表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/46

ファーストキッスは死の味

 

 ーーそこは氷河に覆われた大地だった。

 毎日のように吹雪き、寒く冷たい大地。

 だが追憶の中に映るのは、ただ、一瞬、ほんの一瞬だけ氷河や雪がやみ、草木が姿を現して、豊かな緑が再び主役となる、ひと時だけだった。

 

 私は姫君の髪をとかしていた。

 私と同じ金色の髪なのに、別格の気品があり、美しく可憐で、とても長い髪を。

 姫君は蝶を指先で弄びながら、

 「貴方、髪とかすの上手なのね」

 「毛繕いと同じではないですか?」

 姫君は一瞬意味がわからないような顔をして、クスリと笑いました。

 「確かに。だけど、ホモ・サピエンスの髪は繊細だから、丁寧に手でやらないと禿げてしまうかもです」

 「では、もう少し丁寧にできるよう努力いたします。姫君が禿げてしまうので」



 追憶の中、氷雪の中の死の中で思い起こすのは、母でも父でもない、ただ、貴方の顔だ・・・・・・。

 

 

 スミロドンの第一武器『全てを宿せし最強の剣』がマノスポンディルス・ギガスに直撃した。

 ガガガガガッガガガガガガガガ!!!!!!!!!!!!!!!!!と凄まじい音が響き、マノスポンディルス・ギガスが大量の龍力を飲み込み、地面が爆風で抉れ、木々が宙を舞い、粉々に砕け散り風に流されていく。

 レックスは地面に脚を縫いつけ、どっしりと構え、マノスポンディルス・ギガスを複数同時に維持する。

 マノスポンディルス・ギガスの効果は、大量の龍力をその大顎で飲み込み喰らい、レックスの予備龍力として貯蔵するというものだ。

 だから、大量のマノスポンディルス・ギガスでスミロドンの斬撃を全て吸収してレックスの龍力として再利用することができるのだ。

 

 このままいけばレックスが全てを喰らい、大量に龍力を消費したスミロドンをぶっ潰す。

 だったのだが、


 「・・・あ?」

 ティラノサウルス・T・レックスが眉を顰めた。

 パキッ、と、マノスポンディルス・ギガスから音がした。

 この音は骨に亀裂が入る時の音だと直感した。

 何度も獲物の首の骨を噛み潰してきたからこそわかる。


 そして、これからなにが起こるのかも。


 「チッ!!」

 レックスが舌打ちをした直後に、全ての大顎を見回す。

 6個中4個が半壊状態だった。


 「マジか・・・・」


 マノスポンディルス・ギガスの龍力の許容量が限界を越え始めているのだ。

 大顎にさらに亀裂が入り、並んだ力強い牙がボロボロと風に流されて消えていき、骨が前から風化していく。


 ここでレックスは考えた。

 

 一か八かの賭けだ。

 「・・・・行くか・・・」

 腹も据わった。


 レックスが僅かに身をかがめた次の瞬間、

 「!?」

 

 スミロドンの視界から一瞬にしてレックスの姿が消えた。

 そして、気付けば彼女の懐の中に入っていた。


 残像はなく、光よりも速く、光よりも速いので像が色づかず、輪郭だけ浮き出た黒がそこにある。

 

 あまりにも速すぎたためか、網膜がレックスの像を焼き付けることを諦めていた。

 次の動作などある程度想像がつく。

 拳を振り抜くか、蹴りをかますか、単純に並行圧力で血管をボロボロにしてくるか。

 すると予想通りレックスは身を屈めて拳を弾き、力を込めた。

 殴るつもりだ。

 

 

 スミロドンが顔を引き攣らせて素早く剣で切り裂こうとした、その時、

 

 「王の口付だ。ありがたく受け取りやがれ」


 レックスが唇がスミロドンの唇に接した。

 まあ簡単に言えば、キスだ。


 そしてレックスがスミロドンの口の中に入れたのは舌ではない。

 コンマ単位に圧縮された時間の中で、彼女の体では収まりきらないほどの、制御出来ぬほどの量の龍力を流し込んだ。

 それは濁流の如き勢いで彼女の体の中で暴れながら進撃していく。

 

 龍力はスミロドンの龍力操作を乱し、一瞬にして『全てを宿せし最強の剣』の光線は霧散し、制御が離れたマノスポンディルス・ギガスも5秒ほどで全て崩壊した。

 スミロドンの腹が数秒だけ妊婦のようにブクブクと膨らみ、手足が震え、眼窩から滝のような血が流れる。

 彼女の体内に入った大量の龍力が行き場を失い、意地でも外から出ようとしているのだ。

 少し例えが違うかもしれないが、風船のようなものだ。

 

 いつの間にかスミロドンの身体はレックスとの身長差で持ち上がり、激痛に震えていた。

 「ぶっ・・・・!!」

 彼女の剣が黄金の剣から通常の無名の剣に戻り、粒子となって霧散した。

 龍力は引き続き注ぎ込まれた。

 この程度の消費量、恐竜の王から見れば屁でもない。

 ただ、相手が破裂するまで愛してやればいいだけだ。


 だが、案外それはすぐ訪れた。

 バズん!!と、スミロドンの全身の神経が半壊した。

 叫びにならない声が漏れ、穴という穴から血液が噴き出した。


 レックスは拘束を解き、唇についた相手の唾液をぺろりと舐めとると、

 「どうだ、俺にキスされるなんざ名誉だろ?ああ、耳の神経とかもぶっ壊れてるから聞こえねえかーー」

 彼はこの時、完全に油断していた。

 何せ神経が死にかけていて戦闘を継続できる生物を彼は知らない。

 立つこともできないだろう。


 だが、少々スミロドンという者を舐めすぎていたようだ。


 次の瞬間、

 レックスの顎に、脳を揺らすほどのスミロドンのパンチが喰らわされた。


 地球最強レベルの猫パンチだ。


 「ガハッっ!?」

 初めてコイツにダメージを喰らわされた。

 グランと体全体が揺れ動き、一瞬視界から全ての光が消えて真っ暗になったかと思えば、チカチカと明滅してノイズが走る。

 スミロドン、その武器は一重に牙だけにあらず

 そのマンモスさえ押さえつけられる強靭な腕力とライオンがへぼく見える全身の筋肉。


 その拳から放たれるパンチのエネルギーは、恐竜の王者にも届く。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ