お買い物・前編
できれば毎日投稿してきます。
目が覚めた。
いつも通りの朝。特に語ることもない、日常の始まり。
目覚めというものは不思議だ。
昨日の記憶が残っているのに、なぜだが自分が新しく始まったかのような清々しさがある。
オレ、ティラノサウルス・T・レックスが異世界に来てからもう3日くらい経つ。今思えば、ドギュベルはオレをかなりイージーな場所に転生させてくれた。
初日から温かい食事とベッドが提供され、衛生面もバッチリの館に普通に言語も通じる、文化にもそれほど違いのない場所。はっきり言って感謝しかありません。
今度会ったら乳首を舐めさせてもらおう。足はやだな。
足は糞より菌が多いってテレビでやってた。
俺はいつも腹這いで寝ている。
そして起き上がる時はこの小さい2本の指を使って起き上がる。
この時タイミングがズレると鎖骨がぽっきり折れるので注意。
いつも通りシーツを畳み、窓を開けて空気の入れ替え。ちなみにこの館、かなり立地条件がいい。
街を見渡せる丘の上にあり、館の周りは背の低い森に囲まれ、もしもの時の避難所としても機能する。
そしてここにこの館を建てるようにしたのは教授らしい。だから有能すぎだろ変わってるけど!!
ボケーっと窓の外の景色を見ていると、背後からガチャリとドアの開く音がした。
後ろを振り返ると、カリタルネ、、、ではない誰かがいた。
確かに赤髪メイド服で美形というのは共通しているものの、少しだけ背が小さく輪郭も少し細く、髪型も違う。
目もなんか快活さがない感じがした。
なんかカリタルネを幼くしたような感じの少女がそこにいた。
ロリタルネ。
カリタルネの妹。名前の通りロリである。
胸は、、、ふむ、トリプルAか。もっと鍛えるのじゃぞ。
姉のようにな。いやでもカリタルネもCより下か。
少女はオレと目が合うとビクッと肩を振るわせてから少しだけ目を逸らし、
「・・・あの、シーツを干しに来ました・・・」
めちゃめちゃ控え目な感じの声だ。姉のカリタルネは結構グイグイ来る方なのにな。
オレも彼女のことについては名前と容姿以外何にも知らなかったので、声を聞くの初めてだ。
オレが彼女に礼をして畳んだシーツを渡して勉強机の方に向かおうとした時、ロリタルネが突然切り出してきた。
「あの、おこがましいとは思いますが、買い物についてきてくださいませんか?」
は?わけわかんねえ。展開が無理やりすぎるだろ。なになに?これもしかして乙女ゲーム?
イベントこなして一生かけて好感度地道に上げてく乙女ゲーム?
ごめんなロリタルネ。略してロリータ。
オレは幼女よりも年上にズギュンてくるタイプの男だからさ。
ん?待てよ待てよ。
これあれじゃね?純粋に他者と仲良くなりたいけど不器用だからこんな訳のわからん発言をしてしまうんじゃないの?
これは純粋にオレと仲良くなりたいんだ。うんうんよくあるよ。
仲良くなりたい人に話しかけようと思って、心の中では完璧なのに現実だと辿々しくなってしまうの、すんごいわかるよ。
文脈とかがめちゃくちゃになっちゃう事、あるよね。
何せオレも経験者だからな!!
うんきっとそうだ!!そういう訳で、
「別にいいですよ僕もお手伝いくらいしなければ、ね」
しかもこんな美少女とのイベントを用意してくれるドギュベルは神だな。
いや実際神なんだけどさ。
今度あったら乳首の他に耳も舐めさせてもらおう。
というわけで買い物に行こうと外に出たわけだが・・・
「・・・しゅっぱつしんこおー」
「しんこーう!!」
さて、今のオレがどうなっているか説明させてもらおう。
口には鉄製のくつばみと革製の手綱が、背中にはサドルと買い物袋とロリタルネとどっから出てきたカリタルネ。
え?まさかオレが買い物に誘われた理由って、単純に仲良くなりたいからとかじゃなくて、乗り物としてって?え?
まあいいんだけどさ手伝えるならいいんだけどさ。
まあ本気で走れば時速100キロも夢ではないし、並行圧力使えば亜音速叩き出せるんだけどさ。
それでも乗り物役ってちょっとショック。
『れっくすは こころに きずをおった』
オレは質問をした。
「なんで乗り物?」
するとカリタルネは少し申し訳なさそうに、だけどなんか楽しそうに、
「申し訳ありません。レックス様は足が速いもので。嫌でしたらおりますよ?」
「いや別に嫌じゃないが、、、」
カリタルネの膝元にちょこんと座っているロリタルネが小さくガッツポーズをしたのが見て取れた。そんな嬉しいのか。
こんな事言ったらぶち殺されるかもしれないが二人共重い。
いや太ってるとかじゃなくて単純にオレの体が小さくなって積載量が落ちてるってだけなんだがよ。
あとオレは館の外に出るのは今日が初めてだ。地理は把握しておいて損はない。
気晴らしとして体動かすか。
館の庭から出て門をくぐった先は森だった。この館に通じる丸太でできた簡素な階段があるだけで、それ以外は自然が支配していた。
静かな森だった。
生物の鳴き声は基本的に聞こえないし、聞こえるとしても小鳥の声だけだ。
木漏れ日は眩しく神秘的で、見ているだけで心が癒される。 自然はやはりいいな。こうゆう景色をこの先も守ろう。
森を通り丘を下っていく。傾斜は緩やかで起伏もそれほど激しくはなく通りやすい。
土は踏み固められている上にカラッカラだ。
ふとカリタルネ達の方を見てみると、妹の方は目を輝かせながらオレの体のあちこちをぺたぺたと触りたい姉の方は買い物メモを凝視している。
ロリタルネちゃんは好奇心は旺盛だけど付き合いが上手い方ではないらしい。
好きと得意は違うからな。そういえば、二人は姉妹だが、どういう経緯で教授のメイドになったのだろうか。
まあそこはどうだっていいか。
オレの今の仕事は二人を店まで運ぶことにある。
商店街に着いた。
道は買い物に来た人と店の宣伝をしている人や、路上演奏者で埋まっている。
露店と室内に商品が置いてある店に分かれており、後者の方が若干多い。
歩行者は俺たちに目線を向けて来る。
おいそこのお嬢さん、そんな熱い視線で見ないでくれよ。脱ぎたくなっちゃうだろ。
あ、オレ全裸だった。
とりあえず赤ん坊が見てきたのでウインクしてあげた。
泣かれた。
ぴえん。
野菜、果物、肉、おもちゃ、武器、楽器、食器、本など多様な品物に目を奪われる。
このいい匂いは、、露店の串焼きか。 焼き鳥美味そー。
よく見ればスイーツ屋まであるじゃあないか。意外と種類が豊富だな。
魚は見かけないな。ひょっとしたらこの国は内陸国で漁業はあまり盛んではないのかもしれない。
オレは正直ウキウキしていたが、カリタルネの方を見てみると、無表情で買い物メモと店の品物とを交互に見て、ボソボソと何かを言っていた。
おそらく買うものの名前だろう。
彼女は見た目はかなり若いが、本当は歴戦のベテランメイドなのかもしれない。
オレらはある一軒のでかい店の前で止まった。
横に長い、例えるなら木造のデパートみたいな感じだ。
おおこの世界にもあるんか。
二階建てで、一見宿屋に見えなくもないこの店の中に、3人と一匹は静かに入店した。
「カリタルネさん、オレめっちゃ注目されてるけど入っていいのか?」
ここは少々疑問に思っていたところだ。注目を集めすぎてなんか変なやつに絡まれたら大変だしな。
するとカリタルネは気軽そうに笑顔で答えてくれた。
「大丈夫ですよ。だって・・・」
彼女は店の注意書きに指差して、
「この店ペットokなんですから」
「オレペット枠かよ!!」
「ええええ!?違うの!?」って顔をされた。ちげえよ!!!!
誰がペットじゃ!!二人の背後にピシャアアン!!!!と雷が落ちる。なんで衝撃受けてんの?
ねえなんで?なんでさりげなく店頭の『亀の餌』手に取っちゃってんの?!
オレ今まで普通にご飯食ってたよね!?
カリタルネはオレの顔を見てハッとした表情になった後、別の袋を手に取り、
「申し訳ありませんジェルタイプの方がよかったでしょうか」
「変わんねーしそもそもとして餌が間違ってるよねえ!?」
オレらの買い物はまだまだ続くのであった。
読んできださりありがとうございます。