夕食前
俺はロリタルネに背中を流してもらった後に、すぐに彼女と風呂から上がり、今更衣室にいる。更衣室は男女で分かれてないらしい。
ああまだ文明水準が低いからそこら辺はアウトローなのか。
俺が衣服を入れるカゴに手を伸ばしている最中に、後ろのロリタルネがこんなことを言ってきた。
「お着替え除いたらNGなんだよって、あらかじめ忠告するの!!」
「見るもんねえだろーがよ」
「おぶっ!?それはレディーに投げかける言葉じゃあないかも!!」
俺は近くにあった鏡で自分の顔を改めて見る。
下ろすと肩にかかる長い白髪。
この世界では白髪は『病弱』という意味があるらしい。
赤は『情熱』、青は『冷静』、緑は『優しさ』、黒は『強さ』と、髪色にも色々な意味があるそうだ。
まあ、俺は病弱でもなんでもねえんだが。
ただ体が少しだけヒョロイってだけだ。
別に体型にコンプレックスなんか持っちゃいねえ。
加えて顔面偏差値もそこそこだしな。
俺はカゴの中にある紐を手に取り、その紐で長い白髪を結ぶ。
ティラノサウルスは幼少期、身体中を羽毛で覆われている。
俺の羽毛の色は白だったから、人化した時の髪の色も白だったのだろう。
羽毛は成長するにつれて少なくなっていき、羽毛が少なくなるにつれて体も大きくなっていく。
俺は死ぬ時18歳だったから、羽毛はもう完全になくなっていると言ってもいい。
いや、少しは生えていたからな?
だがなぜこんなにも髪が生えている。
いや生えているのはいいんだけど、なんか謎が残るな。
そこで、俺はある仮説を立てた。
人化する時は、その時の『年齢』や『身体的特徴』が『人間』にトレースされるというものだ。
俺は18で死んだ。
ティラノサウルスの感覚でいえば成体だが、人間から見ればまだ若い。
俺は『人間』の18歳になったのだ。
そう考えると、何故だか納得いくような気もする。
だが能力が弱体化したのは何故か?
謎が深まるばかりだ。
俺は次にシャツ、パンツを履き、寝間着に着替えた。
この寝間着は前止めの柔らかい繊維で作られており、一見学生服に見えなくもない。
「じゃあ俺は夕食の会場に行ってるからな」
そう言い残して更衣室を去った。
これから一旦部屋へと戻り少し休んだら会場へと赴こう。
カリタルネがいつも呼びにきてくれるからな。
本当に有能だなあいつ。
いつもの廊下を歩きながら、俺は部屋へと戻っていった。
そう言えば、教授の姿を見かけないな。
どこに行ったんだ?
前方からこちらに向かってくるメイドさんに聞いてみた。
「あの、今日教授はどこへ?」
「コウリンブルク教授なら、今日の昼頃、冒険者時代の旧友の家に泊まりに行きました」
あの人、冒険者なんかやっていたのか。
旧友っつー事は同じパーティーに加入していたのかも知んねえな。
まあ多分その旧友さんもだいぶおじいちゃんなんだろうな。
冒険者時代と言ったら、それは若い頃の話なのだろう。
なぜかと言うと、老人になっても冒険者をやっている人というのは、非常に少数だからだ。
ほとんどはヨボヨボになる前に出会いを果たす。
あと、ジジイになったら俊敏な魔物ととても対等には戦えない。
人族は力のある期間が短すぎるのだ。
恐竜も寿命が短いのと長いのがいるんだが、ティラノサウルス族は平均で30年くらいか。
いや、健康的に過ごせば50年は生きられるんだけどさ。
でも肉を食いすぎて痛風なんて間抜けな様になることもある。
そして、基本的に人間はティラノサウルスよりも寿命は長い。
ん?だったら、俺の寿命はどれくらいだ?
人間に合わせられるのか恐竜に合わせられるのか。
でも、現にカリタルネは人化しているのに400年以上も生き続けている。
元々の種族に左右されるのか?
だとしたら俺に残された時間はあと最大でも32年くらいってわけか。
短えな。
いや、別に不老不死なんかに興味はねえんだけどよ。
だが、この世界での生活は退屈じゃねえ。
はっきり言って幸せだ。
だから自然と、死ぬときに未練が残っちまうかもしんねえな。
俺はメイドと別れて、再度部屋へと向かった。
ー
「チッ、やはりイマイチだな」
俺はベッドに腰掛けて、そんなことを呟いた。
いまさっきやったのは、掌で『並行圧力』を発動し、小さな風を作り出すものだ。
側から見たら訳がわからないだろうが、俺にははっきりとわかるものがある。
風の大きさは問題ではない。
その『調整』だ。
まず速攻性が欠けている。
とんでもないラグが生じている。
対人戦闘なら申し分ねえが、恐竜がもし相手になったらどうなるか。
一分一秒で決着をつけなければいけない恐竜同士の戦いには、能力の発動が少し遅くなればそれだけで死だ。
何か能力の演算から発動までを円滑化する方法があればいいんだがな。
まあこの世界では流石に恐竜には出くわさないだろう。
恐竜が人間世界にみんな転生しましたなんて冗談でも笑えねえからなア。
いつの間にか俺は自嘲げに笑っていた。
一人で能力の調整を行なっていると、ドアがノックされた。
ああ、夕食の呼び出しか。
「どうぞ入ってください」
丁寧な口調でそう言うと、ドアがガチャリと開き、カリタルネがひょっこりと顔を出した。
ツインテールではなく、普通にその真紅の髪を下ろしている。
服はメイド服ではなく普通の寝間着だ。
花柄ピンク色で、ところどころ縞模様が入っている。
この館のメイドたちにはシフト制があり、夜休み、朝休みの人達が交代で仕事をすることでうまく回っているのだ。
こう見ると、普通の女の子みたいでちょっと可愛い。
彼女はいつものかしこまった表情で言う。
「夕食のお時間でございます」
「じゃあ行きましょうか」
俺はそう答えて腰を上げた。
ティラノサウルスが異世界に転生されたようですは長いので『ティラ転』と略そうと思います。
さあて、『ティラ転』が100倍楽しくなる恐竜豆知識!!
一発目は・・・・
「ティラノサウルスは足が遅い」
最新の研究では時速20キロ程度しか出せなかったと言われています。
『ジュラシック・パーク』では車と並走していましたが、あれほど早くは走れないと言うことです。
ですが持久力はあったようで、速度を維持したまま、三時間以上も走ることができました。
第24話、楽しんでもらえたでしょうか。
ヒロインはまだ登場しておりませんが、恐竜はたくさん出てきますので恐竜ファンの方、ご安心を。
出して欲しい恐竜がありましたらリクエストください。
マイアサウラ出したいですね。
『可愛いママキャラ』的な感じで。
そうするとレックスくんが人妻趣味に目覚めてしまいそうなので躊躇っていますが。




