前兆
お久しぶりですティラノサウルスです。マジ寸ませんでした。なんかアカウントにログインできない状況が続いておりまして、それが原因で投稿できずにいました。
文章力鍛えたので是非読んでください!!!!
王立アトラス学園。
ジャバリエ魔術高等学校と双璧をなす名門校。
全ての種族や年齢を受け入れるその教育姿勢と多彩な学科で人気を集めている。
普通科の生徒はランク付けがされている。
最上級ランクAランク。
成績優秀な生徒や、「冒険者」として実績のある者、貴族王族の子弟が属する。ほとんどの生徒が上級レベルの魔術を使える。生徒会の役員はこのクラスからのみ選出される決まりとなっている。
Bランク。
Aランクより一つ下のランク。だが生徒の実力は決してAランクに劣っているわけでもないのだが、ちと変わり者の多いクラスとなっている。魔族が多く、その種族固有の魔術などが研究されている。
Cランク。
魔術というか剣術や拳法に秀でた生徒が多い。A、Bランクとの差は、『上級魔術』が使えるかどうかとされている。大体が町民の身分で入学した者たちだ。
Dランク。
成績は下の方。はっきり言って不良ばかりである。生徒数が一番多い。
Eランク。
最下層のクラス。人数も少なく、生徒の実力も最低である。学習環境もあまりいいとはいえず、何度も改善願を出しても聞き入れられないくらいだ。
学年は全部で3学年。卒業しても研究室に篭る生徒もいるがごく少数だ。
生徒の一部は放課後、図書館や特別修練場に行き、引き続き勉強をすることがある。
学園の敷地から少し離れた特別修練場。
一見するとオリンピックの競技場のようにも見えるこの建物は、横135メートル、縦192メートル、高さ35メートルという超大型の石造の建造物だ。
国とアトラス学園とジャバリエ魔術高等学校が運営しており、図書館や資料室、研究室に訓練場までも完備している。
修練場には、二人の生徒がいた。
人工芝の上に座り込み、木剣を揺らしながら談笑している。男と女。
「アトラ強すぎだよ。一本も取れないんだもん」
ぷくりと頬を膨らませている短い銀髪の少女に、アトラと呼ばれる青年は苦笑する。
「いやいや、俺なんて大したことねえって。レイは魔術を使えるだろ?」
どうやら銀髪の少女はレイという名前らしい。某人造人間のパイロットみたいだな。
レイは体育座りをして膝と胸の間に顔を埋めてため息混じりに、
「でも初級しか使えないよ」
この世界には魔術というものがある。
魔力というものを消費して放つ者で、個人個人の体に刻まれた『術式魔術』の他に、『属性魔術』というものがある。
炎、水、風、土など様々で、下から初級、中級、上級、特級に分かれている。
級が上がるにつれて、消費する魔力と威力、攻撃範囲が上がっていく。
最も、その人の魔力総量で威力はだいぶ変わるらしいのだが。魔力が多ければ多いほど、初級魔術を使っても時に上級レベルの威力を叩き出すことが可能だ。
魔力総量というものは生まれつき決まっていて、そこから数値を変えることはできないと言われている。
レイは魔力総量が少ない。
だから消費魔力の少ない初級魔術しか使えないし、体に刻まれた術式も要求される魔力に達しておらず使えないのだ。
その術式がなんなのかは不明なのだが。
対するアトラは初級魔術すら使うことができない。
魔力はあるのだ。
だがなぜか属性魔術は全然使えない。この原因は不明だが、アトラス学園で地位を築くにはなんらかの魔術が使えることが最低条件である。
現に二人は共にEランク生徒。最下層だ。
しかしアトラには魔術以上の武器がある。
『身体強化』。
筋肉に有り余る魔力を流して何倍にも強化。さらには血中成分や脳内麻薬を操作可能。
人間離れした身体能力を引き出せるのだ。
それに加えてアトラはそれを最大限に活用するために剣術をやっている。
どうやら彼は異常なほど剣の扱い方に慣れていたらしい。
それも4歳、体の自由が完全に効き始めた頃からやっていた。
まるで生まれたときから剣の扱い方を知っていたかのように。
幼馴染のレイが、その剣の才を一番よく知っていた。
「アトラはもう十分Aランクレベルだよ。なんで魔術が使えないからって昇級出来ないのさ」
因みに一定の成績を収めればランクを上げることも可能だ。
するとアトラは立ち上がって笑う。
「別に昇級なんかできなくたっていいさ。お前と話していた方が楽しいし」
「・・・なんか照れちゃうな・・・」
二人が帰ろうと立ち上がった時だった。
修練場の入場口から声が聞こえた。
「お二人さーん!!飯行こうやー!!」
快活そうな幼女の声。入場口から入って来たのは、一人と一匹だ。
幼女の方はもふもふの帽子にもふもふの毛皮のコートを着た、まるで北方の異民族の様な格好をした金髪の9歳程度の女の子だった。
まあモンゴルの遊牧民の服装に近いか。
片方は金色の三白眼を光らせて、深い緑色のワニのような鱗で体を覆った、10メートルはあろうかという巨体を持った二足歩行の異形の生物。
種族名は、『ヤンチュアノサウルス』と言うらしい。
レイは嬉しそうに一人と一匹の名を呼ぶ。
「フアリ先輩‼︎それにヘイグラム先輩も!!」
どうやら幼女はフアリ、異形の生物はヘイグラムというらしい。彼女はフアリに駆け寄ると、
「先輩方は此処で何を?」
「ああちょいと調べ物をな」
フアリの「調べ物」とはなんなのかは聞かなかった。
フアリとヘイグラムはレイたちが入学する5年前に入学した生徒で、卒業した今も研究室や資料室に篭り、『ある事』について調べているのだとか。
フアリとレイは寮が隣部屋でありよく話すらしい。
アトラも3人のいる入場口に歩み寄り、先輩方に軽く会釈をすると、
「どうも先輩方。夕飯に誘っていただきありがとうございます」
「今日は奢るぞ。フアリがな」
どっと笑いが巻き起こった。
ケラケラ笑うヘイグラムの足首をポカポカ殴る遊牧民少女。
和むのかシュールなのかよくわからん光景だ。
夕食を終えたアトラとレイが次に向かったのは、ある人物の館だった。
アトラス学園から少し離れた高い丘にある館。
周囲に野生の森などがあり、小山の頂上の城のような感じだ。
広い庭にカラフルな花々。
豪勢な門。
城のような巨大な建物。
煤けた煉瓦造りの壁。
もうちょい古びていれば幽霊屋敷にも見えていたかもしれない。
物理学教授・モンテッド・バイ・コウリンブルクの館だ。
アトラの革製のカバンの中には物理に関する研究レポートが詰め込まれていた。
30枚くらいか。
Eクラス全員分のレポートを提出するために、この館に足を運んだのだ。レイはなんとなくついて来ただけだが。
あたりはもうすっかり暗くなり、レイの持つランタンだけを頼りに丘を登る。
野生の森があると言うのに動物の鳴き声が一切しない。せめてフクロウの鳴き声くらいは欲しいものだ。
聞こえるのは地に落ちた枝葉を踏み躙る音くらいのもので、ほぼ無音と言ってもいいだろう。
最も、レイはビビリなのでこんな鬱蒼とした極めてホラーな森の中でフクロウでも鳴いたら速攻ちびる自信がある。
アトラは此処最近妙な噂話を聞いたことがある。
ジャバリエ魔術高等学校最強を誇る魔神・ゴイジャフリ・オウテンフィルスを完膚なきまでに叩きのめしたという、何処の馬の骨かも分からん二足歩行の異形の生物。
最初はヘイグラムかと思い来てみたところそうではなかったので、今回はその異形の生物を一眼見ようという思惑もある。
魔神を瞬殺。
この世のものではないということだけは伝わった。
何しろその怪物は教授の館に住んでいるらしいのだ。
もし怒らせてしまったらどうなるかなど容易に想像できる。
でも意外と温厚らしく喧嘩はあまり好まないらしい。
噂というものは色々な意見が飛び交った末にできたものだと思う。
その噂を出した人によっていとも簡単に人物像がねじ曲げられ、そのねじ曲げられた人物像が広がっていく。
しかも噂を発する人数がこれまた多い。
それだけならまだしも、噂が広がるほどその人物像が美化されたり極端な悪者の様になったりして、どんどん真実が埋もれていく。
そしてまた新しい噂が作られて広まる。
アトラは真実は自分の目で確かめないと気が済まないタチの人間だ。
ジャーナリズム旺盛というのか。
三分ほど山道を登った末にやっとついた。
レイは最早早く帰りたいといった感じで無気力な目で宙を見ていた。
門番に話を通して、庭を通り中へ入る。
あいも変わらず輝くシャンデリアと赤いカーペットは、最早見慣れた光景だが、それでも思わず見入ってしまう。
金閣寺を見慣れている京都人も、訪れるたびに写真を撮ってしまうのと一緒だろう。
「よし、届けるとするか」
アトラはそう呟くと靴を脱いで上がった。
ーー ティラノサウルス・T・レックス視点ーー
「ぷはアアアアアア〜〜!!!!生き返るウウウウウウウウ〜!!!!」
暖かい風呂はいい。疲れが出汁の如く染み出していく。
おばあちゃんの味噌汁が恋しい。
この世界にも体を洗うという文化はあるらしい。穀物の研ぎ汁を使って髪や体を洗うんだとか。
中国にもそういう文化があったっけか。
風呂の大きさは横8メートル、縦5メートルくらいで、そこらの露天風呂よりよっぽど広い気がする。今の体が縮小した俺にとっては十分すぎる大きさだ。
お湯が溢れるこの音がまたいいんだ。
だが恐竜には哺乳類どもと違って横隔膜がないから水中移動はかなりむずい。
せいぜい腰まで浸かる程度だな。
俺は試験には合格したものの、この次に筆記試験があるらしい。
まあさっきのはお遊びみてえなもんか。俺は筆記試験は大得意だ。 風呂から出た後は夕食を食べてまた勉強。
新しい知識を得ることは楽しい。
なんと言うか、針金に粘土で肉付けして形を作るみたいな気持ちよさがある。
俺は夕方から属性魔術の勉強をした。術式魔術に比べて使い勝手も良く、威力もそこそこであるため、属性魔術の方が多く用いられるらしい。
属性魔術を放つには詠唱が必要らしく、初級は10秒くらい、中級は20秒、上級は二分、特級になると十分は必要らしい。
いやいや上級から跳ね上がりすぎだろおい。
なんだよ十分て。頭のネジぶっ飛んでんのかよ。
だが特級の属性魔術を扱える魔術師はめちゃくちゃ少ない。てゆーかいないんじゃねえのかなレベルで少数だ。
しかも大体の魔物は中級まで使えていれば大体倒せるらしいのだ。
なので魔術師は中級まで使えるならokみたいなところもある。
剣道六段なんてごく少数で、初段で十分でしょみたいな感じだ。
そして属性魔術の属性は、
炎、水、土、風、斬、闇、雷、治癒の8つだ。
斬と闇は不明な点が多く使い手がほぼいないため研究もあまり進んでいない、謎に包まれた属性だ。
治癒は他と比べて詠唱にかかる時間がちと長いらしく、初級では擦り傷を治すのがやっとだが、上級治癒魔術となると骨折を瞬時に治し、特級になれば潰れた内臓も切れた手足も直せるらしい。
一番よく使われているのは炎と雷らしい。まあ威力強そうだしね。
俺的には土も強そうに思えるんだがな。
因みに王宮に仕える実力の高い魔術師のことを「宮廷魔術師」と言うが、宮廷魔術師に求められる魔術スペックは以下の通りだ。
炎属性魔術・上級
水属性魔術・中級
土属性魔術・初級
風属性魔術・中級
雷属性魔術・上級
治癒魔術・中級
とにかく相当高いスペックが要求される職業で、非常に狭き門なのがわかるだろう。
加えて宮中の礼儀作法や歌舞音曲などの教養も必要とされる。
風呂から出たらとりあえず初級魔術を試してみるか。
俺はぼけ〜とそんなことを考えながら風呂から出て更衣室へと向かう。まあ更衣云々の前に俺全裸なんだけど。
きめの細かいモフモフタオルで体を拭き、更衣室から出て夕食の会場まで歩いていく。
相変わらず豪華な館だ。
将来住みたい家ランキング6年連続一位とってそうだな。
そういえば昼頃オレとオウテンフィルスがぶっ壊した庭ってどうなるんだろうか。オレにはまだ稼ぎがねえから弁償は不可能だ。
まあ大丈夫だろう、多分。
アトラとレイはレポートを提出した後、玄関へ続く廊下を歩いていた。
ふとレイは鼻をスンスンと微動させて、空気中に漂う匂いを嗅ぐ。香ばしい匂いは肉だろうか?
そういえばもう時刻は七時を回っている。夕飯の時間だ。
さっきヘイグラム達と飯を食ったが、それでもいい匂いを嗅ぐと腹が急かしてくる。
早く食えと急かしてくる。
アトラは物憂げな顔をしていた。何か残念そうに思っているかのような顔だ。
無気力な目がさらに無気力に。心配になってくる。
「アトラ、どうしたの?」
レイが話しかけると、アトラは思い出したようにあっと小さく叫び彼女に向けて空笑いを向けた。
「いや、噂の人物と会えなかったなって、、、」
「それなら気晴らしにケーキでも買う?」
「お前が食いてえだけじゃん」
「えへへ」
そんな他愛もない会話をしていた時、アトラの横を通り過ぎる影があった。
彼は気づいていないようだが、影の正体はそこにあった。
白黒の体に5メートルくらいの全長、鋭い赤い目。大きな頭に禍々しい牙、短い二本指の前足。
ティラノサウルス・T・レックス。
彼とすれ違った、黒髪に英国の近衛騎士のような服を着た剣を腰に下げた16歳程度の青年。
アトラ・クラウド。
この二人の運命が交差するのは、まだまだ先のことだった。
ありがとうございます♪
ブックマークをお忘れなく!!