えは揺るがない。
だが"軍神"が負けたままで終わることは、有ってはならない。
「貴方の考えは分かりました。勘違いしている様ですが、元より貴方を罪に問う考えは有りません」
それに、と"裁神"が続ける。
「ここで、負けた貴方を裁くと言っても素直に受け入れる様な目をしていませんよ」
見抜かれていたか!やはり、隠し事は至難!
「許せ"裁神"!しかし、数百年ぶりの敵と呼べる存在だ!"軍神"として、敵を叩きのめさずに朽ちることは許されぬのだ!」
「良いでしょう。その左腕をもって今回の失態への罰とします。貴方もそれを望んでいるようですし」
アレスへの審問は終わった。
しかし、疑問はまだ残っている。
「"美神"よ!あの化物は、貴様の実験とやらで出来た副産物では無かったか?てっきり廃棄したものと思っていたが、何故向こうに居たのだ!」
"美神"に問いかける。
「私にも分かりませんねぇ。あの実験に利用した村は廃棄した筈ですし、貴方と違って自分自身で戦うなどという無粋なことは極力避けたいので、後始末も僕にさせましたしねぇ」
両手を顔の横に持っていき、肩を竦め首を左右に振る。
「どちらにせよ、私の不始末のようですねぇ。私の僕を
向かわせましょう。おいで」
"美神"の呼び掛けに答えるように、影から一人の少年が現れる。
横に跪き、"美神"の手に口付けをする。
「その小僧……人間か?」
光の無い目をした少年を見て問いかける。
「クククッ。そうですよぉ?可愛いでしょう。私のお気に入りです」
何か進展が有れば、兄弟達にもお伝えしますよ。と"美神"が席を立つ。
「我も、門を破るのに骨を折った!少々疲れたのでこれで失礼する!」
続いて席を立つ。
「"軍神"よ、兄弟の邪魔はするでないぞ」
初老の男。いや、
"主神"が口を開く。
ガハハハハハと笑いながら部屋を後にする。
流石に鋭い!怒らせるのも面倒だ!おとなしくしていよう!
折角の敵と自分自身で戦いたかったが、これで死ぬようであればそれまでだったと諦めよう!
「しかしだ!兄弟達よ!」
いつも大きな声で、正直に喋る"軍神"には珍しく小声で呟く。
「アレを甘く見ていると、痛い目に合うぞ」
部屋を出て通路を進む。
そこには、フードを被った兄弟の一柱が立っていた。
「おぉ!会えないと思っていたぞ!丁度聞きたいことが有ったのだ!"反神"!」
フードの影から緑色の髪が覗く。
その瞳は、翡翠のように輝いていた。
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