14.少女の葛藤
詩道サイドのお話です!
少女の思惑と気持ちとは、、、
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扉が閉まったのを確認し、床に座り込む。
『大丈夫?【黄泉】の力で回復はしてきてるけど、アナタも私も力は使い果たしたんだから無理しちゃダメ。まる一日眠ってたのはアナタもなんだから』
【斬魔】の心配する声が聞こえる。
「うん。ちょっと疲れちゃったけど、今は大丈夫よ」
そう答えると、【斬魔】の口調が少し厳しくなる
『大丈夫ならいい。そこにキチンと座って』
「えっ。でもちょっと疲れたかな~……なんて」
『今は大丈夫なんでしょ?それとも私に嘘をついたの?』
「はい…」
見た目は小学生程の【斬魔】が、自分より大きな相手に対して仁王立ちするという奇妙な光景が現れる。
『なんで怒ってるか分かる?』
「冷静になれなかったからです」
【斬魔】迫力に思わず敬語が出てしまう。
『"軍神"は"六神"の中でも、腕力だけなら一番。そんな相手に我を忘れて突っ込んで勝てる訳がない』
言われるまでもなく、自分自身が一番痛感している事実だった。冷静に対処していれば、ここまで深傷は負わなかった。無理矢理《二式》まで使って【斬魔】にも負担を掛けた。
『本来の《二式》なら、アナタの動きも簡単には捉えられない。まして反撃を食らうなんて、相手が"軍神"だったとしても判断が鈍ってた証拠』
「ごめん…」
自分の弱さに腹が立つ。
"軍神"の攻撃の瞬間、【斬魔】が力を集めて守ってくれなかったら、この程度では済まなかった。
今度は私が守るつもりでいたアイツにも守られてしまった。
口の中に血の味が広がる。唇を強く噛み締め過ぎたようだ。今の自分にはあまりにも軽い罰だが、甘んじて受け入れよう。
ふわっと柔らかい物に包まれる。
【斬魔】に抱き締められていた。
『気持ちは分かるけど焦っちゃダメ。アナタを苦しめた奴らには、必ず報いを受けさせる』
さっきまでの雰囲気が嘘のように優しい声が聞こえる。
うん。と短く返すのが精一杯だった。
「もう大丈夫だよ。ありがとう」
落ち着いてから、自分より見た目が幼い【斬魔】に抱き締められている状況に少し恥ずかしさを感じる。
『別に今は二人なんだから気にしなくて良い』
「それはそうだけど…」
『それに、こんなに気が抜けて話してるのも久しぶり。向こうでは、ずっと気を張ってたのに。アイツが近くにいるから安心してる』
【斬魔】の抱き締める力が少し強くなる。
『私と二人だけじゃこんなに落ち着いてない』
不満げな声で【斬魔】が喋る。
「そんなこと……ないよ。【琥王】が居るから、何かあった時も対処できるとは思ってるけど…」
『ホントにそれだけ?』
うん。と答えるより早く体が離れ、肩を持ちじっと吸い込まれそうな紅い眼で見つめられる。
『じゃあ何で【サリア】の名前を出したの』
嘘は許さないと強い意思を感じる。
「……深い意味はないわ。アイツと関わりが一番深かったから、記憶を取り戻す切っ掛けになると思っただけよ」
嘘は言っていない。恐らくアイツと向こうで、一番長い時間一緒に居たのは彼女だ。
『自分の名前を言えば良かったじゃない。アイツが天草克也って名乗ってるのも癪だけど』
思わず眼を反らしてしまった。その結果も【斬魔】にはお見通しだったのだろう。
『それでアイツが何も思い出さないのが怖かった。違う?』
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。自分自身でも良く分からない。うまく言葉に出来ず目線を泳がし、口をパクパクさせる様だけで十分だったのか、【斬魔】は少し口許を緩める。
『もういい。意地悪しすぎた』
どうやら、追求の時間は終わったらしい。
『最後に今後の私たちの方針だけ決めておく』
【斬魔】が真面目な口調に戻る。自分も気持ちを切り替える。
「とりあえず、力を取り戻させるのが優先ね。力が戻れば一緒に記憶が戻る可能性も高いと思うわ」
『そうね。でも【琥王】の話だと【龍王】は待ってられなかったみたい。遊んでくるっていってそれっきりらしい』
「【龍王】らしいといば、らしいわね…」
『【黄泉】も基本的には傍観みたい。主の言葉にしか興味がないだろうから、周りが何を言っても無駄だと思う』
近くにいるのに助力が得られないのは痛いけど…
「それでも【黄泉】のお陰で、私の力もかなり安定してる。暫くはこのままで問題ないと思う」
アイツが力の繋がりを切るように指示しなければ、多分この状態が続くだろう。
『【琥王】も、なんで記憶を無くして今に至るか経緯は教えてくれたけど、理由は教えてくれなかったし』
私たちも全てを把握しているわけじゃない。当事者じゃないと分からない事も多い。それに、
「こっちに来る前に大体の情報は仕入れたけど、人間の生活は向こうと変わらない。人間は家族を形成する。その中で一人で生活してるのはおかしい」
明らかにズレている。それは本来の記憶を無くし、作られた記憶の綻びに見える。
『一先ずやれることを確実にこなしていこう。問題は多いけどきっと上手くいく』
【斬魔】が区切りをつける。私たちにも休息が必要だ。
床にそのまま寝そべる。
コンクリートの固い地面に比べたら快適だ。
【斬魔】も幼女の姿のまま私の横で眠るらしい。私の中に戻っても良かっただろうけど、気を使ってくれたのかもしれない。
アイツとまた一緒に行動できると考えると悪い気はしない。昔に戻った様な気がする。そんな甘い状況じゃないのは分かってる。それでも胸が高鳴るのを感じた。
【斬魔】にはこの気持ちは言わない方が良いと思う。きっと良い顔はしないだろうから。
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