超次元の戦い
スミロドンは僅かに体制を低くして、猫科の動物が狩りのとき獲物をよく狙う時と同じような姿勢をとった。
まずは自分に近い背中側の矢を弾く。
僅かな差でしかないが、ほんの僅か背中側の方が自分の方に向かってくる速度が速い。
前方の矢は加速の途中だ。
剣を構えて、踏み込もうとしたーー
その瞬間。
突然、フッと後方前方全ての矢が白い粒子となって霧散した。
スミロドンの思考が一瞬止まる。
身構えていた身体からほんの僅かに力が抜けるのがわかった。
それが命取り。
そしてその直後、背中に強い衝撃が加えられた。
ドスっという効果音も無く、ただ何者かの足がめり込んだというのに気づくのは一秒後だった。
悲鳴をあげる暇もなく、身体も持っている剣も、眼球や髪の毛でさえ硬直した。
スミロドンの背中には、レックスの飛び蹴りが直撃していた。
並行圧力でスミロドンの皮膚の垂直抗力をレックスの足が衝撃を加える方向と同じにし、さらに足に龍力を帯びさせて強化。
並の恐竜では死亡とはいかなくても
ーー武器は能力と並行して使えないというのが原則だ。
なのでレックスはギリギリまで相手の集中を引いたところで武器を解除し、瞬時に演算を終えてスミロドンの背中に蹴りを入れたのだ。
ズドオオオオオオオン!!とスミロドンの身体が再び吹っ飛び、さっきと同じように地面を抉りながら激突する。
あまりの衝撃に意識を失いそうになるも、すんでのところで持ち堪え、もう一度空中で体制を立て直そうとした。
だがーー。
「逃さねえぞ」
スミロドンの耳に、怪物の笑い声が容赦なく上り込んでくる。
その一言だけで背筋が固まり、剣が思わず手から滑り落ちそうになる。
そして気付いた頃には、その怪物はスミロドンの頭部を鷲掴みにし、生い茂る高い木々に彼女の顔面を容赦なく擦り付けた。
「あがばあ!?」
ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリゴリゴリゴリゴリゴリゴリごりいいいいいいいいいい!!!
顔面からドバドバと血が流れてとんでもない激痛が走り、骨が砕けてもおかしくない衝撃が頭蓋に伝わる。
音速を軽く上回る速度でレックスは地上を駆け巡り、裏山を何周かしてから顔面から大量出血しているスミロドンの身体を上空に放り投げた。
「ッッッッッッ!?」
物理的な力が彼女の華奢な身体を四方八方より蹂躙する。
5体が引き裂かれるんじゃないかと錯覚してしまうほどの激痛が全身を駆け巡り、出血で意識が霞む。
「フウっ!!」
歯を食いしばり、空中でぐわんと上体を起こし、手に持った剣から黄金の粒子を放つ。
もう一度あの大技を放つ気だ。
「エクスーー」
ブワッと黄金の粒子は剣に纏わりついてさらに光り、まるでもう一つの月のように地上を照らした。
「カリバアアアアアアアアアアア!!」
再び網膜が焼き切れるのではないかというほどの光と熱気のまとわりついた魂の斬撃が降り注いだ。
ドギュベルくん腹黒いんすよ。




