閑話とあるエルフの微笑み
「男の子の赤ちゃんが産まれましたよ、セレナさん。」
初老の女性が赤ん坊を産んだセレナと言う女性に話しかける。その女性は金色の髪に翡翠色の瞳をしたエルフである。
「ねぇ、クーリアおばさん。その子の種族はなに……?」
セレナはおずおずとクーリアと呼んだ女性に話しかける。この世界にはヒューマン、獣人、ドワーフ、そしてエルフという種族が存在している。
その中でもエルフは高い魔力量を持つ種族である。
けれど、セレナの夫はヒューマン。どんな子どもが産まれてくるか、二人とも検討がつかなかったのだ。
「この子は……ハーフ・エルフじゃな。」
「………え?」
ハーフ・エルフ。それは親のどちらかに成れなかった『半端者』である。外見的な特徴はエルフよりも耳が短い位しかないが、エルフよりも寿命が短いのだ。
さらにヒューマンは数が多いが他の種族より短命のため、『自分たちに近い姿をしているのに、長い時間を生きることが出来る』ハーフたちを差別しているのだ。
「そう……なんですか……。でも、いいわ。私が産んだ子ですもの。この子はたとえ半端者でも、私たちと何も変わらない、人間ですもの。」
「…そうじゃな。」
少しの沈黙の後、クーリアは答える。
「そうだ、クーリアおばさん。その子、私に抱き抱えさせて?」
母になったセレナはクーリアに優しい口調で頼んだ。
「ふむ、いいじゃろう。」
クーリアは抱き抱えていた赤ん坊をセレナにわたした。
「この子が、私の子ども。」
セレナは優しそうな笑みを浮かべながら、赤ん坊を抱き抱える。初めて産んだ我が子を持つのは本当に嬉しいのだ。
「あぶぅ~!」
セレナが持った瞬間、赤ん坊は暴れながら鳴き始めてしまった。
「だ、大丈夫でちゅよ~。お母さんでちゅよ~。」
赤ん坊の体を擦りながら、セレナは赤ちゃん口調で何とか赤ん坊をあやした。そのかいあってか、赤ん坊は直ぐに泣きやみ、すやすやと寝息を立てて眠ってしまった。
「して、この子の名はどうするのじゃ?」
クーリアは少々、気難しそうな顔をしながらセレナに尋ねる。この名前と言うのはこの世界ではかなり重要で、その名前によっては神や精霊からの『加護』と呼ばれる特殊な力を授かることもあるのだ。
「う~ん。どうしよう……。」
セレナは悩み、ふと、窓の外をみた。窓の外には美しい満月が近くの湖に写っていた。
「ルーナ、と言う名前はどうですか?」
セレナはすっきりとした顔でクーリアに話しかける。クーリアは笑顔で「良い名じゃな。」と言い、部屋からでていった。
「ルーナ、ふふっ。ルーナ、あなたは、どんな苦しことがあっても、湖面に写る月のように、輝いてください。例えそれが本物に届かなくても。」
セレナは、まるで美しい雪の精霊のような儚げな笑みを浮かべ、赤ん坊の顔に手を触れるのであった。
「ん?ルーナとは、女性に付けられる名前のような気がするのじゃが……。まあ、よかろう。」