プロローグ
「もう……いっちゃうんだね」
世界に存在する三つの大陸、そのうちの一つであるエトワール大陸。その中でも東の辺境にあたり、エルフたちの住まう森といわれるシルフィーヌの森の一角に寄り添うように佇む二つの人影があった。
そのうちの片方、腰まで届く輝くような金の髪を持つ少女はその翡翠のような瞳を潤ませ悲しげにうつむかせた。
「……長老がなくなった今、人間である俺がこの里にとどまればおじさん達にも迷惑をかけるからね」
その少女に向かい合うように立つ少年は、漆黒の髪を風になびかせながらさみしげににほほ笑んだ。
少女は自分の耳、少年のそれよりとがったエルフ族特有の耳を隠すように両手で押さえる。
「ごめんなさい」
少女はこらえきれずあふれてきた涙を隠すようにさらにうつむく。少年はうつむいてしまった少女の頭をやさしく撫で始めた。
「シェラが謝ることじゃないよ、それに旅をしてれば生まれ故郷に戻る方法も見つかるかもしれないしね」
「そう……ね……」
シェラはうつむいていた顔をゆっくりとあげると、涙で濡れた瞳で少年を見つめゆっくりとほほ笑んだ。
「いってらっしゃい、ハヤト。絶対に……絶対にまた会おうね」
ハヤトはそんなシェラの様子に顔を赤らめながらも、目線をそらさずにシェラに向かいほほ笑んだ。
「もちろん、絶対にまた会おう」
ハヤトは身を翻し、森の出口へと歩き始める。太陽の光に照らされたハヤトの後ろ姿を、シェラはその姿が見えなくなるまでずっとその目に焼き付けていた。