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降参宣言

 アトラは続けて言った。

 「俺もついて行くから、責任取ろうぜ?停学処分くらいで済ませてくれるように俺も庇うからさ」 

 「無理だぞおい!?」

 「召喚獣は主人の言うことを聞くんだろ?白髪の方は俺が説得しとくから」

 「ほんとか?」

 タナカの表情が少しだけ安堵を滲み出す。

 スミロドンは少ししか会話をしていないが、ちゃんと話の通ずる人物だった。

 しかもこちらは主人、命令は聞いてくれるだろう。

 タナカは喉から強がりの言葉を放り出す。

 「ああ、分かった。俺だって貴族の息子だ。ケジメはつけてえさ」

 

 アトラはタナカをおぶって感覚を頼りにレックス達の位置を特定し、森を全速力で走る。

 ちなみにフアリは他のDクラス生徒を助けに行った。

 踏み込み一つ一つに精を込めて、人生史上で最も速く走る。

 タナカは半ば笑いながら、

 「はえええ!?俺抱えてなかったらもっと出せんの!?」

 「うるせー、これは全速力。でも、人を抱えて走ったのは7歳が最後だ」

 「誰か抱えた?」


 「レイ」


 タナカの表情が冷めた。

 なんだ敵かと言う表情だ。

 数秒走ると、もう近くから剣戟を振るう音が聞こえてきた。

 しかしそれもすぐに止み、直後に木々が倒れる音がした。

 方角は北。


 ラストスパートとばかりにさらに速度を上げるアトラ。

 木の枝に乗り掛かり、コンマ一秒で飛び立ち、上空から地上の状況を観察する。

 「あ」

 いた。

 レックスが一人たっており、その視線の先には猫耳の女騎士が両肩を恐竜の尾椎のような螺旋剣で貫かれていた。

 タナカにもその様子が見えたらしく、彼は狼狽した声で、

 「決着ついてんじゃねえか・・・」

 「あの猫耳はまだかろうじて息はしている。まだ遅くないってーー」

 アトラの言葉が途切れたのは、レックスが女にとどめを刺そうとゆっくりと歩み寄っていたからだ。

 再び体に魔力を通して空を蹴り、地上の二人のすぐ近くに降りる。

 どうやらまだ気づいてはいないらしい。

 アトラは背中からタナカを降ろすと、

 「じゃあ行ってこい。万が一危なくなっても俺が戦う」

 「意外と頼もしいな」

 タナカは急いでレックス達の方へと走った。

 

 この事件のケジメを取りに行くために。



 こうして今の状況に至る。

 レックスはピタリと手を止めて、ゆっくりとかがめた上半身を上げて

 「あ?てめえ、なんでここにいんだ?」

 彼が一つ問いかけるだけでタナカが震え上がった。

 無機質な赤色の爬虫類のような目。

 まるで巨龍に睨まれたような錯覚を覚えてしまう。

 レックスの掌に恐竜の牙のような短刀が現れる。

 ステーキナイフのデザインを何倍も凶悪にしたような感じの刀をタナカに向けようとした時、タナカの背後から見知った顔が出てくる。

 アトラだ。

 「レックス、降参だってさ」

 アトラは軽く笑い、だが静かに剣の柄に手をかける。

 交渉決裂した際の戦闘準備だ。

 レックスは一瞬キョトンとした表情になってから、短刀を消滅させる。

 話が通じたようだ。

 スミロドンはピクピクと体を起き上がらせようとしたが、肩を破壊され、全身の神経を破壊された状態では立ち上がるのは不可能だ。

 無理に動いても出血が増えるだけだ。

 スミロドンはうめき声混じり、

 「タナカ・・・」

 「おい!?それ以上体を動かしたらやべえだろ!?」

 「・・・・まだ、やれます・・・」

 「もういい!戦わなくてもいい!!スミロドン!!これは召喚者権限だ!!」

 タナカがスミロドンに向かって怒鳴ると、彼女の眼が少し座った気がした。

 少しばかりタナカは後退りするが、すぐにその獣のような好戦的な目は収まり、


 「・・・・わかりました・・・私の負けです・・・」


 と、この一言で事件は一区切りとなった。



 


 

 

 

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