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15.変化した日常①



 外から鳥の鳴き声が聞こえる。

 目を開き体を起こす。全身の怠さと痛みは嘘のように無くなっていた。

 最初に見えたのは、俺の布団の上で丸くなり眠っている小虎だった。こうしてみるとホントに只の猫にしか見えない。


『身体の調子はどうだ?』


 眠っているものだと思っていた【琥王】から声が聞こえた。


「違和感とか痛みはないかな。大丈夫だと思う…多分」


『【黄泉】がずっと力を流してるからな。傷の治りも疲れが取れるのも今までの比じゃないだろうさ』


 どうやら、昨日話に出た【黄泉】って名前の味方?のおかげらしい。


「てゆうかお前眠ってたと思ったから、急に喋るからビックリしたぞ」


『俺様達には基本的に睡眠は必要ないからな。目を閉じて瞑想してる感覚に近いぞ』


 なるほどなぁ。幼精とやらの無駄知識が、朝から一つ増えたなと考えながら学校に向かう準備をする。


 準備を終え、部屋を出る。

 無視して行くのも何か変な気がして、向かいの部屋の扉を叩く。

 どうぞ。と短く返事が返ってくる。


 扉を開けると、制服を着た詩道が立っていた。

 【斬魔】の姿は見えなかった。


「何かよう?」


「何かって……学校行くから一応声掛けとこうと思っただけだよ」


 そう。と短く詩道が答える。


「私は行かないわよ。行く意味も無いし」


 それもそうかと思ったが。


「一緒に行動してた方が何かと都合が良いんじゃないか?また変なのが来るかもしれないし」


「昨日も話したけど"六神"クラスの敵は暫く来ないと思うわよ。"軍神"が門から出たら【黄泉】が何か言ってくる筈だし」


 しれっと初耳情報を聞いた。


「とりあえず一緒に行こうぜ。理由は無いかもしれないけど、俺がそうしたい……気がする!」


 一瞬だけピクッと反応したように見えた。馴れ馴れし過ぎたかもしれない。怒られる前に退散しよう。


「まぁ、嫌ならしょうがーー」


「良いわ」


「へっ」


 急な変化に間抜けな声が出てしまう。


「行っても良いわ。記憶が戻る切っ掛けになるかもしれないし」


 急に心変わりした理由は知らないが、行く気になったのは良いことだ。


『死ぬ気で思い出しなさい。無駄手間にならないように』


「は、はい……」


 もともと辛辣な【斬魔】だが、いつもより迫力が増している気がした。怒らせるようなことは……したかもしれないが。



 学校への道のりを二人で歩く。

 同じ場所から出発して目的地が同じなのだから当然だが。女の子と通学路を歩くのなんて初めてだし、少し恥ずかしい気もする。誰にも見せられないような…


「よっ!珍しい組み合わせだな」


 急に肩を叩かれヒッと情けない声が出る。

 振り返ると見慣れた顔があった。陽介だ。

 思えば、めちゃくちゃ久しぶりに会った気がする。実際、放課後に詩道と揉め事があった時以来だから、かなり久しぶりなんだが。


「最近休みがちだったけど大丈夫かよ?心配して連絡したのに返事もおかしいし」


 陽介への言い訳考えてなかった……

 モゴモゴしてあたふたする俺と詩道を陽介は交互に見る

 あー。と何かを察した顔で


「そう言うことか?」


 違う!心が読めるわけじゃないが、陽介が何を考えてるか分かる!絶対にお前の想像とは違う!


「そんな必死な顔しなくても大丈夫だよ!冗談だって、冗談!」


 俺の圧が効いたのか、陽介は笑って流す。


「メールもまともに返せない位なら俺を頼れよ?水くさい」


 相変わらずイケメンだった。

 サンキュといつも通り軽く返事を返す。俺の普通の日常が返ってきた気がして、少し表情が緩む。そんな俺を見てフンッとあからさまに詩道が顔を反らし足早に進んでいく。


「……俺、なんか気に触ること言ったか?」


 陽介が俺に耳打ちする。

 気にするな。心配する陽介に答え、詩道を追いかける様に三人で学校を目指した。



 今までと変わらない。

 普通に授業を受ける俺。違った事と言えば、教室に入ったときに珍しい三人組だったので注目を集めた位か。


 当然ながら、授業は頭に入ってこない。

 授業中の暇潰しと言うと仕事中の教師に失礼かもしれないが、横目で詩道を見る。

 一応真面目に受けている様に見える。


 俺が学校に来たのは微力ながら抵抗のつもりだった。数日の間に起こった非日常の出来事。少しでもいつもの日常に戻りたくて学校に来たのだ。


 目線の先の少女について考える。

 最初に感じていた懐かしさのような感覚は、強く大きくなっている。


 本当に殺す気はなかったらしいが、一度殺されそうになった身としては変な感情かもしれないが、横顔は作り物の人形のように整って美しいとさえ思う。美少女と呼んでも異論を挟む者の方が少ないだろう。


 視線に気づいたのか目線が合いそうになり、慌てて視線をそらす。


 多分アレだ。今まで経験したことがないような、危険な思いをした時に一緒に居たから、吊り橋効果だっけ?そのせいだ!うん!

 自分に言い聞かせるように考え納得する。


 あとは、詩道が口に出した"サリア"についてだ。


 その言葉を聞いたとき、脳裏に浮かんだ映像。


 詩道に感じるのとは別のような気もするが、懐かしさを覚えたのは事実だった。ここまで知らない顔に懐かしさを覚えると、本当に自分が忘れている記憶が有るんじゃないかと自分自身を疑ってしまう。


 それに……

 映像の最後に見えた、辛いような悲しいような厳しい表情。その表情を見ても、恐怖や怒りみたいな負の感情は一切出てこなかった。


 きっと俺の記憶とやらが戻れば、全て分かるんだろうと漠然と考えながら久しぶりの日常生活を、もう一度噛み締めながら過ごすことにした。



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