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他の転移者達



      ヘンゲラリ大陸南東地方タグジャナ川の南・通称『ジョバーナの森』。

 森の名前は『ヘンゲラリ神話』に登場する森の精霊・ヘクハジョバーナから来ている。

 温暖な気候で降水量が多く豊かなマングローブ林と多様な生態系が織り成す雄大な自然は雄々しく儚く、そして美しい。

 この森の周辺の街・ウタオンヴァで採れるパプゼという花は染料に加工され世界中に輸出されている。

 豊かな自然に守られたこの地は、『マングローブと水の街』として、多くの観光客が訪れる、世界的な観光名所である。

 

 


 『暴龍神』・ギガノトサウルス・バルドレウスはその森を歩いていた。


 スカイブルーの髪に金色のイナズマ模様が走っていて、その髪を後ろで結んでいる、白いコートで身を包んでいる強面の男。

 身長は180センチ以上はあり、目は赤と金のオッドアイで、その眼光は鋭く、常に殺気立っているかのように思えてしまう。

 その容姿のせいで剣呑な雰囲気を醸し出している。

 

 世界最強の一角、1600代目『暴龍神』にして、暴龍族最後の生き残り。

 神の名を冠する南米最強の男。

 彼は突然この世界に転移したのではない。ある人物を追ってこの異世界にいるのだ。

 そのある人物とは何者なのか、まだ誰にもわからないのだが。

 今日は訳あって人間体として活動している。


 彼は今、この世界で生活するために、『冒険者』をやっている。

 冒険者という職業は冒険者ギルドという場所で依頼を受けてモンスターを討伐したり、傭兵や剣術師範、商人の護衛など様々なことをやる派遣社員のようなものだ。

 中にはパーティーという6人くらいのチームで活動する者もいるという。

 冒険者には冒険者カードという名刺のようなものがあり、そこに年齢や種族、使える魔術などが記載される。

 原則として冒険者カードは一年ごとに更新しなければならないが。

 そして冒険者にはランクがあり、上からS、A、B、C、D、Eとなっており、ランクが上がれば上がるほど依頼の報酬も増えて、その代わり以来の危険度も増してくる。

 

 現在のバルドレウスのランクはSだ。

 つまり最上級ランク。

 今回彼が受けた依頼というものは、マングローブ林の北で暴れている大蛇を討伐するという内容だ。

 この大蛇は波のAランク冒険者が束になっても勝てないような討伐難易度の高いモンスターらしい。

 情報によれば毒を吐くとか。

 過去に何度も数々のパーティーが返り討ちにあっているため報酬も跳ね上がっているため、なんと成功報酬は金貨160枚。

 金貨一枚10000円だから、

 日本円にして1600000円。

 中古車は余裕で手に入る金額だ。まあこの世界には車すらないが。

 バルドレウスはとりあえずこの依頼を受けて今年の生活費を稼ぐつもりだ。

 もっとも彼は金になど微塵も興味はなく、ただこの世界での戦闘経験を積みたいからという理由だ。

 

 

 彼は早速近くの村で大蛇についての情報収集を行うことにした。

 切り開かれた丘の上にある集落に立ち寄った彼は、とりあえずそこらへんの農家の老婆に話しかけた。


 「冒険者ですが、この近辺にいると言われている大蛇を討伐しに来ました。何か知っていることがあれば教えていただきたいのですが」

 老婆は泥だらけの顔をタオルで拭いて困った顔で言った。


 「最近は飼っていた牛が3頭食われたね。うちの息子が見たっていうんだけど、なんでも一口って話だよ」

 「そうですか、ありがとうございます」

 「ああお兄ちゃんちょっとうちでお茶でもーーー」


 最後の言葉は聞こえなかったことにした。

 だが牛を一口と言うのならば、体調は20メートルは下らないであろう。しかも長年の冒険者達との戦闘経験によって、対策や戦い方も工夫しているはず。

 蛇という生き物は意外にも頭が回るものだ。


 そのあと5人くらいに情報を聞き入れて、村の自警団数十名とともにその大蛇の討伐へと向かった。

 そこは鬱蒼とした深い森の中で、薄暗くいかにも蛇が好みそうなじめじめとした土地だった。


 グチャグチャと湿った土を踏みしめて、自警団とバルドレウスは森を歩いていく。

 自警団はビクビクしていた。余程大蛇が恐ろしいのだろう。

 情報によればこの前自警団で討伐に向かったところ6人くらいが一気に死亡したらしい。

 

 彼らも日頃から訓練を欠かさず行っているようだが、それでもたかが辺境の集落の自警団。

 初心者冒険者以下の戦闘能力だろう。

 しかも相手は自分たちよりもはるかに強いAランクパーティーを何度も返り討ちにした化け物だ。

 恐ろしく思うのは当然であろう。


 しかしバルドレウスだけは涼しい顔をしていた。危機感を全く持っていないような顔にも見えたが、別に彼が余裕だなどと思っているわけでもなく、ただの『仕事』として捉えているからである。

 バルドレウスは少し開けた場所まで来ると、自警団に散開するように言った。

 固まると被害が大きくなるのは必然。

 弓を持つものには木陰に隠れてもらい援護するように頼み、剣や槍を持つものには自分の後ろから突撃するように言った。

 

 まだ戦闘は始まってすらいないというのに、妙に空気が張り詰めていた。

 午後二時くらいになった時だ。

 それはやってきた。


 バッがああああアアアアアアアン!!!!という大地が裂ける轟音が鳴り響き、割れ目から四十メートルほどの巨大な大蛇が姿を現した。

 「うアアアアアア!!?」

 自警団の半分はもう及び腰である。

 おそらく前討伐に行った時もこのような状態だったのだろう。

 

 大蛇は地を這いずり回り、その瞳でバルドレウスを睨みつける。

 四十メートルの巨体が迫るその迫力に圧倒された自警団は、もう半分以上が散りじりになり、中には泣き叫んだりちびる奴もいた。


 その中で、ただ一人、誰もが容易く破壊される中、バルドレウスだけが、退屈だった。

 

 「キシャアアアアアアアアアアアア!!!!」

 大蛇がバルドレウスの目の前で大きく口を開き、その体を飲み込もうとする。

 そしてあともうちょっとで牙が触れるくらいに迫った時、バルドレウスは右手を振りかざし、静かに呟いた。

 

 「秘伝・『乱鬼の剣』」 


 彼が手刀を振り下ろした直後のことだった。

 ズバシャアと大蛇が綺麗に縦に両断され、赤い血液を撒き散らしながら絶命した。

 赤い雨が周囲に降り注ぎ、バルドレウスのコートに染みていく。

 


 シーンと空気が静まり返る。その場に留まった自警団の誰もが、「え?もう終わり?」と思った。

 あまりにも呆気なく、どこか納得のいかないような風に、誰もが静まり返った。

 そんな中でも、ただバルドレウス一人だけが異質だった。


 この化け物相手に臆することなく、手刀を振り下ろしただけで殺し、平然としている。


 恐怖に近い感情さえ芽生えてきた。

 

 バルドレウスは胸からナイフを取り出して、固まっている若者達を呼び寄せて素材の剥ぎ取りを手伝わせた。

 その場に歓声はなく、ただベリベリという皮を剥ぐ音だけが響いていたのだった。


 バルドレウスはこの後素材の輸送を手伝い集落にその大蛇の皮を持っていったところ、村人達は歓喜に泣き、酒宴を開いたらしい。

 因みにバルドレウスは酒宴への参加を断り、持てるだけの素材を持ってジョバーナの森を後にしたという。



 ジャバリエ魔術高等学校。

 この学校はアトラス学園と並ぶ名門校で、魔術の他にも剣術や格闘技、槍術なども習うことができ、近代的な最先端の講義が受けられるのが最大の特徴である。


 敷地内の体育館では、今日も槍術の演習が行われていた。

 槍術はこの世界ではあまり重要視されていない。

 なぜかというと剣と魔術があるからだ。剣は槍よりも軽快に動けるし、魔術師相手でも簡単に距離を詰められる。

 魔術はリーチというか射程距離が長く、詠唱さえ終わればすぐに撃てる。

 これだけだと説明不足な気もしないでもないが、遠距離の魔術、近距離の剣術がこの世界の戦闘の基本らしい。

 槍術を習いたいという人はそんなにいないのが私としては悲しいところですが。


 私、トリケラトプス・レイモンドは今日も槍術課のコーチをやっていました。

 相変わらず人数が少ないのが悲しいのですが。


 私がこの世界に来てから7年以上が経過しました。

 隕石の爆発に巻き込まれて、気づいたらこの世界にいました。

 2年以上旅をしている間に大怪我を負い瀕死になったのですが、青髪にコートの魔術師に助けられて、『人化術式』で今は人間の女の子の姿になって生活をしています。


 そして何やかんやあってこの学校に入学し、卒業してこの学校の教師となり、今では槍術課をたちあげました。

 トリケラトプス族特有の3本の角は、何故か三叉の槍となり、柄が白く刃が赤くなりました。

 まあ刃は自分で塗ったんですけど。だってかっこよくないですか?


 「レイモンド先生、もう時間なので帰りますねー」

 「ではまたー」


 ああ、そういえばもう午後六時を回っていましたね。学生は帰る時間ですね。

 私も早く帰りたいんですけどね、、、、教師って残業みたいなのも結構あるんですよ。


 ほんと疲れます。けど楽しいです。

 前の世界に比べれば、ずっと。

 

 


 

 


 

 

 

 














































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