しがないギルドマスター(冒険王)としがない受付嬢(悪役令嬢)の変遷
前作の補足的な作品。足りない場所を補完している、つもり。
あ?「冒険王様は『悪役令嬢ちゃん』の何なんだ」だと?
……何て事は無えよ、唯の雇い主と雇い人の関係だ。
「今の間が怪しい」?「悪役令嬢ちゃんの貴方を見る目が違う」?俺の知った事かよ……というかあいつの事悪役令嬢ちゃんって呼ぶの止めてやれよ、絶対嫌がってるぞ。なーに驚いた顔してんだよ、そりゃそうだろうさ。“悪役”なんて呼ばれて喜ぶ奴なんて居ねえよ。
でも、そうさな。あいつとの出会いと、あの悪い意味で有名な6人組との関係位なら話してやれるぞ。ああ、何だよ、それを聞きたかったのか?別に面白い話でも無いが……変わった奴だな。
俺があいつに初めて会ったのは、国境の森の中だった。「そんな所で何してたか」だって?何ってお前……パトロールだよ。定期的に魔物を間引いておかないと人里に降りて来るからな。「冒険王自ら動くのか」って?俺が動くのが一番早いだろ。
脳筋だぁ?うるせーよ!
話を戻すぞ。
いつも通り俺がパトロールしてたら、人の気配を感知してな。浅い場所とはいえ1人で、しかも近くに魔物が居やがる。様子を見て強い奴なら放置、弱っちい奴なら回収しようと思って行ってみたら……武器一つ持ってない小娘が丁度、魔物とコンニチハしてへたり込んで震えてた、ってんだから笑えもしねえ。
直ぐに魔物は倒して小娘に言ったんだよ、「こんな所で何してんだ?」ってな。そうしたら、可笑しな事言うんだ。「国外追放されました」ってな。普通国外追放なんて大罪人が受ける罰だろう?
見た目と違って余程の悪人なのかと思いきや、被せられた罪に、身に覚えがないときた。意味分からんが取り敢えず悪人じゃなさそうだから保護して詳しい話を聞いて、俺は怒るより前に呆れたな。
かの国は前々からアレだと思ってたが、一番マシな筈の王太子ですら遂にやらかしたかって感じだ。自分の恋の為に婚約者を罪人に仕立て上げるなんてなぁ。
しかも、自分が王太子である為には必要不可欠である筈の女を、だ。最早何考えてんだか俺にゃ分からんぞ。お前も分からんか?そうだよな。
兎に角、小娘はかなり有能だったから、俺の全ての始まりでもある、大切なこのギルドの受付嬢を任せる事にした。
それから1年、よく働いてくれてるよ。今じゃこのギルドの看板娘、欠かせない一員だ。
あん?それを本人に言ってやれって?誰が言うか、褒めると調子に乗るからな、あいつ。
……とまあ、あいつとの出会いはこんなもんだ。何故か懐かれもしたが、俺としては一時の気の迷いでこんなおっさん追っかけて後で後悔するよりは、釣り合う奴捕まえて幸せになってもらいたいもんだ。
「あんたまだ29だろ」って?29は立派なおっさんだろ、あいつからしたら。あいつは17だぞ?
そんな事より、あの6人組の事を知りたいんじゃなかったのか?「そうだった」ってお前……まあいいや。
奴等はな、この件が無ければ、かの国を担ってただろう奴等だ。紹介すると、顔だけ王太子、策謀家気取り宰相子息、井の中の蛙辺境伯子息&騎士団長子息&子爵子息、そして最後にこいつら全員の愛人やってる売女って所だな。ああ、全員廃嫡されてるから“元”、が付くか。
奴等が何の為にかの国の隣国であるこの国の、しかもギルドを出入りしてるのかっていうと、『悪役令嬢ちゃん』を連れ戻す為らしい。無駄だと思うけどな、あいつここの生活最高って言ってたし。
まあ、それ以外にも日銭を稼ぐ為って理由もあるだろうけどな。
ただ、ここだけの話……奴等は評判最悪でな、このギルドの評判を落としかねんと言われている。
依頼人に傲慢な態度を取るのは当たり前、自分達の力の誇示をしたいのか他の冒険者と合同の依頼をよく受ける癖に、学生レベルの作戦をおっ立てて仕切ろうとする宰相子息、自分は冒険者とはレベルが違うと思い込んでいる辺境伯子息、騎士団長子息、これまた学生レベルの天才だってのに他の冒険者を見下す子爵子息。
奴等悪い意味でそこらの冒険者とレベルが違うからな、フォローに回らせといて礼も無え。
で、だ。片付けちまう事が決まった。ああ、勘違いするなよ?ただ、上位の冒険者の助けを借りれば切り抜けられるだろう、ちっとばかし難しい依頼を当てるってだけだ。「かの国から文句が来ないか」って?廃嫡してこっちに寄越したんだ、何しようが文句は言えんだろ。
ただまあなぁ……中堅冒険者程度の実力しかないのに上位の冒険者を見下してるからな、井の中の蛙3人組は特に。協力は仰がないだろうなぁ……。
ああ、噂をすれば、奴等が来たな。奴等、あいつが嫌がってもしつこく絡み続けるからな。ギルドマスターとしてちっと行ってくるわ。
あ?うるせえよ。
そりゃ大事な職員だ、護るに決まってるだろうが。