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修練場のイジメ騒動・前編

 俺、ティラノサウルス・T・レックスが人間の姿になってから、一週間が経った。

 春のような季節から夏に変わるかのように段々と暖かくなっていき、そろそろ館も衣替えの時期だという。

 人間に適した環境で生活するには人間体の方がいいというカリタルネからのありがたいアドバイスのもと、最近はずーっとこの身体で生活をしている。

 長い銀髪に赤い目、ほっそりとした体に、意外と高い背。

 俺が人間になったらこんな姿になるのかという驚きがあった。

 長い銀髪はまとめて、服装は黒スーツと黒い古びたローブで生活をしている。

 この体にも慣れておかないと、就活する時大変だからな。

 といっても、やはり前の体の方が落ち着く。

 なんというか、フィットしてる感じがしないのだ。

 魂が別の体に移転したみたいな感じで、自分が自分でないような錯覚すら覚える。

 5本指の生活というのも大変だ。

 最近は5本指になれるために色々な家事を手伝わせてもらっている。

 掃除や人の社会に慣れるための買い物、料理に洗濯。

 少々この身体は動きにくいところもあるが、カリタルネの善意だ。

 甘んじて受け入れよう。


 後、能力の具合が悪いことに気づいた。

 これはオウテンフィルスと戦った時から薄々気付いていたが、どうやら小型化+人化により能力が大幅にダウンしているらしい。

 まあこれでも別にいいがな。

 そして魔術を試してみた。


 初めての魔術は初級水魔術・水弾。

 桶を用意して教科書通りに詠唱し、魔力を手首に集中させて生成する。

 一応俺にも魔力はあるらしいが、どうも感覚が掴めない。

 そして、俺には1日1発が限界で、それ以上やると異常な倦怠感が襲ってくる。

 魔力の枯渇による一般的な症状らしい。

 どうやら魔術の才能はないらしい。

 ぴえん。せっかく異世界に来たんだから魔術くらい上手くなりたかったな。

 そして魔力総量というものは生まれた時から決まっているらしく、伸ばすことはできないと言われている。


 因みに俺には魔力の代わりに膨大な『龍力』がある。

 龍力というのはいってしまえば、恐竜が能力を発動させるときに消費する、この世界でいうところの魔力みたいなもんだ。

 俺が恐龍最強と呼ばれる理由は、その膨大な龍力総量にある。

 通常の恐竜が100だとすれば、俺はざっと200億くらいはある。

 だが魔術の訓練は怠らない。

 これも訓練の一環だ。

 

 カリタルネに魔術を見せてもらったところ、彼女は炎魔術を上級まで、斬、闇を除く全ての属性を中級まで使えるらしい。

 しかも雷と炎は無詠唱。

 さすがは竜王の娘。

 魔力センスはずば抜けてやがる。

 ロリタルネは俺に触発されて魔術の勉強を始めたらしく、結構上達が早いのか、もう治癒魔術は初級まで使えるようになっていた。

 治癒魔術ねえ・・・俺には再生能力・『ローカルバッテリー』があるし習得は後回しでも別にいいか。

 今は水系統の魔術を練習して、魔力を扱う術を学ぼう。

 


 俺が今いるのは、町にある修練場だ。

 街のど真ん中にあるこの修練場は館とは少し離れていて、そして巨大だった。

 建築技術も高く、鉄筋コンクリートこそないものの、古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる建造物であった。

 近くにある展望台は日本の、なんだっけ、法隆寺だったか?

 それとどこか似ている造形で、この世界の建築技術の独自性を窺わせる。

 この修練場は図書館や剣道場などの施設が完備されており、学校帰りの学生達が集うスポットらしい。今日は学校はお休みの日で、この修練場に来ている学生も多い。

 俺が今向かっているのは闘技場。

 正確には模擬戦のための部屋だ。暇だったので見学だ。

 石造の廊下を歩きながら闘技場へ近づいていく。

 「おっとと」

 こけそうになった。

 やはりこの身体での歩行は慣れていないらしい。

 尻尾がないからバランスも取りずらい。

 恋しいな、恐竜の体。

 顎の力も落ちた気がするし、背も低くなった気がする。

 いい事ないな、これ。

 そんなことを考えていると、闘技場からの喧騒が耳に滑り込んできた。

 あと闘技場まで五十メートルはあるが、はっきりと聞こえた。

 大人数で騒ぎ立てているかのような声。

 なんだあ?試合か?

 そう思ってさらに歩を進めてみると、この喧騒がより詳しく言語化された。


 「タナカ‼︎裏切りモンに一撃食らわせてやれ!!」

 「おいこら避けんなよ!!」

 

 一瞬で理解した。

 これは、「いじめの現場」だ。

 不快感が腹から湧いて出てくる。まるで草津温泉のように。

 レックスは激怒した。かの邪智暴虐なDQNを除かなければならない!!

 あからさまに痛めつけるかのような声。

 複数人どころか、何十人もいるじゃねえか。

 寄ってたかってボッコボコ。

 生物の種類は違ってもこれだけはセオリーなんだな。

 反吐が出る。

 ああいたいた、前世でもこういう奴らが。

 俺を倒せばあわよくば自分が最強になんて思っている三下どもがウヨウヨと。

 どうする?止めるか?

 冷静になれ。

 相手の力量はわからない。

 しかも時折聞こえる爆発音はおそらく炎魔術。

 魔術は並行圧力で防げるかもわからねえ。

 まじでどうしよう。

 

 いや、行こう。

 俺は変わると決めたんだ。

 

 俺は意を決して闘技場の入場口の扉を開けて、模擬戦用のフィールドの入場口の扉の影に隠れた。

 ガチャリという音と共に闘技場の風景が目に飛び込んでくる。

 直径約三十mの円形のフィールド。

 それを囲むようにして五段、観客席がある。

 そしてーー。

 やっぱりな。

 観戦用の席には30人あまりの学生服を着た人間が蠢いていて、問題なのはフィールドの中央。

 金髪の筋骨隆々とした若い男が、背の低い黒髪ツインテールの女の子を魔術で痛めつけている。若い男の名前は、さっきの喧騒から察するにタナカ。

 殴る、蹴るは序の口。

 初級の水魔術で服を濡らす。わあ濡れ透けエッッッッッッッッ。

 ああいやいや見惚れている場合ではないぞレックス。

 因みにこの身体になってからはやけに人間のメスが好みになってきている。

 特に目の前の女の子の胸の膨らみは垂涎ものである。ご飯三杯はイケる。

 オカズ?決まってんだろ。

 いやいや今はこの悪虐非道な現場を止めねばならない。

 急いで止めようとフィールドに突撃しようとした。

 その時。


 ドンっ!!

 

 人影がフィールドに女の子を庇うように降り立ち、その腰の剣を抜く。

 そして俺は目の前のエッロイ女の子でn・・・・おっと誰か来たようだ。

 その人影の正体は青年だった。

 長い黒髪を一つにまとめ、イギリスの近衛騎士団のようなデザインの学生服を身にまとい、キリリとした精悍な顔つきをした剣を持った16歳そこらの青年。

 どっかで会ったような気がしないでもない。

 突然現れた青年にタナカは嘲笑を浴びせた。

 「なんだあEランクの出来損ないがでしゃばりやがって!!ヒーロー気取りですかあ?!」

 すると観客席の野郎どもも口々に「おーい死ぬぜあいつ」だのなんだの言っている。

 どうやら彼らにはタナカの発言が死亡フラグの塊であることにまだ気がついていないらしい。

 タナカは相手がガチ目の剣を持っているというのに全く動揺を見せない。

 魔術を使っているからおそらくタナカは魔術師と推測されるが、詠唱に時間をかけている間に斬られんじゃないのだろうか。

 いや、タナカがそれにすら気づいていないただの馬鹿なのか、はたまた剣士の方が無謀なのか。

 しかし剣士の青年はいくら挑発されても微動だにしない。

 それどころか強者感まである。

 そしてその二人とは対照的に女の子はめっちゃくちゃ動揺している。

 そりゃそうだ。

 自分がいじめられている時に颯爽と助けが来たって、いきなりキャーステキとはならないだろう。

 俺だったらまずえ?ってなるね。

 今日の俺は乙女モードじゃないんでな。

 いつの間にか俺は青年とタナカの睨み合いを観察していた。

 もし青年がやばくなったら助けに入ろうか。

 そう思いつつ観戦客の一人となっていた。

 

 まず最初に動いたのは剣士の青年。

 剣を下げて全速力で相手に近づいて距離を縮める。

 剣士の基本的な戦い方だな。

 対して魔術師タナカは青年が肉薄してきたので慌てて風魔術を詠唱して距離を取る。

 すんげー早口だった。

 よし、俺も!!

 かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ!!あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ!!

 ドヤア。

 反射神経と咄嗟に魔術を放つ判断力はいい。

 タナカもただのチンピラではないらしい。

 そしてタナカは剣士の足元に泥沼を作って足止めをし、めっちゃ早口で氷の槍の魔術の詠唱を三回唱えた。

 しかし剣士も一筋縄ではいかずに、すぐに泥沼から抜けて体制を立て直すと、飛んできた氷の槍を受け流す。

 それを一度に三発。

 相当洗練された剣術だったと言える。

 人族って魔術だけでなく身体能力もいいのかよ。

 もしも恐竜絶滅後の地球にこの種族がいたら即生態系の覇権握っていただろうな。

 氷の槍はすぐに砕け散り、破片がボロボロと床に落ちる。

 剣士はそのまま前進!!

 コイツいつも特攻してんな。

 クールっぽく振る舞っているけど実は脳筋なんじゃね?

 剣士は何回か魔術を受け流した後にタナカの鳩尾にキックをお見舞いした。

 タナカは衝撃で倒れそして気絶した。

 哀れタナカ。

 安らかに眠れ。

 観客席が静まり返った。

 そして数秒後にはざわめきが。

 「なんでEクラスなんかが・・」だの、「ウッソだろオイ」みたいな狼狽した声。

 嘆きや怒り、果てや「アイツ俺がやるわ!!」というかませ犬がぴったりなやつまで登場する始末。

 しかしそんなざわめきの中で、一際剣士は冷静だった。

 彼はタナカに近づいて死んでいないことを確認すると、次に女の子に近づいて跪き、手を差し伸べて微笑む。

 「大丈夫か?」

 あらやだイケメン。

 名前わからんけど俺からの好感度が2アップした。

 レックスルート開拓おめでとう。

 誰かはわからんけど。

 すると女の子は一瞬戸惑うような素振りを見せてから、自分の身体を見回す。

 服の細部は破れ、露出している肌には無数の浅い傷。

 水をかけられたから体温も下がっているであろう。

 彼女はそれを理解したうえで、

 「ありがとう、助けてくれて。怪我はどうしよう?」

 よし、そろそろ俺の出番ーーーーーー。

 「僕が治すよ!!」

 俺の横を通り過ぎる影があった。

 銀髪の背の低いマントを着た美少女だ。

 しかも僕っ子ときた。

 いいねえいいねえ最ッ高だねえ‼︎

 まずいまずい俺の中の好みが危うくベクトル変換されるところだった。

 俺の出る幕はないとさりげなく告げるかのように少女は傷だらけの女の子に近づいて跪き、傷口に手をかざして呟く。

 「豊穣の神ヒバビデオと健心の神ヨルンに命ずる。今ここに倒れし勇猛なる者にその加護を与え再び立ち上がらせたまえ。『ヒーリング』」

 直後に、少女の手からパアと緑色の淡い光が発生し、傷を何箇所も一気に治していく。

 これが治癒魔術か。ヒーリングは初級らしいが、それでも擦り傷はなんとかなるのか。

 次に銀髪の少女は炎の初級魔術で女の子の身体を温めて肩をかして立ち上がらせ、剣士含む3人で悠々と闘技場から退場して行こうと歩き出した。

 女の子はまだ少し痛みが残っているらしく、ヨロヨロと立ち上がった後に膝を押さえた。

 立ち上がる動作も変だ。骨が折れているのか?

 俺、行った方がいいのか?

 骨折くらいローカル・バッテリーで一瞬だからな。

 前世でもそういう使い方していればなあ。

 痛そうに膝を押さえる女の子に、銀髪少女は聞いてみる。

 「骨、大丈夫?」

 「折れてるみたい」

 「ごめん、僕初級しか使えないから骨折は・・・」

 うし、もう行くしかないな。

 だって今日俺見せ場ないもん!!

 とりあえずオレが駆け出した時、待ってましたよ出番が来るのと言わんばかりにチンピラが出て来た。

 観客席から一人、フィールドへ飛び降りる。

 骨折れへんのか心配になるわあ。

 今度はヒョロッヒョロのガリ勉小僧。

 なんだろう。頭悪そう。

 ガリ勉小僧っぽいチンピラは憎々しそうに叫んだ。

 「おい!!そこの銀髪と剣士!!お前らその制服、Eクラスのやつだろう!?何底辺がイキってんだぶち殺すぞ!?」

 あっ、よく見たらガリ勉と剣士の制服が微妙に違う!!

 じゃあガリ勉は何ランクだ?

 まあ言動から察するにEクラスよりは上だろう。

 でもなんだろう、ガリ勉よりも剣士の方が強い気がする。

 そんなことを考えているうちに、ゾロゾロと観客席から柄の悪い奴らがウジャウジャと降りてきた。

 数にして30人。いやほぼ全員じゃねえか。

 そんなに不服だったのか負けるのが。

 ヒョロイやつ、筋肉マッチョマンのやつ、ギャルっぽい女、色々いるがどいつも頭が悪そうだ。

 とりあえず仲間の一人が負けたくらいでそこまで怒れるとは、その団結力は誉めてやろう。

 3人を囲むような布陣を敷いた不良共は、何かに気づいたように俺の方を向いた。

 あれ?

 俺、バレてる?

 不良共は面倒くさそうに口々に言う。

 「なんかいるぜ?どうする?」「アイツも締めるか」

 おやおまあ物騒だこと。

 まあお決まりだよなあ発見者の口封じってのはよお。

 火曜サスペンスの鉄則をきちんと守れるたあご立派で。

 すると3人も俺に気づいたらしく、助けを求めるような視線を送ってきた。

 まあアンタらの中で一番強いの多分剣士だろうし、この数だと流石にそいつも厳しいか。

 いいぜ。

 人化してから退屈してたんだ。

 ちったあこの弱体化した能力にも慣れとかねえとなぁ。

 

 教授に怒られるかもしれねえが、こっちもイジメの現場見て見過ごせるほど腐っちゃいねえ。

 この世界に来た理由はもう一つあるが、まあ今は言わなくてもいいだろう。

 だってまだ完遂できてねえし。

 

 「やるか」

 

 そう呟いて俺は手首に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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