第2話 森からの脱出
あれから100年以上もわたしは森の中をさまよっていた。
何かを食べようと思えば食べられるが、
食べ物を食べなくても死なないということがわかり、
毒にあたり苦しい思いをしたくない私は食べることを止めた。
また寝る必要がないとわかってからは寝ることを止めた。
いつどこで化け物に襲われるかわからないからだ。
化け物に体中を食い散らかされる苦痛は二度と味わいたくはない。
そのせいで今、私は着るものも失い全裸である。
もはやこれでは獣と変わらない。
死ねなかった、食いちぎられた身体は瞬時に再生し、
何度も何度も化け物に飽きるまで喰い続けられた。
そのせいで、なぜか赤かった髪もすっかり色が抜け落ち真っ白だ。
(なんで私がこんな目に合わなければいけないの……)
ひたすらにさまよい、さまよい続け、
私は一つの建物に行き着いた。
石でできた古びた家である。
人を探したが、あったのは白骨化した遺体である。
ここの住人には悪いが、
この住居を活用させてもらおう。
お詫びに私は遺体を埋葬してあげた。
衣服を探すと、ちょうど私の年齢向けの服があったので利用させてもらう。
さらに探索すると靴も手に入った。
しかし、これはなんの皮だろう。
さらに私は探索を進めると書斎を発見する。
そこで、ひたすらに本を読み続けること10年間、
やっとこの世界について理解した私は久しぶりに書庫から出る。
だが、この森からの出方はわかったが、
あの化け物と呼んでいた、魔物への対策ができていなければ、
この森からは出ることができないだろう。
なので、まずは武器を探すことにする。
すると、武器庫のようなものを発見する。
なかには様々な武器が収められているが、
重量のある武器は私には合わない。
ならば、この刀と短刀を使おう。
誰もが一度は憧れる二刀流だ。
他の武器は異空間収納に全て収納しておく。
今の、武器が壊れた場合、予備の武器は必要になるだろう。
あれからひたすら修行をすること50000日、
やっと私は私自身が納得するほどの力を身につけられたと思う。
この時、彼女は気づいていなかった。
不眠不休で50000日もの間、修行した彼女は如何にチートな存在になったのかを。
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森の中をひたすら進み続けると、
思わぬ広いものをした。
ハイエルフの子供である。
おそらくは転移系の罠にでも引っかかったのであろう。
こんなところまで飛ばされるとは不幸な子だ。
「ねぇ、あなたの名前は?」
「私の……名前は……レミアです」
「ふ~ん、あなたは。生きたいの。それとも死にたいの」
地獄のような毎日を過ごしていたせいか、
私の性格もだいぶ擦れたものである。
「…………生きたいです」
こうしてレミアが仲間に加わり、100年が過ぎた。
それでも、この森の出口まであと50年はかかる。
だが、私やレミアも森での生活に慣れ、
今では魔物も私たちの食事となった。
ゴブリンは食べられないが、
獣のような見た目のオークをはじめとした魔物は食べられたのである。
「イノリ姉さん、出発の準備ができたよ」
この私を姉としたってくれている15歳くらいの少女は、
私が森の中で拾ったレミアである。
「それでイノリ姉さん、この森からはあとどのくらいで出ることができるの?」
「う~ん、頑張っても後、50年くらいじゃないかな」
その言葉に、レミアは固まる。
それも、そのはずであるレミアは自らの青春時代を遭難で終えてしまうのだから。
悔やんでも悔やみきれないだろう。
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あれから、さらに60年もの歳月が過ぎ去り、
イノリとレミアは街道のような人工的な道へとたどり着く。
「やっと……やっと帰ってこれた」
レミアは涙を流しながら、ひとり歓喜する。
レミアはこの60年ですっかり成長し、
見た目は18歳の少女へと変化していた。
通常のハイエルフはここまで成長は早くない。
この危険な森、通称“帰らずの森”の中で、
生き抜くために急成長したのだ。
「それで、あの大きな壁が都市の外壁なの?」
この距離からでも、
都市の外壁が見えるほどに巨大なのだ。
「はい……おそらくあれが都市レントです」
なるほど、この世界については知った気になっていたが、
本で読む知識と目で見ることは大きな違いがあると知っていたが、
ここまで感動するとは思わなかった。
二人は門まで歩いていくと、門番に止められる。
そこでイノリは二人が別々に転移系の罠にかかり、
帰らずの森に迷い込んでしまったこと、
二人は森の中で出会ったことなどを話した。
「そっちの白髪の方は知らないが……もしかしてあんたケントとレミラの娘のレミアか?」
「えっ……なんで……私のことを」
「俺とケントとレミラは昔からの知り合いなんだ……あいつらが生きていたら……」
ここでレミアの顔から表情が消える。
「あぁ、知らないんだよな……あんたの両親は盗賊に殺されたんだ」
門番の男性は涙を流しながら、
レミアに真実を告げる。
「うっ……うわぁああああああああ!!!」
レミアは叫ぶ。
己の幸せがやっと手に届きそうだったのに、
それが手遅れだったと知り苦痛に顔を歪め、
怒りと悲しみが混じわった叫びをあげる。
その光景に胸を押さえ、
苦しそうに顔を歪めるイノリであった。