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デリート(DELETE)   作者: 赤の虜
日本・願望成就の光玉
13/17

13 奇襲

 十一月三日。朝。

 沖人はもちろん、咲や秀一も建物らしきものの中に戻ってきており、彼は同じ場所で朝を迎えることになった。

 沖人達に石見を加えた四人はほぼ同時に目を覚ました。

 というか、起こされた。

 唐突に、爆発音とその衝撃の振動が彼らを襲った。

 爆発は一度では終わらず、その後も何度も何度も繰り返しあり、振動が絶えず、彼らを襲った。


「なんだ!」


 沖人は飛び起きて、建物らしきものから出た。その後、すぐに咲や秀一も慌てて、飛び出してくる。


「沖人! 状況がわかるなら説明してくれないか!」


「俺にも変わらない」


「何なのよ、いきなり」


 沖人達が混乱していると、欠伸をしながら、石見が現れた。


「ああ、みなさん早いお目覚めで。昨日はよく眠れましたか?」


 呑気な石見に、沖人が言う。


「そんなことよりっ、この爆発はなんなんだ!」


 沖人の言葉に咲や秀一も頷く。

 三人ともまだ高校生である。爆発には慣れていないのだ。いや、そもそも爆発に慣れている日本人など滅多にいないのではないか。


「落ち着いて、落ち着いて。どうせここには被害はありませんよ」


 緊張感がまったくない石見。


「だって、あれを仕掛けたのは私ですから。自信をもって大丈夫といいましょう」


 胸を叩いて、そう言い切る石見。沖人達は呆気にとられた。


「どうです? なかなかいかした目覚ましでしょう? 私も昨日はあれを設置するために頑張ったんです!」


 誇らしげにそう語る石見。

 沖人はその表情を見ると、腹が立った。そもそもダン三郎のことが例外なだけで、沖人も石見の態度には腹が立つに人間に違いないのだ。


「まさかとは思うが、あれをこの爆発を設置するためだけに昨日は姿を消したのか?」


 沖人は刺すような視線を石見に向ける。


「うん? まあ、それも理由の一つではありますね」


 石見の返答に、沖人達はアイコンタクトをして頷き合い、そして、じりじりと石見に近づいていく。


「ど、どうしました? みなさん何か恐いですよ。心配いりませんって! 私はいつだって無駄なことはしなかった!」


「無駄なことばかりしていた気がするけど?」


「し、失敬な! 私はいつだって全力で……」


「ダンボールをつくっていたと?」


 咲と秀一のコンボに石見は悔しそうにする。


「くっ、話を聞いてもらえない!」


「石見さん、正直に答えてくれ。この爆発に何の意味がある?」


 唯一、沖人だけは普通に石見の話を聞いてくれるようだ。


「沖人さん、やっぱりあなたはダン三郎へのパッションがわかる人だ」


「いいから。ダン三郎のことは願いを叶えてからゆっくりと語り合うとしよう」


「語り合わないでいいわよ」


 咲がツッコミをいれるが、石見も沖人も気にせずに、会話を続ける。


「そうですね。説明しましょうか」


 石見は爆発の意味を沖人に伝える。


「まず、今日は『平和労働者会』の方々が『神人会』へと奇襲をかけることになっていた。それは覚えていますか?」


「ああ。『平和労働者会』の代表から直接聞いた」


 石見は笑う。


「なら、話は簡単です。『平和労働者会』と『神人会』、この二つの勢力がぶつかって潰し合います。でも、それだけではまだ私達が『コア』を奪うには不確定要素が多すぎる。だから……」


 石見は東京タワーがある方角を指差す。ユートピアの奇抜な建物のせいで、その姿を見えないが、沖人達も一度は行った場所である。方角はわかる。


「私が誰よりも早く奇襲することにしました。あの爆発、音だけでは分かりにくいかもしれませんが、東京タワーの片側、『神人会』側にしか爆発は起きていません」


 石見は眉をひそめ、


「ついでにケントさんの切り札もなくなってくれることを祈っていますが、うまくいくかはわかりません」


「石見さん、でも、それなら『平和労働者会』はどうして襲わなかったんですか?」


 秀一は昨日、『神人会』に入ったばかりだが、顔色一つ変えることはない。彼にとっては『神人会』がなくなってもどうでもいいことだった。既に秀一は『神人会』から得るものは得ているのだ。


「単純に面倒だったということが一つ」


 咲が今にも殴りかからんばかりに、石見を睨みつける。


「いえ、もちろんそれだけではないですよ!」


 石見は明らかに咲に怯えている。昨日の女子高生の拳が相当効いたようだ。


「私が狙っているのは、二つの勢力が決戦を行う場所の誘導です。……見せたいものがあります。一度、部屋の中に戻りましょう」


 そう言って、建物らしきもの。外見は相変わらずの歪な樹の中に進もうとする石見。


「ちょっと待ってくれ。大丈夫なのか? 『神人会』も『平和労働者会』も、こんな爆発が続けば、すぐに『コア』を取りに行くんじゃないか?」


 沖人の質問に、石見は口を押さえて、笑う。


「絶対にないとは言えません。でも、その確率が限りなく低いということだけはわかります」


「もったいぶらないで早くいいなさい!」


 咲の声に、ビクッと肩を揺らした石見だったが、すぐに深呼吸して、落ち着きを取り戻した。


「言葉よりも見た方がいいでしょう? だから、早く行きましょう?」


 石見の表情はダン三郎を語ったときのような、少年のような輝きに満ちていた。


「ねえ、秀一。わたし、あの顔してるときの石見さんに見覚えがある」


「奇遇だね、咲。僕も昨日、見た気がする。そのあとに上空から落ちるおまけ付きで」


「ていうことは」


 咲が沖人を見ると、


「どうした、行くぞ!」


 沖人が石見のパッションを受け取ってしまっていた。


「嫌だ、絶対行きたくない。もうダンボールはこりごり」


「何してるんです! 間に合わなかったらどうするんですか!」


 やけにキリッとした顔の石見が怒る。

 そして、加えて言った。


「一生に一度しか見れないですよ! ビルが空に吹っ飛んでいくところなんて!」


「ビルが空にだと!」


 完全に感化されてしまった沖人を見て、咲と秀一は敗北を悟った。

 つまり、ついていくしかない。


「絶対、ろくでもないわよ」


「わかってる。でも、行かないと」


 沖人達は建物らしきもの。その屋上へと移動する。

 そこは外見上、歪な樹の頂点の枝の先だった。だが、内側からだとなぜか、展望台のようになっているという謎仕様。人一人がギリギリ通れそうな窓が、一つだけある。


「向こうが東京タワーです」


 石見が指差した先には、確かに東京タワーが見えた。そして、東京タワーの左右に二つ、『神人会』と『平和労働者会』の拠点が上部だけが見え、下部は途中にある建物で隠れて見えない。


「今が、午前七時五十九分。あと、一分であの二つのビルが……あ、あと五秒か」


 石見がそう言って、沖人達は説明することなく、


「東京タワーの方を見ておけばわかります」


 とだけ言って見ることに集中する。

 そして、午前八時ちょうどになり……。

 東京タワーに隣接してあった二つのビルが上空へと投げ出された。


「本当に飛んだ! 成功だ! 私はビルを空に打ち上げたんだ!」


「石見さん、やっぱあんたのパッションは尋常じゃねえ!」


 感極まっている石見と沖人。


「はあっ!」


 咲もつい叫んでしまう。

 上空に上がってからは、二つのビルは物凄い速度で、互いに真逆方向へと飛んでいった。

 ビルの一つが沖人達の真上を飛んでいき、少しの間、その大きな影で暗くなり、すぐにまた明るくなる。


「ねえ、秀一。私、あのビルを見たことあるんだけど」


「今日は本当に気が合うね。僕も見たよ。……というか、あれは『神人会』の拠点だ」


 また、石見がやらかした。それが咲と秀一の共通見解だった。敵とはいえ、拠点ごと東京から追い出すなんて、どうかしている。


「『神人会』だけではありません! 『平和労働者会』の拠点も東京から出て行ってもらいましたとも! 私は完全主義者なのですよ! あっはっはっは!」


 完全に調子に乗っていた。


「爆発だけでは警戒はしてくれても、二つの勢力が揺らぐことはない。だから、揺らがない敵だから、私は大胆な行動に出たのです!」


「それでビルごと退去?」


「大胆すぎません?」


 咲と秀一はもう、諦めていた。

 調子に乗らせると、このおじさんほど厄介な人間はいない。


「いえいえ、成功しましたから大丈夫。結果オーライというやつです。『神人会』も『平和労働者会』も人員が大きく減って焦っているでしょう! これで私の爆発による戦場の誘導が意味を持ち始めますよ!」


 石見のふざけた態度はともかくとして、彼の手腕は本物だった。それが理解できるだけに、咲と秀一も何も言えなかった。

 そして、沖人はと言うと、


「このパッション、このエナジー。流石はダン三郎の生みの親」


 歯を食いしばって、悔しがっていた。

 それから徐々に落ち着きを取り戻した石見は決戦である場所に移動するように、沖人達に告げた。


「場所は爆発地点の真逆。ちょうど今見えている東京タワーの反対側になります。本当ならば、これから真っ直ぐに、東京タワーへと向かい、『コア』を得る。それが理想です」


「ですが」と言って、石見は自然な動作で、窓へと歩み、足をかけ、外へと半身を出す。


「ここであなた達とはお別れです。やはり私も人間だったということでしょう? 今になって、願いを叶えたい欲が出た……」


「おい、石見さん。嘘だろう?」


「すみません。沖人さん」


 沖人が石見に言った。昨日、沖人が願いを諦めようとしたとき、石見は彼を奮起させた。付き合いは短いが、今の沖人は石見を他人のようには考えていない。


「俺、石見さんのこと、お父さんみたいだなって思って……」


 沖人はうまく言葉が出てこなかった。言いたいことが山のようにある。

 どうして今なんだ。自分の願いが叶えたいなら、最初から手伝いなんて言うな。ダン三郎のことを語り合うんじゃなかったのか。俺の願いを手伝ってくれるって言ったじゃないか。

 どれも言葉にできない。

 石見は沖人の言葉に目を見開き、背を向けた。


「やはり、駄目だ! 私は君達の願いを手伝えない! 君達といると私はどうにかなってしまいそうだ!」


 石見は少しだけ、沖人達を振り返り、


「ご迷惑をおかけしました。『コア』は私がいただきます」


 と言って、窓から飛び降りてしまった。


「『紐よ、石見さんを捕らえよ』」


 秀一が光玉を使用した。昨日、『神人会』でもらってきた光玉の一つである。

 彼が手にする白い紐が光を帯びて、そして消える。


「なにっ!」


 秀一の願いは発動と同時に、無効化された。

 秀一が周囲を伺うと、部屋の壁が薄っすらと光を帯びている。


「願いの無効化をしていたのか!」


「ねえ、どうして秀一がそれ、持ってるの?」


 悔しがっている秀一に、咲が尋ねた。その目は秀一を疑いの眼差しを見ている。沖人は俯き、拳を握りしめていた。

 好きな人からの言葉に秀一は笑う。


「僕が『神人会』と手を組んだから」


 秀一は晴れやかな笑顔で言った。


「え……じゃあ、沖人の願いは?」


「手伝わない。僕は僕の願いのために勝手に動くよ。咲もいつまでも沖人の願いを叶えようなんて考えないで、自分の願いを叶えなよ。ここはユートピア。誰も彼もが、『願いは自分が叶えるためにある』と思っている。君もそうするといい」


「秀一も自分の願いを叶えるの?」


 咲の言葉の秀一も、とは誰を含める言葉か。石見はそれとも、咲自身のことか。


「ああ、ここではっきり言っておく。沖人、やっぱり僕は君がみんなに助けられた願いを叶えるなんて気に入らない。だから、僕は僕で願いを叶えるよ」


「……そうか」


 沖人の声は小さかった。よほど石見が裏切ったことが辛かったらしい。


「沖人……ごめん、私も自分の願い、叶えたい」


 秀一に咲が続き、沖人は鼻で笑う。


「もう勝手にしてくれ。俺は『奈々を生き返らせる』だけだから」


 瞬間、地面が大きく、揺れた。

 いや、正確には地面ではない。沖人達がいる建物らしきもの。それだけが揺れているのだ。


「この揺れは……まさか!」


 何かに気づいたらしい秀一が窓から顔を出して、下を覗き込む。


「やっぱり……浮いてる」


 沖人達のいる建物らしきものは、ドンドンと上空へと浮遊していく。


「石見さん、あの人は僕らも東京から追い出すつもりなのか!」


 だが、秀一の予測は外れていた。

 石見が彼らを連れていきたい場所は、東京の外などではなく、もっと危険な場所。

 外からでは、歪な樹が浮遊して上空を移動するという光景がある。樹が東京タワーを越える。

 そして、ちょうど石見が言っていた、戦場の真上で、止まる。


「ここは……」


 秀一は東京タワーの反対側から今も聞こえる爆発音で、ここがどこかなのか、気づいた。


「戦場……なのか?」


 歪な樹はゆっくりと、地面に着地する。衝撃があるが、落下速度が遅かっただけに、沖人達は少しふらつくだけですんでいた。

 そして、また地面が揺れる。

 またか、秀一が窓から下を見るが、樹は一切動かず、停止していた。

 代わりに、前後から轟音が徐々に近づいてきていた。

 音の正体はすぐに姿を現した。

 前には昨日見た、大砲付きの西洋の城。外壁はなく、城本体だけがある。ただし、城壁には複数の砲門が顔を覗かせている。

 そして、後ろには同じく、昨日見た、大砲付きの屋根に瓦を使った城。西洋と違い、こちらには外郭が三つ、同心円状にある。

 動いていたのは、前後にある城だった。


「冗談じゃない。『神人会』も『平和労働者会』もなんてものつくってるんだ」


「なあ、秀一、咲。俺達はここで別れようか」


 周囲の状況を見ながら、沖人は言った。


「今までは俺の願いのために無理に付き合わせてた。でも、もう三人とも願いは違うんだろ? なら、一緒にいる意味はない。……じゃあな」


 沖人はそう言い残して、建物らしきものの入口へ向けて、下りていく。

「うん、そうしようか」


「わかった」


 三人は同時に建物らしきものから、『神人会』と『平和労働者会』の戦場となる外に出た。だが、そこからは別々に歩き出した。

 三人とも自分の願いを叶えるために、独りで命がかかった戦場に挑む。

 もう仲間はいない。

次話は13時です。

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