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轟龍動く

 アトラは街中を駆けていた。

 建物の看板を掴み、建物の壁を走り、屋上を駆けて、用水路の水面を走ったり、道路の上を走る馬車の中を突っ切ったりして、最短ルートで裏山の方へ向かった。

 彼の能力『身体強化・ハードモード』でまるで稲妻のような速度で走り抜ける。

 服装は障害物に引っかからないように裾の長いものは館に置いてきた。

 たまに建物にぶつかることもあるが、身体強化による身体の強化で骨折することはない。

 小指をぶつけた時は痛みがなくて逆に焦ったが。

 

 そもそも、もうすでに何人かが動いてくれているとは思っているが、それでも自分の目で確かめなければ気が済まないのがアトラという男だ。

 「とにかく急がねえと」

 誰が引き起こしたことなのかを突き止めなければいけない。

 

 ふと下を見れば、大勢の人たちが住居や建物から出て、ざわめき立っていた。

 中にはアトラス学園の制服を着た人などもいる。

 

 アトラがまず向かった場所は、アトラス学園の女子寮だった。

 白い壁に赤い屋根が特徴の、男子寮より少し小さいサイズの建物だ。

 階層は確か四階建てだったか。

 彼はバレないように壁に張り付いてカサカサと移動して、ある頼れる先輩の部屋を探した。


 ある部屋の窓を叩く。

 レディーの園であることを弁えて優しくガンガンと。

 

 アトラは中の暗い窓越しに声をかける。

 

 「フアリ先輩、起きてますかあ」

 「おっと軽々しくレディーの園に入るんじゃない」


 ドスの効いた先輩の声が聞こえた。

 フアリは部屋の窓を開けると、可愛い可愛い後輩を睨んだ。

 「相変わらず先輩の目はトカゲみたいですね・・・」

 「人間から見ればそりゃ異質にうつるじゃろうな」

 フアリはアトラに靴を脱いでもらい、部屋の中に招き入れた。

 彼女は寝間着姿からいつもの異民族ファッションに着替えて、ベッドの上に座って、

 「で、アトラ坊、どんな要件じゃ?」

 「その前に先輩、俺の目の前で着替えんのやめてください」

 「何故じゃ?」

 フアリの問いかけにプイと顔を逸らすアトラくん。

 全てを察してニタリと笑うフアリちゃん。


 フアリからの好感度が1上がった!!

 フアリルートまであと10ポイント!!

 やったね!!


 「さてそんなことはどうでもよくて、先輩、裏山の光、見ましたよね?そして直後の轟音も」

 アトラの問いに、フアリは魔道具の明かりをつけて部屋を明るくすると、

 「ああもちろん。わしら恐竜は、いつ襲撃が来ても対応できるようにいつでも薄目で寝ているし、耳も起きている。気付かぬ方がおかしいぞ」

 彼女は続けて、

 「わしを頼ってきたのだろう?凄まじい行動力じゃな。だがもう2度と女子寮の壁をカサカサと移動するな」


 寝ている時襲撃に遭ってもいいように薄目を開けているのは全生物共通だ。

 キリンなどに至っては立ったまま寝ており、座って眠るなど言語道断。

 

 ちなみに動物園では外敵がいないのでたまに座って眠るキリンの姿が見れることもある。


 フアリはとりあえずお茶を汲んでやると、それをアトラの眼前に置く。

 「飲むか?」

 「急いでいるので早くいきましょう」

 「わかっておる」

 後輩に差し出し拒否された茶をグビイと飲み干して、

 「さっき、僅かながら龍力を感じた」

 龍力という聴き慣れない言葉に、アトラは少し首を傾げた。

 「龍力?」

 「わしら恐竜などにある特殊な力のことじゃ。あっ、この事は口外無用じゃ。もし漏れたらその時は闘技場で会うとしよう」

 何かこれ以上触れてはいけないものを感じたので、アトラは次に用意しておいた質問を喉の奥底に引っ込める。

 冗談冗談、だが口外はするな、としっかりと釘を刺したフアリは、長い金髪を纏めてポニーテールにし、フードを深く被った。

 「門限じゃから、こうやって顔を隠すぞ。アトラ坊、わしを抱き抱えて移動しろ」

 「ええ・・・」

 「なんじゃそれ?別にわしは軽いから良いだろう?」

 


 アトラはフアリを抱えながら、再び街を駆ける。

 女子寮の屋根を飛び越えて、そのまま人気のない場所に降りて疾走する。

 

 アトラが道中口を開いた。

 「で、フアリ先輩、あの閃光が何者かのものだとしたら、どうしますか?」


 フアリはニタリと、人間ではない、まさに恐竜のような笑みを張り付けて、

 

 「決まっとるじゃろ。それ相応の罰は下すさ」

 

 


 

 

 



 

 

 

フアリの中にキシリカを見た。

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