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一章①
楽しんで読んでください。
少年にとって「勇者」は身近な存在だった。
誰よりも身体が強く、多彩な魔法を使うことができ、色んなことを知っていた。少年の暮らす村の人々は誰もが「勇者」を尊敬していたし、それが少年には誇らしかった。
彼は「勇者」の旅の話がとても好きだった。
空に、海に、地底に、ありとあらゆる神秘を語る口調は淡々としていたが、だからこそ誇張のない未知の世界を感じることができた。いつか自分の眼で確かめてみたいと、興奮で胸が高鳴った。
少年が「勇者」になりたいと願うのも、当然のことだった。
けれど、一つだけ「勇者」の好きではない所が、彼にもあった。
それは、ある瞬間の表情、少年が将来の夢を語る時に見せる困ったような顔だけは、どうしようもなく嫌いだった。
「――――それは、お前には難しい」
生まれながらの「勇者」である父の言葉は、まだ幼い「村人」の少年にはただの理不尽にしか聞こえなかった。