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思考加速だけの無能者  作者: 米っ子
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異世界への陣

 椅子に縛り付けられ、遠回りのような解説をただ右から左へと聞き流していたとき、その変化は僕の望むものだった。日常を非日常に変えてくれるような変化を。


 太陽は空の頂点に立ち神の如く下界を眺め、月は母のような優しさを僕らに向けるために夜を待っている。そんな日常に絶望していた僕に、異世界というオアシスというような存在が僕の前に現れた。


 チートというような、平凡な僕うを変えてくれる力を与えてくれる異世界を望んでいた。他力本願だけども現実の世界に絶望していた僕には、そんな考えしかできなかった。


 身体がただの情報へと分解されていく。その有様は情報を保存するための0と1で纏められるような感覚になる。

 その感覚に浸りながら転移を待つ。

 次に目を覚ましたときはその場所は大理石で出来た白い部屋だった。


 その場所は日差しの入るような窓など無く、何処か倉庫を思わせる場所に集団転移した。

 日差しが入ってこないためひんやりとした感覚が僕の身体に纏わり付いてくるが、その寒さが僕の転移により興奮していた頭を冷やしてくれる。


 錆び付いたような思い金属製の扉が、耳障りな音を鳴らしながら開き始める。開いた先から日の光とは違った明かりが差し込んでくる。その光はLEDのような眩しい物でもなく、白熱電球のようなオレンジ色の様な明るさでもない。何かの結晶が最適な明るさを放っていた。


 混乱で包まれていた部屋は一人の女性が入ってきたことで、人のいなかった元の静寂さを取り戻す。目の前の女性は口を開く「ようこそ勇者様達よ」と。



 廊下を集団で歩かされる中、姫と名乗った女性---セレスティー---は、これから向かうか、そこで何をして欲しいかを教えてくれる。

 委員長は自分が纏めなくてはと、指名のようなモノを感じてか、それとも持っているのか、この場を指揮していた。


「私が返答するから、みんなは取り敢えずセレスティーさんが言ったとおりに、王様の前で跪いて。あ、不満があるかもだけど元の世界だと、斬首とあったらしいから気を付けて」


 どこでそんな情報を手に入れているのか等と、疑問は頭の中へ浮かんでくるが、斬首、つまり首切りが僕らに僅かな恐怖を与えて正常な判断を鈍らせていた。


「では皆様には先程言ったとおりのことをお願いします。それが終わったら次は貴族へのお披露目となります」


 みんなが疲れるような事を聞いて、異世界に来たのにというような表情や声を上げている。

 だが、委員長の斬首という物騒な言葉を思い出してか、一人が呟くとまた一人へと伝播していき静かになる。


「では扉が開きますので、皆様私の後に付いてきてください。階段の前へと来ましたらそこで止まって頂き、後は先程私が仰った通りにお願いします」


 王女が矢次早に言うと、騎士の大きな声が廊下に響き渡る。


「勇者御一行のおなーりー!」


 厳ついが、その声は響き渡り誰の耳にでも届く。遂にはラッパの音までも鳴りだし、迎える準備が出来ているようだった。

 そして、爽やかな音が響き渡り、扉が開く。その扉は召喚された部屋とは違い滑らかに開いている。

 扉の間から微かに覗いて見えたのは、赤いカーペットが敷かれた部屋に沢山の人が賑わいながら歓声を上げていた。


 僕らは行進のように歩いてはいるが、足並みは揃っておらず不格好だが、その顔は嬉しそうに喜んで歩いて居る。

 まるで、僕らが魔王を倒すんだというのを暗に示しているようだった。


「勇者よ、よく召喚に応じてくれた」


 僕らが階段の前で膝を付くと、王が口を開いて厳かな雰囲気でそう言う。

 委員長が先頭に立っており、その言葉を受け取ると「ははー」と返事をする。

 そうすると後は大臣か文官なのか分からないが、長ったらしい話をする。その間僕らはずっと膝を付いたままで疲れる。


「では、勇者殿別室にて待っておいで下さい」


 そう言われて、また移動をさせられる。疲れが一方的に溜まる中、お披露目が次に来ると聞いてより一層疲れた顔をしてしまう。


「メイドがお付き致しますので、別室でお待ちしてください。お披露目となりますので、少々料理の準備に時間が掛かるためその間、どうぞ身体をお休めてください」


 セレスティーはそう言ってお辞儀をするとメイドがゾロゾロとどこからか出てきて、一人一人に付く。

 この時のみんなの顔は早く自分のスキルを確認したいとか、職業を確認したいと思っていた者が殆どだった。その情報源はオタクと呼ばれている者が殆どであり、中には腐った者までもが広める原因になっていた。


「メイド長をさせて頂く、マリアと申します。皆様が心ゆく一時をほんの少しの間だけですが、与えたいと思います」


 綺麗にお辞儀をする。その所作は洗練された物であり、事実であることが確かな物だと裏付けるのに十分だった。


 部屋に連れて行かれると、メイドに軽く自己紹介した後、僕はベットへ転がり込む。ベットの質は悪いが休めるのには十分だ。


「シュンヤ様、お呼びの際はこのベルを鳴らし下さい。時間となりましたら起こしに来ますので寝ていても大丈夫です」


 では、と言って部屋から出て行く。その動きはメイド長よりも荒いが気にする部分ではないと思った。

 というのもベットに転がって聞いている僕が言えないからだ。


「異世界か、思っていたのと何か違う」


 パーティーをやって終わり、次からはダンジョンに潜るだったりモンスターと戦ったり、訓練したりするかと思っていたのに、貴族にお披露目など疲れることばかりで大変だった。

 そんなことを考えているとウトウトとし始め、眠りについてしまった。先生が来ていないという事実に気付かないまま。



「シュンヤ様、シュンヤ様」


 身体を揺すられ起こされる。優しげな声に誰だろうというぼやけた頭の中で考えていると、思い出す。


「起きられましたか、シュンヤ様」


「ああ、ごめん」


 日陰者の僕にはどうしても謝ってしまう癖が付いている。だから謝ってしまった。


「謝らないでください。直ぐにお披露目が始まってしまいます」


 支度をして待機部屋まで連れて行かれる。

 そこにはチラホラとクラスメイトが待っていた。


「俊也、お前も寝てたのか」


 眠たそうに目を擦ってるのを見てか、剛がそんなことを言う。

 剛も剛で眠たそうにしているため、お前もかと言って二人して笑う。


「他の人も来た並んでおいた方がいいかもね」


「そうだな、委員長がまた仕切るし俺等はただ待ってればいいか」


「そうだね」


 みんなが集まり終わると、セレスティーさんがやってきてお披露目会場へみんなは歩み始める。

 お披露目が終わるとみんなはより一層疲れた顔をして部屋に戻るのだった。

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