第23話 ゼット
衛兵たちは黒いヤリと盾を両手に持ち俺を無遠慮に眺めてくる。
「今度は一人で来たか」
「あれだけやられたのにまた向かってくるとはな」
「盗賊ってのはバカばかりだな、わっはっは」
「はい? あのう……俺盗賊じゃないですよ」
衛兵たちは何か勘違いしているようだった。
「ふんっ、くだらん嘘を」
「いや嘘じゃなくて、俺はゼットって奴に会いに来ただけなんです。いますか? ゼット」
「ゼットだと? なんだ、本当に盗賊じゃないのか? 貴様」
「だからそう言ってるじゃないですか」
「ゼットになんの用だ?」
「えーっと……」
ゼットが衛兵見習いを辞めたがってるなんてこの人たちに話しちゃってもいいのかな。
多分上司に当たる人たちだよなぁ。
この先ゼットの立場が悪くなるとまずいから……。
「あの、本人に直接言います。ゼットはどこにいますか?」
「まず要件を言えと言ってるんだ!」
衛兵は突然声を荒らげた。
「いや、だから――」
「だからじゃない! 貴様、我々黒鉄の盾にたてつく気か!」
持っていたヤリを地面にドンと強く突く。
短気な人たちだなぁ……とちょっと引いていると、
「何事ですかっ!」
お城の横にある小屋のような場所から若い男がヤリと盾を持って飛び出してきた。
「ちっ、ゼットか……」
衛兵の一人が小さく舌打ちをする。
ゼット?
こいつが……?
デボラさんとは似ても似つかないゴリラみたいな男だが。
「ゼット、お前には関係ない、引っ込んでろ!」
「そうだ、お前は外に出てくるなと命じたはずだぞ!」
「し、しかし……」
「お前は備品のヤリと盾をきれいに磨くのが仕事だろうが!」
「そ、それは……は、はい。失礼しました」
ゼットと呼ばれた男はとぼとぼと小屋に戻っていく。
「いや、ちょっと待てゼット」
ここで一人の衛兵がにやにやしながらゼットを呼び止めた。
「は、はい、なんでしょうか?」
「こいつはさっきの盗賊団の一味だ。お前が倒してみろ」
「こ、この男がさっきの奴らの仲間ですって!?」
「そうだ」
「……はい?」
何を言ってるんだ?
俺が盗賊じゃないことはもうわかってもらえたと思っていたのに。
するとゼットは俺の前に立ち、
「お前、紅蓮の牙のメンバーか。覚悟しろっ」
ヤリを構えた。
「いやいや、何を――」
「やぁっ!」
俺の話も聞かずにゼットはヤリを突いてくる。
「わっ、こらやめろっ」
「やめろと言われてやめるわけないだろっ!」
それはそうなのだが。
「俺は盗賊なんかじゃないぞっ」
「黙れ、盗人っ!」
ゼットは攻撃の手を緩めない。
俺はこれを避けながらなんとか誤解を解いてもらおうと五人の衛兵たちに目をやった。
「!?」
しかし衛兵たちは笑っていた。
ゼットが俺に向かってヤリを突き続けているのをへらへらと笑ってみている。
そして、
「おーいゼット、なんだお前盗賊一人も倒せないのか?」
ヤジを飛ばした。
なんだあいつら?
その時だった。
ザシュッ!
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