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最終ラウンド

 ゴイジャフリ・オウテンフィルスは学生寮のベランダに出て、ゆっくりと星空を眺めていた。

 視界の奥のアトラス学園の裏山のバックが特に美しい。

 空を埋め尽くす綺麗な星の明るさは昼にも引けを取らない。


 ・・・いや、それは流石に誇張しすぎか・・・。

 さっぱりとした涼しい夜風が服の繊維をすり抜けて、皮膚を優しく撫で回す。


 「やっぱりヘルバの星空は綺麗だなあ。ねっ、ヴァレント」


 オウテンフィルスが部屋の中に視線を投げると、そこにはベッドの上に犬のように寝転ぶヴァレントがいた。

 声が届いたのか、ヴァレントもベランダに出てオウテンフィルスの横で一緒に星空を眺める。

 彼女の赤い目には、不思議と懐かしむような光が宿っていた。

 その瞳を見たオウテンフィルスは、クスリと小さく微笑んで、

 

 「ああ、君にとっては懐かしい風景だよね。勇者さんとの思い出だもんね」


 するとヴァレントは少し悲しそうに俯いた。

 少し人間臭い。


 「あっ、ごめん。別に君を揶揄ったわけじゃないんだ」


 オウテンフィルスは謝罪して、ヴァレントの頬を撫でてあげる。

 その後に猫のように顎をゴシゴシとしていると、隣の部屋のベランダから同級生の声が聞こえた。


 「よおオウテンフィルスくーん!」

 隣の部屋のベランダの方に顔を向けると、赤髪の中肉中背の、オウテンフィルスと同じ歳くらいの男子がいた。

 オウテンフィルスは彼の姿を確認すると、たははといつものように乾いた笑いを飛ばす。

 「そんなに大きい声を出すなってユーリ。部屋と部屋はそんなに離れてないだろう?」

 ユーリと呼ばれた男子生徒は、ベランダの柵に背中を預けて、

 「オウテンフィルス、なんか最近お前調子悪くね?」

 「え?」

 キョトンとしたオウテンフィルスに向かって、ユーリは続ける。

 「いや、俺らに比べたらクッソ強いのは変わらねえけど、でも、目に見えて出力が落ちたなあって・・・」

 オウテンフィルスはクスリと笑うと、

 「ああ、やっぱり気付いてた?いや、言い訳に聞こえるかもだけど、使役している怨霊が戦闘でだいぶ減っちゃってさ。

 今はヴァレント以外はいないよ」

 「マジかよ。闘技大会までには増やしとけよ。お前はうちのクラスの最高戦力なんだからな。去年みてえに、アトラスのAクラスには負けたくねえからな」

 ユーリがぎゅっと拳を握り締める。

 「分かったよ、少なくとも十万は補充しておくよ」

 オウテンフィルスは余裕そうにたははと笑い、再び星空、アトラスの裏山の背景に視線を合わす。

 「それにしても綺麗だよね、ユーリ。あの裏山と星空のコントラストが美しいと思わーー」

 

 彼の言葉が終わろうとした、その時。


 「!?」


 カッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!と、紫色の閃光が視界を塗り潰した。

 そして一瞬にして光は収束し、直後にとんでもない破裂音と爆発音が二人の耳を叩いた。

 

 一間置いた後すぐに学生寮の全ての部屋の明かりが点灯されて、ポツポツとざわめきが聞こえ始めていた。

 ユーリは冷や汗を垂らしながら、オウテンフィルスのいるところに向かって叫んだ。


 「おい!!俺らも先生に連絡取らねえと!!」

 だがオウテンフィルスは至って冷静に、

 「うん、そうだね。とりあえず要請が出たら僕がヴァレントを連れて調査に行くさ」

 「優等生くんは冷静だねえ!!」

 


 学生でありながら『魔神』である彼には、当然他の学生とは違う『特別権限』がある。

 魔力や魔術に関する事故、災害、事件が起きたときに調査申請書を上層部に提出して、それらを調査できるという権限である。

 


 二人は寮の部屋から廊下へと飛び出して、すぐに教師たちのいる場所へと走っていった。



 一方で、裏山では、スミロドンとレックスの戦闘が再開されていた。

 スミロドンの体は完全回復し、レックスはティラノサウルスの牙を模した象徴武器である、『骨刀』を用いて応戦する。

 幾重にも剣戟を重ね、その都度削られていく龍力を、2匹は感じ取っていた。


 ガンっ!!

 キリリリ・・・!!


 つば競り合いが起こる。


 レックスの刀が、わずかに軋む音を立てる。

 それだけで彼は、スミロドンの本気度を感じ取った。

 

 重圧の中で、レックスがついに口を開く。


 「なあ、スミロドン」

 スミロドンもそれに呼応する。

 「なんだ恐龍神・・・!!」

 

 「なんでDクラスなんて奴らに手を貸す必要性がある?」

 「っ!?」


 ガイイイン!!!とつば競り合いが弾けて、両者は距離を取る。

 圧がさらに重くなった。

 そして、夜の無音。


 カチャリとスミロドンは『魔剣グラム』を下ろし、相変わらずの無表情でこう淡々と語り始めた。

 「騎士というものは主人の命を何がなんでも遂行するというのが信念だ」


 レックスは片方の骨刀を肩にかけて、へっとあざけるように笑う。

 「そんなんは騎士じゃあねえだろ。てゆーか、こんなくだらねえ命令をやり遂げようとしているお前は狂っているようにも見えてくるが?」

 

 スミロドンは虚しそうに笑う。

 「主君の命令とは絶対的なものであり、そして騎士は主人やその身内を、何がなんでも決死の覚悟で守る。

 私も、主人であるタナカを必死に守る。

 ・・・・最も、私にとっては『罪滅ぼし』のようなものだが」

 何か含みのある発言をした後に、スミロドンは懐かしむように宙を見つめてから、再びレックスの方に視線を戻す。

 


 「それがサーベルタイガー一族の騎士道にして、私の騎士道だ」


 そういった彼女の目は凛として、一点の曇りもなく、ただ一つも絶望していない。

 騎士の中の騎士。


 その称号が誰よりもふさわしいような生物が、彼女だった。



 スミロドンは剣先を再びレックスに向けて、

 「行くぞ、恐龍神!!覚悟を決めろ!!」

 

 レックスはニタリと不敵に笑うと、

 「いいぜ噛ませネコ!!最終ラウンドだッッッッ!!!!!」





次回、スミロドン、第一武器、解放!

ティラノサウルスとサーベルタイガーの激闘が堂々決着!!(する予定)

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