第13話 薬師のスキル
俺とコロンとマーキュリーは村の近くの山に分け入った。
マーキュリーが薬師のスキルを活かして高値で売れる薬草を俺のためにみつけてくれるというのだ。
「おおっ! この辺りは手つかずじゃないかっ。これなら沢山の薬草が手に入りそうだぞっ」
山に入るなりマーキュリーが声を大にする。
「こっちにはワーム草にキリギリ草だろ、それからスタンスの足元にあるのはギザ植物だ。ギザ植物の根っこは都会では高値で取引きされてるはずだぜっ」
「わあ、マーキュリーさんすごいです~」
尊敬の眼差しでマーキュリーを眺めるコロン。
「べ、別に大したことじゃないさ、薬師なら誰にでも出来る芸当だ……おっ! あっちにあるのはムカデ草じゃないかっ?」
マーキュリーは照れくさいのか、それを隠すようにどんどん山道を上っていく。
「おーい、マーキュリー! あんまり遠くへ行くなよー……って駄目だ、あいつ。聞いてない」
「マーキュリーさん、なんだか楽しそうですね」
「自然の中で生まれ育ってるから山の中の方が落ち着くんだろ」
マーキュリーは急な山道をものともせず山頂目指して駆け上がっていった。
あっという間に姿が見えなくなる。
「あいつ、当初の目的忘れてるんじゃないだろうな」
「えへへ、そうかもしれないですね……ってわたしもすっかり忘れてましたっ!」
コロンが焦った様子で口にした。
「どうかしたのか?」
「わたしギルドを開けたまま出てきちゃったんでした、早くお仕事に戻らないとっ」
「ちゃんと一人で戻れるか?」
「もちろんです、わたしもう立派な大人ですよっ」
頬を膨らませながら俺を見上げる。
見た目も言動も子どもっぽいので忘れがちだがそういえばコロンは俺と同じ十七歳だったな。
「じゃあわたしギルドに戻るのでスタンスさんたちは薬草採取頑張ってくださいねっ」
「ああ、気をつけてな」
小さな歩幅で駆けていくコロンを見送ると俺は山に向き直った。
マーキュリーの姿は確認出来ない。
「上るのも面倒だしここで待ってるか……」
俺は岩の平らな部分に腰かけると目を閉じ小鳥のさえずりに耳を傾けた。
☆ ☆ ☆
何分くらいそうしていただろうか、不意に静寂が破られる。
「うおおぉぉーっ!」
叫び声とともに必死な形相で山道を駆け下りてくるマーキュリー。
俺と目が合うと、
「スタンス逃げろっ!」
大声を上げた。
「? なんだ……?」
「早く逃げろって!!」
よく見ると全速力で向かってくるマーキュリーの後方には長い牙を生やした巨大なイノシシが追いつかんとしていた。
「うわっ、なんだあれっ!」
そんじょそこらのモンスターよりよほど大きいイノシシだった。
マーキュリーの背中に今にも突進しようとしたまさにその時。
俺は地面に手をつけ、
「アースクエイク!」
と唱えた。
その瞬間イノシシの足元の地面が崩れ、まるで落とし穴に落ちるかの如くイノシシは地中に埋もれた。
「はぁっ、はぁっ……助かったぜ」
後ろを確認しながらマーキュリーがふらふらとこっちに近寄ってくる。
「何してんだよ」
「ふぅ……いやあそれがさ、手ごろな大きさのイノシシをみつけたんだ。そいつをとっ捕まえてあんたにプレゼントしてやろうと思って罠を作ってたらさ、さっきの馬鹿でかい奴がいきなり現れて襲ってきたんだよ。いやあびっくりしたぜ」
マーキュリーは続ける。
「あんな化け物みたいな奴クォーツ地区でも見たことないぜ。またあんたに借りを作っちまったな」
「いいよ、気にするな。あ、それと一応言っておくが俺はイノシシなんてもらっても喜ばないからな」
子どもの頃、親の手伝いでニワトリを捌こうとしたことがあったが結局可哀想で出来なかった俺にイノシシの解体なんて無理に決まってるからな。
「そうなのか? おれの村ではイノシシはご馳走だったのになー」
「そんなことより薬草はどうなったんだ? 俺たちは薬草を採りに来たんだぞ」
「あ、そうだった。イノシシの罠を作るのに夢中でかごを置いてきちまったぜ。待っててくれ、すぐに取ってくるからっ」
そう言ってマーキュリーはまたも駆け出していった。
「……変な奴」
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