17.変化した日常③
「防御力は前回と同じ。今回は反撃もするようにしたわ」
ひっそりと難易度が上がってるらしい。
今まで学んだ事を実践する。
武器として使わなければ良いらしいので、自分の中にある【琥王】の力を全身に纏う。いつもと少し違う力も感じた。おそらく【黄泉】のモノだろう。そのまま、二つを混ぜるようにイメージして纏う。
◆
『これで情けない結果になったら、ホントに我慢できないかも』
「苦戦はしょうがないと思うけど、負けるのは流石に不味いわね。力の使い方をしっかり思い出して貰わないと」
【斬魔】と今後の展望について話す。この結果によっては、【琥王】に反対されても、強行策を取ることも考えなきゃいけない。
【琥王】を見る。
退屈そうに毛繕いをして、のんびりしている。少し気を抜きすぎじゃないだろうか。弱い《残滓》が相手とはいえ、まともに反撃を受ければ普通の人間なら軽いケガではすまない程度の破壊力は持っている。
これだから幼精は当てにならない所がある。自注奔放というか、とにかく私がしっかりし……
ドゴンッ
大きな音が響く。
音の方に急いで目を向ける。ソコには脳裏に一瞬過った嫌な予感とは裏腹に、攻撃を放ったままの体制で固まるアイツの姿と吹き飛ばされた《残滓》が目に入った。
なっ…と思わず声が漏れ、目を見開く。
何より、一番驚いているのは固まったままコチラを振り向いた本人のようだった。
◆
全身に纏った力が混ざり、普段より大きな力になっているのを感じる。
一度対峙したことのある影人間と再び向かい合う。
今度は素手で。
前回は普通に【琥王】で切りかかってもマトモにダメージが入らなかった。しかも、防御力が前回と同じって……無理だな!さらに反撃までって…とりあえず、今纏ってる力の感覚では防ぎきれそうな感じはするが。
考えても埒が明かない。
一歩踏み込む。
自分で思った以上に体が軽く、一気に相手に近付く。
内心うわッと驚く。影人間は攻撃と受け取ったのか、相手がカウンターよろしく拳で攻撃を合わせて来る。
相手の動きが比較的ゆっくりに見える。動体視力も強化されてるのかもしれない。
攻撃をかわした先に、がら空きの胴体が目に入る。
そこ目掛けて、右肘を打ち込む。
影人間の体に肘がめり込む。
その瞬間、相手の体が弾け飛び瓦礫に突っ込み大きな音と土煙を巻き上げる。
自分としては攻撃だったので力は込めたが、ここまで相手が吹き飛んだのは予想外だった。影人間は瓦礫に埋もれたまま動かない。
詩道達の方を見る。腕組みをして、うんうん。と頷いている【琥王】と目を丸くして驚いている詩道。
まぁ、俺が一番驚いているのは確信しているが。
『ま、こうなるだろうな』
【琥王】が口を開く。
『いくら記憶が戻っていないとしても、今コイツは俺様と【黄泉】の力を纏ってる。《残滓》も見る限り、向こうの人間の訓練用だろ?俺様の力だけなら、記憶も経験も無くして苦戦したかもしれないが』
俺と詩道は固まったまま【琥王】の話を聞く。
『今のコイツは、そこいらの人間とは既にレベルが違う。前回の"軍神"との戦いで、無自覚だろうが力の使い方も、体の動かし方も変わってる。今までの比じゃないさ』
少しの沈黙の後、先に口を開いたのは詩道だった。
「状態は分かったわ。《残滓》の調整もしておく」
いつの間にか黒い玉に戻った《残滓》を拾い上げ、【斬魔】に声を掛け結界を解く。
「色々考えたいから、今日はここ迄にしましょう」
歩き出す詩道を見て、俺も急いで後を追いかける。
「勉強!忘れてないだろうな?」
こっちを振り向き、少し呆れた顔で分かってる。と詩道が呟く。俺にとっては、今の出来事も十分衝撃的だったが明日の小テストも十分な一大事なのだ。
◆
空が夕日色に染まりはじめた頃、ひとつの小さな人影が人通りの少ない町の商店街を歩いている。
ガラス越しに商品の並ぶ店を、キラキラと蒼色の目を輝かせ見て回る様子は、幼い子供を思わせる。
「君、迷子かい?お父さんかお母さんは?日本語わかるかな?」
付近に居た警官が女の子に声を掛ける。
警官が戸惑うのも無理はない。見た目は小学校低学年位の背丈で、金髪、瞳の色は透き通った蒼色で、フリフリの外国のお嬢様が着ているような服装をしている。
「観光客が来るような場所じゃないんだけどなぁ……」
警官が呟く。
『なんじゃ?お主、妾に話しかけておるのか?』
「へッ…あ、あぁそうだよ。日本語伝わるんだね!お父さんかお母さん近くに居るかな?」
見た目は完全に外国人だったので、不意な日本語に驚くが直ぐに自分の責務を思い出す。吸い込まれそうな透き通った瞳を見つめ返し、しゃがんで目線を合わせる。
『?……なんじゃ?それは』
予想外の返答に言葉を失う。
『見たところ、衛兵のようじゃな!妾の心配は無用なのじゃ!お主は自分の責務を全うするがよい!』
そう言い、またキョロキョロしながら少女は走り出す。
本来ならば保護するべきだろう。しかし、瞳に魅入られたのか、呆然と少女の後ろ姿を見送ることしか出来なかった。こんなことはあり得ないと自分に言い聞かせるが、本能で感じてしまった。
"アレ"は人じゃない。
『しかし、"軍神"の気配と懐かしい感覚で近くまで戻ってきたのは良いが……また元に戻ってしまったようじゃな。それではつまらん!幸いにも、ここも面白そうなモノが多そうじゃ!退屈になったらまた遠くまで遊びに行くのも楽しそうじゃし!』
少女は暗くなり、明かりが付き始めた商店街を走り出す。
自分の欲求に正直に。楽しいモノを求める。
それが、何より自分らしく。
幼精らしい。
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