竜族の姉妹・中編
俺とカリタルネは館の庭から少し離れた森の中にいた。
もっと詳しくいうならば、チョロチョロと水の流れる沢の近くの苔の生えた岩の上。
沢は綺麗だ。
木漏れ日が水面を照らし、小魚が泳いでいる。
この匂いもたまらない。
深さは一メートル、広さは五メートルくらいで、一般的な沢よりもほんのちょっとでかい。
小魚の名前はロリタルネが教えてくれた。
『カワザメ』というらしく、見た目は可愛いがれっきとした肉食魚で、基本は群れで行動しており、沢や川に落ちた子猫などを好んで食べる。
俺はここに何度かきたことがあるが、いつ見ても美しい。雄大な自然もいいが、こういう沢の様な『小さな自然』もまたいい。
違った美しさというものは、魅力的だ。
さて、カリタルネは俺と同じ岩の上に立ち、真剣な表情で俺を見ている。
やめろよそんな・・・・このネタももう飽きてきたな。
ちなみにロリタルネは全身泥だらけになったので館に戻って風呂に入ってる。
俺はなぜここにいるのかがわからなかった。
カリタルネの表情から察する相当真面目な話題なのだろうということは分かるのだが、イマイチ状況が飲み込めない。
カリタルネはこほんと咳き込んでから、言う。
「単刀直入に聞きます。ティラノサウルス・T・レックス様。貴方は一体何者なのですか?」
俺は無意識にごくりと息を呑んだ。
妙に緊張しているのは何故か。
何者か?と聞かれれば、どう答えたらいいのだろう。
俺は唇を動かす。
「俺は皇龍族のティラノサウルス族にして、龍神帝王序列一位・『恐龍神』ティラノサウルス・T・レックスだ。気付いたらこの館のベッドで寝ていたんだ」
とりあえず、ドギュベルとかの話題は伏せておいた。極力怪しまれないように立ち回りたいからだ。
龍神帝王序列とは、簡単に言えば世界最強の恐龍達のランキング付みたいなもので、戦争とかによって変わることがある。
一位は種族名の後に『神』がつき、二位から四位までは『帝』、それ以下は『王』で、まあ俺は『神』がついてるから一番上ってことなんだが、何故俺は『皇龍神』じゃなくて『恐龍神』なのかというと、恐龍族全ての頂点に君臨するって意味だからな。
例えば二百万年前の序列一位・『暴龍神』ギガノトサウルス・バルドレウスは『暴龍族を代表して最強』って意味だからそこんところはややこしい気もする。
ちなみに俺の生きている時代の序列はこんな感じだ。
一位は俺として、
二位・『水龍帝』スピノサウルス・エジプテリエンス。
三位・『槍龍帝』トリケラトプス・ホリデュウス。
四位・『甲龍帝』アンキロサウルス・ローテンバイツ。
五位・『神龍王』アルゼンチノサウルス・ギャルグナーダ。
六位・『海龍王』モササウルス・ホフマニ。
七位・『天龍王』ケツアルコアトルス・ノルトロピ。
八位・『迅龍王』ユタラプトル・ディノクライシス。
九位・『闘龍王』パキケファロサウルス・ジャックホーナー。
俺が覚えているのは九位までで、それ以下は有象無象だ。
カリタルネの方を見てみると、頭の上にはてなマークがついているように見えた。
口が三角形になっており、目が点になっている。
しかし彼女はすぐにハッとなって、
「恐龍ということは、貴方は竜族なのですか?」
違うぜ姉さん。恐龍はこの世界の竜族ではない。
全く別物だし、種類から体系まであらゆる面から違う。
でもここで別世界から来たと言っても怪しまれるだけだし、だが竜族はこの世界ではものすごい差別されている種族だ。
もしここで『僕竜族』とか言ってみろ。どっかの宗教テロ組織がだまっちゃいねえ。
ここは別世界から来たという方が正しい選択な気もするが。
てゆーかなんでこんな話題を持ち出して来てんだこいつ。
「ちがいます。全くの別物です。なんでそんなことを聞くのですか」
俺は一番疑問に思っていることを聞いてみた。
するとカリタルネはうっと顔を顰めた後に、俺の方を見つめる。
「・・・誰にも言いませんか?」
「いうわけがないじゃないですか。それで、理由はなんですか?」
するとカリタルネは気難しそうに言った。
まるで自分の秘密を明かすかのように、
「私達姉妹が、竜族の生き残りだからです」




