第7話 ミノケンタウロス
「クォーツ地区か……」
クォーツ地区。
電気や水が通っていないところが多くほとんどの人が昔ながらの自給自足の生活をしている地区。
そのためお金はほぼ流通していない。
手つかずの自然が多く残っていて緑豊かなところだが、少し閉鎖的な側面があるのが玉にキズだ。
リックたちと一緒に旅をしていた時に立ち寄った記憶があることを思い出し、それならと俺は誰にも見られていないことを確認してギルドの裏手に回り込むと体の前に手を差し出した。
「ヘブンズドア!」
呪文を唱えると目の前に大きな扉が現れる。
俺はクォーツ地区の風景を頭の中に思い浮かべながら扉に手をかけた。
ギイイィィ。
重い扉を押し開けるとそこには見渡す限り緑豊かな山々が広がっていた。
このヘブンズドアという魔法は、記憶の中にある場所に瞬時に移動出来るという便利なものでかなり高度な魔法である。
かつての仲間であるダンテも使うことが出来るが、何を隠そう俺が教えてやったのだ。
そういえば今頃あいつらはどこで何をしているのだろう……ってそんなことはもう俺には関係のないことだったな。
「さてと、ミノケンタウロスはどこだ……」
この辺りで暴れまわっているという話だったが。
周りを見回しても特に森林が荒らされた様子はないし、山の中は静かで小鳥のさえずりもはっきりと聞こえてくる。
「空から探してみるか」
俺は「スカイハイ!」と飛翔魔法を唱えると空高く舞い上がった。
素性がバレるので目立つことはしたくないのだが、この辺りには人はあまり住んでいないし都会の情報も届いてはいないだろうから問題ないだろう。
俺は山々を見下ろしながら周辺を飛んで回った。
しばらく上空から探索していると二人の若い男女が目に留まる。
服装や持ち物から察するにこの土地の人間というよりは登山者だろうか。
俺は姿を見られるとまずいと思いひとまず下りることにした。
とその時だった。
登山者の前方に黒色の大きな物体が見えた。
「ん、あれって……?」
目を凝らして確認すると……どうやらミノケンタウロスが丸まって寝ているようだった。
「やばっ、鉢合わせするぞっ」
このままだと登山者がミノケンタウロスに遭遇してしまう。
かといってあそこまで飛んでいったら登山者に顔を見られて正体がバレるかも。
躊躇していると、
「きゃああっ!」
登山者の女性が悲鳴を上げた。
上半身が牛、下半身が馬の大きな化け物を見てパニックになってしまったのだろう、見るとその場で尻もちをついている。
女性の声でミノケンタウロスが起き出した。
『グオオオォォォー!!』
雄たけびを発し円錐状のヤリを登山者に向けて構えるミノケンタウロス。
今にも襲い掛かりそうだ。
仕方ないっ。
ミノケンタウロスがヤリを突き刺そうとした瞬間、
ガキィーン。
俺は登山者の前に下り立つと魔法によって具現化した剣でこれを受け止めた。
『グオオオォォォー!?』
「な、なんだお前っ!?」
「なんなのよ一体っ!?」
登山者の男女が口にする。
よし、これなら俺の正体はバレそうにないぞ。
俺は左手で顔を隠しながら右手に持った剣の横っ腹でミノケンタウロスの突きを押し返そうとする。
が所詮は魔法使い、受け止めるのがやっとで押し返すほどの力はない。
しかも、
「くそっ、前が見にくい」
「手で顔を覆っているからでしょ!」
「真面目に戦えよ、こらっ!」
助けてやっているというのにその恩義も忘れて言いたい放題言ってくる登山者。
『グオオオォォォー!!』
ミノケンタウロスがヤリを一旦引き今度は大きく横になぎ払ってきた。
「ぐあっ!」
剣で防ぐもなぎ飛ばされてしまう。
俺は飛ばされた勢いそのままに木に激突する。
「ひえぇー!!」
「あっ、ちょっとあたしを置いて逃げる気っ!」
俺が吹っ飛ばされたのを見て男の方が我先にと山を下っていく。
女性は腰を抜かしてしまったのか立ち上がれないでいた。
「ちょっとそこのあんた、早く助けなさいよっ!」
地面を強く叩きながら女性が大声で叫ぶ。
やれやれ。
リックたちと魔王退治の旅をしている時もこういう自己中心的な人間を沢山助けてきたが感謝されたためしがない。
今の俺はもう勇者パーティーの一員ではないしいっそ見捨ててやろうか、なんて考えが一瞬よぎるがそれはそれで寝覚めが悪い。
「きゃあああっ!!」
ミノケンタウロスが女性めがけてヤリを突き下ろそうとしたまさにその時、
「ウインドカッター!」
俺は顔の前で両手をクロスさせた状態から風の刃を放った。
十字型の切れ味鋭い風の刃がミノケンタウロスを襲う。
ザシュッ。
「きゃああぁぁっ!!」
四分割に斬り裂かれたミノケンタウロスの返り血を浴びて女性がまたも悲鳴を上げた。
はぁ……助けても助けなくてもうるさい人だ。
倒したという証拠に俺は具現化した剣で地面に転がったミノケンタウロスの頭部から二本の角の先端部分を切り取るとそれをポケットにしまい込んだ。
ふとミノケンタウロスが持っていた円錐状に尖ったヤリが視界に入る。
「これもついでに持って帰るか……って重っ」
俺はヤリを肩に担ぐと「ヘブンズドア!」と唱えて扉を出現させた。
顔を手で隠しながら足元の女性を見下ろし、
「俺もう行くけど、一人で帰れるよな?」
「……」
小刻みに震えながらもしっかりと俺を見てうなずいているので大丈夫そうだと判断した俺は扉を開け村に帰還した。
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