第53話 アイリーンと一緒
俺はジョパン城の中庭に出ていた屋台を次から次へと回っていった。
クレープやアイスクリーム、柑橘系の果物にチョコをからませたスイーツも堪能した。
射的ゲームではお金をかなり浪費してしまった。
「あー、楽しい」
……。
……。
っていうかさっきから何かずっと視線を感じているのだが……。
それもそのはず、俺がそっと後ろを盗み見ると木の陰からこっちを見てにへら~っと笑っている可愛らしい女の子がいた。
女の子は俺と目が合うととことこ近寄ってきた。
「……」
無言で俺を見上げてくる。
あれ?
この子なんか見覚えがあるような……。
「何か用かな?」
子どもがあまり得意ではない俺だが努めて優しく訊ねてみた。
「うん」
「何? 迷子?」
「ううん。わたしアイリーン」
「アイリーン?」
うーん、微妙に会話がかみ合っていない気がする。
まあ大抵子どもはこんなものか。
それにしても、アイリーン?
聞き覚えのある名前だ。
……。
……。
あっ!
そうだ。確かプルセラ王女の護衛役の面接の時にプルセラ王女の隣にいた女の子。
「きみ、あの面接の時の子かっ?」
「うん」
道理で見覚え、聞き覚えがあるはずだ。
俺は喉に刺さった魚の骨がようやくとれた気分だった。
「アイリーンはこんなところで何してるんだ?」
「見てた」
そう言いながら俺を指差すアイリーン。
「俺を見てたのか? ずっと?」
「うん」
「……なんで?」
「……」
だんまり。
いやいや、黙らないでくれよ。
まいったな、やっぱり子供は苦手だ。
誰かに助けを求めようと周りを見るがみんなそれぞれ屋台を楽しんでいて俺の視線に気付いてくれる者はいない。
俺はどうしたもんかとアイリーンに視線を落とした。
するとアイリーンは指をくわえじーっと何かを見ていた。
視線の先を追ってみるとアイスクリーム屋さんでアイスクリームを買っている親子連れがいた。
「あれ食べたいのか?」
「うん」
小さくうなずく。
何を考えてるのかいまいちわからない子だが……まあいいか。
「買ってやるからついてこいよ」
「うん」
俺はアイリーンを連れてアイスクリーム屋へと向かった。
「どれがいい?」
「う~ん……」
六種類のアイスクリームを目の前に口をとがらせ悩むアイリーン。
「俺が先選んでもいいか?」
「うん」
「じゃあこのバニラとチョコをダブルでください」
「あいよっ!」
アイスクリーム屋の店員の威勢のいい声が響き渡る。
「お嬢ちゃんはどうするよ? お父さんと同じでいいかい?」
「……全部」
「全部!? こりゃまたたまげたお嬢ちゃんだねー」
言いながら店員はアイスクリームを次々とすくっていく。
というか俺は父親じゃないぞ。
俺ってそんなに老けて見えるのかなとちょっと肩を落としながら歩く俺の横で今にも落ちそうな六段アイスクリームを器用に食べているアイリーン。
見ていてはらはらするが本人は満足気なのでよしとするか。
近くでやっていた大道芸を眺めつつアイスクリームを堪能していると、
「さあ、我こそは魔力に自信のあるという魔力自慢の方、ぜひ一度参加してみてください! もしこの魔力測定マシンで魔力を測ってあなたの魔力が300を超えたあかつきには金貨十枚差し上げますよ! 参加料はたったの金貨一枚、ぜひみなさんこのチャンスをものにしてください!」
マイクを通して声が届いてきた。
「魔力300なんて無理に決まってるぜ」
「そんな奴いたらとっくに冒険者になって稼ぎまくってるだろ」
「金貨百枚でもやらねぇよ」
「無理だ無理っ」
俺たちの周りにいた男たちが口々に不満を言う。
大の男が情けないと思うかもしれないが事実そうなのだから仕方がない。
一般人で魔力は0から10程度、魔法使いでも100あれば優秀な部類に入る。
300なんてのはそれこそAランクの魔法使いクラスの魔力に相当する。
そんなトップランカーはこの世に数えるほどしかいない。
すると隣にいたアイリーンがくいくいっと袖を引っ張ってきた。
「なんだ? おお、もう食べ切ったのか。早いな」
見るとさっきまで六段あったアイスクリームがきれいさっぱりなくなっていた。
「あれ……やりたい」
アイリーンが遠くに見える魔力測定マシンを指差す。
「さっき言ってたやつ、挑戦したいのか?」
俺の言葉ににぱ~っと笑うアイリーン。
どうやらやってみたいらしい。
面接の時アイリーンはバリアを使っていたから魔法は使えるんだったな。
……参加料は金貨一枚か。
まあ【紅蓮の牙】討伐の報酬がたんまりあるからいいか。
「よし、んじゃ行くか」
「うん」
アイリーンは俺の手を取ると先導するように先を歩いていくのだった。
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