解決へ
ドン・タナカは震えていた。
震えながらひたすら夜の山を走っていた。
一人、仲間を置いて、ただひたすらに足を前へ。
爆音と剣戟がぶつかり合う音から耳を塞ぎ、自分の業から逃げていた。
あんな事になるとは思わなかった。
スミロドンの最初の斬撃で全てが決まったと思った。
だが、気付けばスミロドンは目で追えない速度で吹っ飛び、そこからは人知の及ばない異次元の戦いだ。
白髪の男、ティラノとか言ったか。
あの男の目を思い出すと体が震える。
あれは、無機質な蛇の目。
あれは、無慈悲に肉を裂き、骨を噛み砕くワニの目。
あれは、何を考えているかもわからないトカゲの目。
いや、そんな例えでは生温い。
人間ではないのは目を見ただけで分かった。
スミロドンの目もそうだった。
一見は普通の女の子だ。
亞人はこの世界に普通にいるし、亞人の目は獣の目をしている。
しかし明らかに何かが違かった。
聡明で、修羅場を何度も潜り抜け、幾重にも死闘を積み重ね山としてきたものの目だ。
そして纏う雰囲気が明らかに違う。
まるで別の星の生き物のように浮いていた。
あんな化け物が召喚されるなど予想していなかった。
最初はなんか美少女が出てきたとしか思っていなかったが、なんなんだあの戦闘能力は。
もう報復どころの話じゃあない。
退学処分どころの話じゃない。
この街一帯が吹き飛びかねない。
しかし自分には何もできないこの状況に焦りを覚えて、ただひたすらに逃げているのだ。
大怪獣や津波などの自然災害から逃げているのに近いだろう。
あんな物、大罪魔神を封印した大昔の勇者でも引っ張って来なければ止められないだろう。
「クソッ・・・・!!!!俺は悪くねえぞ・・・!!」
腹の奥から絞り出した言葉がそれだった。
山道を必死に駆け降りていた時だった。
「こんばんわ」
突然目の前にアトラが現れたのだ。
「うおっ!?」
そして襟を掴まれて近くの木に押し付けられた。
タナカは激昂したような表情で、
「なんだいきなりてめえーー」
ドンっ!!と首のすぐ横の木の幹にアトラの拳がめり込んだ。
ミギミギと幹にヒビが入り、ボキンと折れて後ろに倒れた。
背筋を凍らせるタナカに向かって、尋問口調でアトラは言う。
「なあ、あの爆発音とか光って、なんなの?」
タナカは脂汗を浮かべて、
「あっ、あれは、俺らが召喚した奴と、あの修練場での白髪の戦いで・・!!」
「お前意外と正直だな」
白髪、恐らくレックスだ。
「そういやレイから教わったんだけどよ、召喚獣には主人がいるらしいじゃねえのよ。誰?」
「オレっ、俺ですう!!」
あっさりと口を割ったタナカを解放してやると、
「じゃあ、行くか」
アトラは抑揚のない声でそう呟いた。
「はあ?何処に?」
タナカは意味が分からなそうに小首を傾げる。
「戦場のど真ん中」
「頭おかしいのかてめえ!?俺ら二人で止められるわけがねえ!!」
「てめえが責任者だったら責任取んのはてめえだろ!!」
ドゴっと、身体強化抜きの本当の鉄拳が怒号とともにタナカの鳩尾に突き刺さる。
「はうう・・・」
腹を抱えてうずくまる彼の頭上から、追い討ちのようにアトラの言葉が降り注ぐ。
「いい加減にしてくれよマジで。褒められるのが行動力しかないって言うのは最悪じゃねえのか?」




