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その後

 「はい、レックス、これ」

 「何これうんまああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ロリタルネから渡された恵方巻きみてえな食い物にかぶり付いて、俺は夜中にも関わらず叫んでしまった。

 何というか、もう現存する言語で表現できない優しい味が口一杯にひろがった。


 ーー裏山での事件はタナカの降伏宣言によりひとまず終わった。事件的にはこう隠蔽するらしい。

 Dクラス生徒達はただ単に裏山に全員で遊びに行っただけで、あの爆発については謎の魔力現象として処理されるらしい。

 問題はスミロドンの処分なのだが、それはDクラス内でどうにかするらしい。

 まあ、恐らく殺処分だろう。

 大事起こした上に勝負に負けたんじゃもうダメだろ。

 俺的には未来の地球がどうなっているか知りたかったんだが、生物の強さの水準はだいぶ落ちているらしいな。 

 因みに俺は普通に館に戻された。

 俺は確かに防戦しかほぼしてないから・・・・あ、皇の矢・・・。

 


 翌日。

 俺、ドン・タナカは事態が落ち着くまで一週間の停学処分となった。

 夜中に遊びに行ったことと、エリカへのいじめの事でだ。

 俺もあの時はどうにかなっていたのかもしれない、なんて言ってもぜってえ許されねえけどな。

 これから男子寮の俺の部屋でスミロドンをどうするかを話し合う。

 

 出来れば、殺したくはない。

 

 下心もないとは言えないが、俺らの都合で命を奪うのは流石に気が引ける。

 でもアイツの力は俺らでは安全に運用できないと悟った。

 いや、俺の魔術師としての力量がまだまだ足りないだけなのかもしれない。

 

 俺はそんなまとまらない思考をしながら寮の階段を登り、自室のドアノブに手を掛け回す。

 「ただいまー・・・・は?」

 俺の視界に飛び込んできた光景は異常だった。


 うちのクラスの女子数名に囲まれて、スミロドンがアトラスの制服を着せられて、完全に着せ替え人形と化していた。

 女子は全員恍惚とした表情を浮かべながらスミロドンを舐め回すように見ているが、当の本人はメチャクチャ困惑している。

 彼女は俺の姿を目に留めると、困った表情と口調で聞いてきた。

 「タナカ、これが『制服』というものなのでしょうか?」

 「それより、何でスミロドンに制服着せてんだ?!」

 女子の一人がスミロドンの胴に抱きついて、

 「いや、学校に全部本当のこと話したらね、別世界の動物を召喚出来たっていう功績と研究のために裏口入学させてもらえるようになったんだ。しかも同じクラス!やったね!」

 ちょっと待て、意味が全然わからない。

 取り敢えず教師達が変態の集まりなのは分かったが、でも、殺すようなことがなかっただけ御の字だと思いたい。

 「つーか、そーなるとスミロドンはもちろん女子寮暮らしになるんだよな?」

 頭の処理が追いつかないので当然の質問をしてしまった。

 「そーだよ?ねースミちゃん」

 変なニックネームをつけるんじゃありませえん、と思った。

 するとスミロドンが急に真顔になり、少し丸い猫耳をぴょこぴょこさせながら、

 「いえ、私は普通にタナカと住みますが?」

 「え?」

 今度は全員が固まった。

 話の流れがわからないかもしれない、俺もわからない。

 ちょっとほんとに待ってくれ、スミロドンは確かに俺と主従関係はある。

 でもほらさ、色々問題じゃん?

 「でもさ、スミちゃん、そういうのはちょっと問題があるんだよ?」

 ほらみんな言っているじゃあないかスミちゃん。

 「いえ、騎士として主人の身の回りの警護は当然の義務です。というより、私が召喚獣と言うのは変わりませんし私のそばに居て管理するのはタナカの仕事の筈ですが?」

 「うぐッ、ごもっともすぎる意見!」

 スミロドンは召喚獣でありこの世界の魔術で召喚できた別世界の生物として貴重な研究対象でもある特別生徒的な存在なのだろうが、しかし女子である以上原則として女子寮に住まなければいけない。

 学校側も理由付けに苦労するだろうし・・・。

 俺は女子達に聞いた。

 「あのさ、スミロドンの意見はど正論だと思うけど、許可とか取れんのか?」

 「取れるわけないじゃない」

 だよなー。

 畜生。

 俺はスミロドン本人に確認をとってみる。

 「あのさ、スミロドン」

 「なんでしょうか?」

 「女子寮でも別にいいか?」

 スミロドンの表情が少し不本意そうに歪む。

 思わずのけぞりそうになるくらいの眼。

 やべえメチャクチャ怖え。

 しかし彼女は抗議せずに、

 「分かりました。ですが、学校内では身辺警護は怠りませんので」

 決まりだな。


 数時間後、タナカとスミロドンは外を出歩いていた。

 停学は今日からなので、相当暇であると言える。

 外は日差しが強く、人々は昨日の爆発事件で賑わっており、武装した冒険者達がそこら辺を彷徨いている。

 あんなことが起きたので、近辺のギルドから収集されたのだろう。

 黒いローブに身を包んだ魔術師然とした人達は今回の事件を調査しにきた魔導調査団だろう。

 数十人ほどが塊となって裏山の方へと向かって行っている。

 タナカは何を聞いていいか分からなかったので、取り敢えず頭に浮かんだことを片っ端から説明していく。

 「なあ、怪我、もういいのか?」

 するとスミロドンはキョトンとした表情になり、

 「問題はありません、舌で舐めたら治りました」

 「唾液で傷って治るの?そりゃ、消毒に使えるとかばあちゃんから聞いたけど」

 「私達サーベルタイガーは、防御力は心細いですが、戦闘継続能力と自然治癒力は非常に高いです」

 実際スミロドンの化石の中には何度も致命傷を負い治癒された跡が残っているものがある。

 防御力はマンモスらと比べてペラペラも良いところだが、治癒能力は並大抵ではなかったと言うのは事実だ。

 彼らは大型生物との戦いに特化した進化を遂げたものの、その大型生物が氷河期の終わり頃に絶滅するとスミロドン達も姿を消したのだが。

 因みにスミロドン達は群れで狩りをしていたと言う説もある。

 

 会話が途絶えてしまったので次の質問を繰り出す。

 「なあスミロドン」

 「はい」

 「お前、どのくらい強いの?」

 あの斬撃は余りにも威力が桁違いすぎる。

 スミロドンは少しだけ顎に手を当てて、

 「そうですね、自分で言うのもなんですが、実力は上位の方でした。私と同等のものが後200体以上はいますが」

 「お前が住んでた世界は化け物しかいねえのか!!あの白髪はどうなんだ?」

 「あのお方は規格外です。同じ土俵に立てるものを数えるのは三本指で十分なほど。私は悔しながら足元にも及びません」

 そして彼は全く本気じゃなかったと言い、肩を落とすスミロドン。

 彼女は今の自分の限界を出したのに顎を揺らすことしかダメージを与える事が出来なかった。

 自分でもマノスポンディルス・ギガスを引き出せた事は良いとは思っているが、それでも散々痛めつけられた。

 あれはもはや生物の領域を抜け出している何かだ。

 この世の理を抜け出しているのは神と悪魔だけだと今まで思って生きていたが、もう一つリストに追加する事になろうとは。


 逆に恐竜の王に拳を当てられた事は逆に誇っても良いと思う。


 「あの、この度は役目を十分に果たせず申し訳ありません、我が主人」

 いきなりのスミロドンの謝罪の言葉に、タナカは一瞬止まり出来るだけ優しく微笑み言った。


 「別に良いよ、あれは俺らがバカだっただけだ。そんな事より、」

 ほら、とタナカは静かに手を差し出した。

 スミロドンはキョトンとした表情になり、

 「これは・・・なんの真似事でしょうか」

 「だから、握手だよ。ほれ」

 タナカに催促されて、スミロドンは機械的に彼の手を握った。


 握手、主従ではなく、相棒としての礼である。

 「これからよろしく」

 「はい、こちらこそ」


 その日、スミロドンは、二人目の主君を見つけた。



 やべえ。


 俺、ティラノサウルス・Tレックスは勉強机の前でそう呟いた。

 教授からの話では後1ヶ月くらいで春、試験が始まると言う。

 もっと早く伝えて欲しい。

 まじでなんなんだあの人。

 

 いや、もういい、早く勉強しよう。

 

 試験の内容は聞いた限りでは筆記と実技、模擬戦らしい。

 問題は筆記と魔術が絡んでくる実技か。

 俺は何故か全然魔術が使えない。

 

 いや待てよ?能力を術式と偽っちまえば済む話じゃねえのかコレ。

 いやダメか。

 魔術は術式はサブで、重要なのは属性魔術という基礎が身に付いているかってカリタルネネキが言ってたもんな。

 模擬戦は大丈夫だ。

 トリケラトプスでも出てこねえ限りはな。

 

 俺が知った事は、この世界にも俺以外に地球の生物が来ていると言う事。

 俺以外に誰がきやがるんだろうか。

 

 まあそんな事はいい。

 俺のスローライフを邪魔するような野郎は叩き潰すだけだ。

 


 

 

 

 

2話で就職すると言って40話まで無職だった事をお許しください。

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