お買い物・後編
オレはスーパーっぽい店の果物売り場にいた。
この世界にも不思議な果物があるな。
例えば、このサッカーボールくらいある緑色で黒い模様のある果実。近くにこれの切り身が売っていたので見てみると、どうやら中身は赤色で黒い種が点々と散らばっていた。
白亜紀の北米ララミディア大陸では見なかった果実だ。
しかし、これによく似た「スイカ」という果実はあった。
機会があれば食って確かめてみるか。
そのすぐ隣に売っているのはレモンだ。
地球のレモンとそう変わらない、ちょっとだけ緑がかっている普通のレモン。
そういやイタリアではレモンの栽培が盛んだったな。まあ隕石の影響で更地だろうが。
カリタルネ達は肉売り場に行っていた。
赤身の強い美味そうな肉。
オレは肉を見る目には自信がある。体が元の大きさに戻れば一口で二百キロは食えるぜ。
肉の食い過ぎで一回痛風になったけど。
おまいら、痛風には気を付けろよ。男女問わずなるからな。
ロリタルネにその肉はなんの肉か聞いてみると、元気よく「牛の肉」と答えてくれた。
何牛ってお兄さん聞いたことないんだけど。そうか異世界だから当然生態系も違うか。
もっと見てみると、ワニ肉なんかもあった。
ワニか。
いたなあディノスクスとかいうクソ生意気な奴。ヘタレDQNみたいな奴らだったが、今思い出すと懐かしい気分になるな。まあ全員隕石で全滅だろうが。
そんなことを考えているうちに、カリタルネはほとんど買い物を終わらせていた。
ロリタルネはなんか必死に姉の籠に変な品物を入れようとしていたが全て片手であしらわれていた。
オレも並行圧力で品物を無理矢理籠に入れようとしたが今度は店員さんに怒られた。
すいませんした。浅く反省しております。
そしてカリタルネは品定めがうまいらしく、そしてなんと言ってもその作業が早い。
一品三秒と言ったところだろうか。
出る幕がないのが悲しいところだな。いや確かにすげえんだけど。
買い物はカリタルネ達に任せて店内をプラプラしていた時だった。
アイツがいた。
「ああ、久方ぶりですね。ティラノサウルスさん」
そんな優男のような声でオレを呼んだのは、ボサボサの黒髪に軍服にも見える学生服を着て、魔女の怨霊を連れて歩き回る、昨日オレとどんぱちやった青年だった。
ゴイジャフリ・オウテンフィルス。
確か魔神とかだったんだっけ。
いやあ参ったな。人間の方は満面の笑みなのに背中に張り付くグロモンスターが怖い怖い。
「ティラノサウルスは種族名だ。個体名はレックス。ツーか久しぶりって昨日会ったばっかだろ」
「読者から見れば久しぶりですよ?」
君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
どうやらこいつも買い物に来たらしく、籠には大量のワニ肉が詰め込まれていた。
ああオレの友達が。いや友達でもないけど。
「お前なんでこんな肉買ってるのに痩せてんだよ」
するとオウテンフィルスは自分の体を見下ろしてからえへへと笑い、
「いや、僕じゃなくてヴァレントが。ねえヴァレント」
まるで性夜のバカップルのようにイチャイチャしだす青年とグロモンスター。
世界一シュールな光景選手権優勝おめでとう。
いやあ危なかった。もしヴァレントが普通の美少女だったら嫉妬の炎で抱いてたわ。
NTR的な意味で。
オレがヴァレントに視線を送るときっと睨んできた。安心しろお前なんて抱かねえから。
そしてオレ童貞だから。
オウテンフィルスは再度オレに向き直り、
「なぜレックスさんはこの店へ?てゆうか馬用のサドル着せられてるじゃないですか」
「ああ、オレ、カリタルネ達と買い物に来ていてよ、乗り物として連れて来られたってだけだ」
そういやオレサドルつけられてるんだったな。
意外と着心地が良く、オレの体にフィットしている。
材質も良く、体の稼働範囲も制限されないという、オレにうってつけの装備だな。
オレの体型にフィットしているということは、その馬とか言う生命体、よほど恐竜に近い体をしているに違いない。
最初は変なものだなと思っていたが、着てみると意外に良かったと言うパターンだ。
恐らくカリタルネはオレの体格などを計算してこのサドルを選んだのだろう。いやはや感謝。
それからオレはオウテンフィルスとの少しの世間話の後に別れてカリタルネ達と合流。
彼女達はちょうど会計をしているところだった。
この世界の通貨は銭と札で、地球とそんな変わらない。
カリタルネが取り出したのは、銀貨4枚だ。銀貨は銅貨以上金貨以下の価値がある。
彼女の買った品物の総額をオレの感覚で表すなら、そうだな、ざっと17usドルだな。日本円にすると2,000円。
つまり銀貨一枚500円か、うまい棒50本買えるじゃねえか。
ふと横を見てみると、オウテンフィルスが会計をしていた。
脂身の少ないワニ肉を10切れ買い、出したお金は金貨は2枚、2ドルと言ったところか。日本円で20000円。
うまい棒が2000本買えるな。つーか結構金持ちなのなオウテンフィルス。
学生ぽいけど、そこは魔神だから特別に金が出てるのかもしれないな。
それと、オレが魔神を完封したという事は、あまり町中には知れ渡っていないらしい。
まあ変に喧伝してもいい事ないしな。
オウテンフィルスも悪いやつじゃなさそうだし。
オレもこの世界の貨幣価値について知っておくのはいいかもしれないな。帰ったら金に関する本を探してみるか。
それから約二分後、何のハプニングも山も谷もなく、もちろん好感度が上がるイベントもなく、買い物は終わった。
もうちょっと何かあってもいいくらいの普通の買い物だった。いや逆になんかある方が嫌なんだけど。
オレらは店から出て、館へと続く道を歩いて行った。
カリタルネはオレに許可を取ってからサドルのサイドに買い物籠を縛りつけてから、背の低いロリタルネを先に乗せ、自らも後からオレの背に跨った。
うん、少し重いな。
いや別に二人が太ってるとかじゃなくて重いのは荷物の方であってだな・・・・。
カリタルネとロリタルネは慣れっこだったが、オレに取っては初めての経験が多かったと言える。
金の使い方、少しの地理などの些細な事だが、それでも生きていく上では欠かせない知識と技術だ。
少しだけ世界が広がった気がした。
もちろんこれがこの世界の全てではないし、むしろその世界のほんの一欠片くらいの広さしか歩いていない。
でも、これはあくまで最初の一歩。
これからどんどん広げていこう。
森に入った時に、ふと背中にちょこんと座るロリタルネの方を見てみた。
なんだか物憂げな表情をしている。
オレは優しい口調で話しかける。
「どうしましたか?」
するとロリタルネは少し悲しそうな表情で、
「今日、レックスさんと全然おしゃべりできなかったなって、、、」
おいおいそんなことか。オレもモテ男になったもんだぜベイビー。
しかしオレの予想は的中していたらしく、やはりこの子はオレと少しでも仲良くなりたかったらしい。
それはオレとしても嬉しいことだ。生前は誰もオレに歩み寄ってくれなかったしな。
誰も歩み寄らねえからオレはどんどん性根の腐ったカス野郎になっちまって、それを周りのせいにしてた時もあった。
そんなオレに、不器用ながらも、自分から寄り添おうとしてくれた。
少し偉そうに聞こえるかもしれないが、オレはこの小さな少女を尊敬するよ。
心から、な。
そしてオレはできる限りの笑みをつくって、
「じゃあ今日は一緒に夕飯作るか!!」
女の子と仲良くなる秘訣は、オレは一緒に料理をしてあげる事だと思う。
パッとロリタルネの顔が明るくなった。実に嬉しそうだ。
「いいの!?じゃあ、約束ね!!」
その日の夜、牛肉のステーキがオレのせいで焦げましたとさ。
チャンッチャン。