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デリート(DELETE)   作者: 赤の虜
日本・願望成就の光玉
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8 光玉を探して

 光玉を見つけ出し、所持しておく。

 目標を決めた沖人と咲、秀一の三人の行動は素早かった。

 建物の隙間や公園、大通りといった思いつく限りの場所を回り、光玉を探した。

 だが、一つも光玉を見ることはなかった。

 三人は近くの公園で足を休めていた。その公園にも光玉で生み出したであろう、大規模な遊具があった。そして、その遊具は小さな公園を飛び越えて、道路にはみ出しており、その違和感こそ光玉に願ったことを表していた。


「光玉、ないな」


「仕方ないよ。さっきみたいに、光玉を求めて徘徊する集団がいるんだろう? なら、早々見つからないだろうし」


 沖人の呟きに、秀一が言う。


「でも、こんなに探しても全く見つからないっておかしくない? ユートピアの人間はあれほど自由に光玉が使えるのに……」


 沖人達は日中ずっと光玉探していた。そして、あと数時間もすれば日が暮れるという時間帯にまでなっていたのだ。


「そうだね。もしかすると光玉はどこかに集中して、現れるのかもしれない。そして、その場所を『神人会』や『平和労働者会』が独占しているとしたら、見つからないのも納得がいく」


「そんなのどうしようもないじゃない!」


 咲が怒りを表しているのか、のしのしと歩く。


「でも、それだと変じゃないか?」


「変って何が?」


 沖人が尋ね、秀一が聞き返す。


「いや、光玉が独占されているなら、どうして石見さんはあれほど光玉を持っていたのかと思って」


「確かにそうだね。元々は『神人会』か『平和労働者会』に所属していたとも考えられるけど、所属していないとしたら光玉を獲得できる場所があるという証明になる」


 三人が光玉への考察を深めていると、唐突に上空にデカデカとした映像が投影された。

 そこには『勝ち取れ! 光玉一番星!』という題が映され、すぐにサングラスをかけた胡散臭いおじさんの顔へと変わった。


 『はーい! ユートピアのみんな、元気しているかい? 俺は毎度おなじみ司会のジャックだ! 今日も今日とて、優しい、優しい俺様が、光玉大好きな人間に、光玉の出現場所を教えちゃうぜー! イエーイ!』


 ジャックと名乗ったサングラス男の次は地図が現れ、一点だけを赤い矢印が示していた。


 『今日もはぐれ光玉は……はみ出し公園に現れるようだー! 近くの住む少年少女! 今がチャンスだ! 光玉を取っちまえ! ただし、長いはいけないぜ! ずっとそこにいると光玉大好き、徘徊者どもが君達を襲っちまうぜ! 夢にはいつも邪魔がつきもの。それでも欲しけりゃ取りに行きな! グッバイピープル!』


 そこで映像は途切れてしまった。


「今の何?」


「「さあ」」


 咲の疑問に正解を言える者はいなかった。


「えっと、彼が何者なのかはさっぱりわからないけれど、彼の言う通りなら、はみ出し公園という場所に光玉は現れる、みたいだね」


「なんだよ、はみ出し公園って。そんな公園、聞いたことないぞ。そもそも俺達は東京が地元じゃないから土地勘もないし」


「そうだよね。それこそたまたまそこに居合わせるでもない限り、無理だと思う」


「ねえ、二人とも」


 咲が公園を見ながら、二人に声をかけるが、沖人も秀一も会話に夢中に気づかない。


「名前から察するに『何か』がはみ出している公園なんだろうけど……」


「何がはみ出しているかなんて、分かるわけないよな……」


「だから、ねえってば!」と咲が声を張り上げることで、沖人と秀一はようやく咲に気づく。


「咲、今は光玉の場所を考えることで忙しくてさ……」


「静かにしてくれないか」


「何を馬鹿なこと言ってるの? あんた達」


 咲はそう言って、上空を、その先にある公園には不釣り合いほど、大きな遊具を指差す。


「はみ出し公園って、ここのことじゃない?」


 言われて、沖人と秀一は慌てて、遊具の全体を隈なく見ていく。

 公園の敷地内から伸びていく遊具は、しかしながら、上空にて公園をあっさりと飛び越えて、はみ出していた。


「嘘だろ……」


「こんな偶然があるなんて……」


「ふん、どんなもんよ。感謝しなさいよ」


 得意気な咲に対して、今回ばかりは沖人と秀一は何も言えなかった。


「でも、そうすると、光玉はここに現れるってことか?」


「ジャックという人の言葉が正しければ、ね。怪しさで言うと、サンタクロースの格好をしたおじさんレベルで怪しいからね。信用はできないよ」


「あのおじさんレベル……なら間違いなく、嘘じゃない!」


 咲は完全にジャックの話を信じることをやめた。ダン三郎を乗り捨てて、逃げた石見と同列の不審者は彼女にとって、どうあっても信頼できない人種であるらしかった。


「いや、俺は信じるぞ! 石見さんと同列というなら、彼にもきっとダン三郎を生み出すパッションがあるはずだ!」


「僕はその点については同列なんて言ったつもりないけどね」


「無駄よ。こうなったら話を聞かないんだから」


 咲と秀一は諦めた。

 そのときだった。

 公園の地面。その一部が眩く光り輝き、地面から光の玉が「ポンッ」という音を立てて、現れた。


「本当に出たよ」


「上からじゃなくて、下から湧くものだったのね」


 『神人会』や『平和労働者会』への対抗策として欲しかったはずの光玉。

 しかし、それを実際に目にしても、咲と秀一は喜べなかった。


「何だろうね。このこれじゃない感」


「もう少し神秘的な登場はできなかったの?」


 これまで散々というほど、光玉の魅力を知ってきたからこそ、せめて登場くらいは願いを叶えるにふさわしいものであって欲しい。それが咲と秀一の思いだった。


「別にどうでもいいだろう。それより早く光玉を取るぞ」


 沖人はそう言って、すぐに光玉へと歩く。さっきは行動が遅れたために光玉を求めて徘徊する、あの集団と出会ってしまったということを、沖人は忘れていなかった。


「そうだけど……」


「ダンボールにあれだけ情熱的だった沖人に言われるのは納得いかないよね」


 沖人が光玉へと手を伸ばす。


「待ちやがれ!」


 後方から大声で怒鳴られて、沖人は反射的にその手を止めた。


「そ……それを渡せ! 渡さないなら……」


 沖人が背後を伺うと、目を大きく開き、口をだらしなく開けた男がいた。沖人は男の異様な雰囲気に動くことができなかった。


「――――殺してやる」


「えっ……」


 咲が状況についていけず、秀一はその咲と暴漢との間に立って、盾となる。

 男はナイフを手にしていた。

 徐々に沖人達のいる方へ歩いていき、


「へへへっ、動くなよ。動くとどうなるかわかってるよなあ」


 その目は光玉だけを捉えていた。


「その光玉は~、俺のだ~」


 男は秀一や咲に目もくれず、片手で払い除け、光玉の前にしゃがむ沖人を見て、身体が震わせる。


「その光玉は俺のだって、言ってるだろうが!」


 真っ直ぐ沖人へ向けてナイフを突き出す。


「『リボンよ。暴漢を縛り上げろ』」


 しかし。暴漢が持つナイフは沖人の顔に触れる前に、止まった。

 暴漢は桃色のリボンによって、巻かれていき、十秒も経たない内に、全身をリボンで縛られる。


「光玉欲しさに人を殺すとは……愚か者だよ」


 現れたのは、白のタキシード姿の若い男だった。若いと言っても、沖人達よりは年上だろうと感じさせる風格がある。


「大丈夫かい? 異界から来た訪問者達」


「は?」


 沖人は最初、彼が何を言っているのか、分からなかった。


「だから、君達は光玉のない、外から来たんだろう? だから、不注意にもはぐれの光玉を狙っているし、配給された光玉を使用せず、吞気な顔ができる」


「あなたは誰ですか?」


 男の推理に、秀一は警戒して、尋ねる。


「僕かい? 僕はケント。『神人会』の代表だよ」


 ケントは沖人の足元にある光玉を指差し、


「取らないのかい? 別に僕は君達から光玉を奪いたいわけじゃあない。取りなよ」


 ケントに言われて、沖人は警戒しながら光玉を手にする。

 光玉は手が触れる同時に、鈍い光を放つ結晶となり、沖人の手に収まっていた。


「おめでとう。それでその光玉は君のものだ」


 ケントは沖人へと拍手を送る。

 その余裕を崩さない態度に、秀一は聞く。


「あなたの目的はなんですか? わざわざ僕達に接触して、侵入者を捕らえにでも来ましたか?」


「僕が君達を捕らえる? どうしてだい?」


「どうしてって……」


 聞き返されてしまい、秀一は黙り込んでしまう。


「あなたは『神人会』という代表なんでしょう。なら、よそ者の僕達は邪魔なはずだ!」


「なるほどね」


 ケントは顎に手を当て、「でも」と続ける。


「『神人会』の代表だからこそ僕は君達のような何もできない子ども達なんて放っておくつもりだよ。君達が『コア』にどんな願いがあろうと、願いを叶えるのは僕だから」


 ケントは微笑む。


「だから、お礼はいらないよ。僕はただ、自分の身すら守ることができない小鹿達を救ってあげただけ。弱きものは救う。これは僕の信念の問題であって、誰が襲われていようと僕は助けただろう。だから、勘違いしないでくれよ。誰だって僕は助けたさ。そうすると決めているからね」


 ケントは自然と沖人との距離を詰めて、肩を組む。


「ところで、ユートピアは楽しめたかい? ここでは誰もが自分勝手に、自由気ままに、己の願いだけを叶えてきた。つまらなかったろう? 個人の願いばかりが叶う世界なんて、この程度さ」


「離せ!」


 沖人は強引にケントから離れる。沖人はケントに恐怖した。彼は会って間もない人間でも、すぐに心の内へと侵入していってしまう。沖人はなぜか、そんな確信があった。


「つれないね。……まあいい。君達は無事に光玉を手にすることができた。ならば、今日のラスト締めくくるのに、最高の場所を僕が紹介してあげよう」


 ケントは指を鳴らす。すると、公園を囲むように、黒いローブに身を包んだ者達が現れて、沖人達を拘束する。


「何する!」


 沖人の問いに、ケントは笑顔で応じる。


「別に何も。君達にどう提案したところで、断りそうだったからね。少し強引にでも連れていってあげようと思って」


「連れていくってどこによ?」


 咲がケントを睨みつけながら、言う。


「せっかく東京に来たんだ。一度は見ておくべき場所があるだろう?」


 ケントは上を指差す。


「東京タワー」



次話は8時です。

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