間話・ちょっとしたこぼれ話
これからはガンガン投稿していくぜ!!
ヤンチュアノサウルス・ヘイグラムとユウティラヌス・フアリは資料室に閉じこもっていた。
時刻は夜の八時を回っていて、寮の窓の光も数箇所消えている。 彼らは一体何をしているのだろうか。
フアリは書類が山積みになった机で筆を走らせていた。
若干和紙っぽい紙だ。
素材も和紙と似ているためおそらく強度は相当なものだろう。
女子らしい優しい「さささ」みたいな効果音では無く、『ギャリギャリギャリイイイイイ!!!!』という殴るような激しい書き方だった。
無論そんな書き方で書いた字など綺麗なはずもなく、しかも筆圧が地味に強いから消しづらく読みにくい。
ユウティラヌス・フアリはこの世界に来た時、人間の少女の体になっていた。
しかも全裸。
変態おじさんに目をつけられなかっただけマシである。
ユウティラヌス族特有の厚いもふもふの毛皮は全てその美しい金髪を構成するためのただの毛となり、街のど真ん中でその瑞々しく美しい素肌が大衆の前に晒された。
最初は恥ずかしいなんて思いもしなかった。
だって恐竜は全裸だから(大正論)。
しかし周りの視線がどこかいやらしいと思った彼女は幸運にも使えた固有能力『咆哮』で暖かそうな服を着ている人々から服を剥ぎ取り、ついでに小銭らしきものも奪い取り、それで六年間もの間生計を立てていたのだ。
そしてひょんなことからヘイグラムに出会いなんやかんやあってアトラス学園に入学。
経歴や固有能力である咆哮を魔術の一種と偽りとんとん拍子にAランク生徒になり、卒業した後もこの学校に時別生として通っている。
いや、通うというより泊まるといった方が正しいか。
因みにレイとは寮の部屋が隣なので結構仲がいい。
ヘイグラムはその長い三本指の手で書類を一枚手に取り、その三白眼で凝視する。
彼らが調べているのは、なぜ自分たちがこの世界にいるのかということだ。
ユウティラヌス族とヤンチュアノサウルス族は種族も生きていた年代も違う。
種族が違うことはあまり関係のないことだと思うが、年代の違う自分たちが、どうしてこんな世界に、しかもほぼ同時期に飛ばされたのか。
帰る方法はあるのか。
卒業してからというもの、毎日のようにここで調べているのだ。
幸いなことにこのアトラス学園は相当大規模な学校で一種の研究機関という顔もあるため資料なぞ毎日のように大量に入ってくる。
本来ならここは関係者以外立ち入り禁止となっているが、フアリが上目遣いで懇願した結果あっさりと入室できるようになった。ヘイグラムは呆れたようにいう。
「それにしても、全くもってわからないな。オレもお前も、気づいたらここにいたんだろ?せめて俺たち以外にも転移している奴がいればなあ」
恐竜は全部で十万種類以上もいる。個体数にすれば億は余裕で超えてくる。
もし自分たち以外にこの世界に転移したものたちがいるならば、少なくとも一匹くらいは会っているはずだ。
ヤンチュアノサウルス族は二十万匹以上もいるし、ユウティラヌス族も30万体はいる。
同族に出会ってもなんらおかしくはないはずだ。
もしかしたら本当に転移したのは自分達だけかもしれないのだ。
ヘイグラムの言葉に、フアリは少し考えてみる。
そして口を開き、
「もしかしたらだけど、世界っていうのはたくさんあって、もし自分達以外も転移しているなら、こことも地球とも違う、全く見知らぬ世界にみんな転移しているんじゃないのかな?ただの仮説だけどね」
ヘイグラムは心のどこかで、その仮説に少しばかりなるほどと思った。
彼はこの世界に来る前に、「11次元説』というものを聞いたことがある。それはこの宇宙は何次元にも分かれていて次元ごとに世界があるというものだ。
その説とフアリはの仮説は共通するところが多い。
もしかして、本当にそうなのかもしれない。
するとフアリは突然大きく欠伸をすると同時に背伸びをし、目元の涙を擦りながら気怠げに言った。
「ねむ、、、もう寝ようかな、、、」
彼女が人間体になってもう5年以上経っているが未だ恐竜時代の生活習慣は身に染みている。
しかもたとえ見た目が人間の幼女で無くても、フアリはまだ5歳程度の幼体のユウティラヌスだ。
幼体の動物はなるべく多く睡眠時間を取らなければならない。
ライオンも成体より幼体の方が睡眠時間が長いのだ。
そんな年相応なところもある彼女を見て、ヘイグラムはふっと笑って、誰にも聞こえないように、でもフアリにだけは聞こえるように、
「お休みな」
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