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Area《3-22》


「えっ、もう五種類も聖属性魔術を? すごいじゃないですか」

『い、いえ! 使えたといってもまだ必ずというわけではありませんので』

 携帯通話機越しに、アリアの緊張した感じの声が聞こえてくる。

「そんなに謙遜することありませんよ、アリアのおかげで村のみなさんも助かっていることでしょうし」


 聖属性魔術は神への信仰を魔力に乗せて使う魔術である。

 その内容はゲームでのイメージするところの聖なる回復魔術や攻撃魔術以外にも、天気予測、水質浄化、作物への祝福などといったように多種多様に存在する。

 それも信仰する神によって流派(宗派?)が別れており、その種類によって習得できる魔術の方向性が異なる。

 例えば聖属性魔術を習得している聖騎士たるリリーシアの信仰する神は、ゲーム時代の人間種最大派閥のひとつであるアルストロメリア神なのだが、その神の得意とする聖属性魔術の方向は攻撃と防御であった。

 信仰と言ってもそれは単なるゲーム時代の職選択の話であり、信仰心など欠片程度にしか持ち合わせてはいないのだが、この世界では当然能力重視というよりもその個々人の宗教観が重視される場合がほとんどらしい。

(ちなみにアルストロメリア神には公式で美少女系グラフィックが実装されていたため、その見た目と実用的な能力の兼ね合いから信仰者――という名のファンは多かった。リリーシアもその手合いである)

 そして、アリアの信仰するコルウェの神格からもたらされる魔術特性は、主に予測と祝福に特化している。

 本人の星読の能力から派生したのであろうそれらの魔術は、天候や気温の予測や土壌への祝福として農作物の生産において非常に有用に働く。

 目に見えてわかりやすいご利益という点で見ても、農村にコルウェの信仰者が多いというのはさもありなんといったところである。

 そういった理由で、アリアが開花させた聖属性魔術への才能というのは村全体でありがたがられているのである。


「とはいっても自分の身体を一番大事にしてくださいね、決して無理はしないように」

『はい! ご心配ありがとうございます……!』

「私の周りは真面目な人が多くて自分の身も引き締まる思いで――と、そろそろ時間ですか」

『……あと四、五分程度は魔力が残っていると思いますが……?』

「まだ、コルウェさんと話していないのでしょう? あの人も楽しみにしていましたから、かけてあげてください」

『……はい! わかりました、それでは失礼します、リリーシア様』

 携帯通話機の向こうでアリアが頭を下げた気配がした後、魔力の繋がりが途切れた感触が返ってくる。


「……さて、そろそろいい頃合いでしょうか」

 通話からしばらくしてからリリーシアが炉から取り出したのは、ドロドロに溶け赤く発光する溶岩状の物体。

 増強された炉で溶かされた火竜の鱗である。

 下手な下級金属よりも硬く大きな竜種の鱗はもはや生物種の素材というより、金属として扱うほうが適切だ。

 そのため素材にする際は、一度溶かして精錬し、火竜鱗インゴットと呼ぶのが適切な塊にしてから装備類の形に仕上げていくのが普通である。

 あまりにも長時間の待機時間になったため、アリアに念話をかけていたのであった。

「普通といっても、知り合いに竜種の素材を扱ったことがある人はいませんけど……っと。状態はこのくらいで良さそうですね。……しかし、暑い……」

 難易度の低い作業であれば自分の周りだけ魔術で涼しくするといったことも可能だしそういう目的の魔道具も実際に売られている。

 しかし、今回はこの世界で初めて扱う種別の素材なので、念のため雑多な魔力は混ぜないよう細心の注意を払って熱気に耐えていたのである。

 そうでなくてもレベル二百クラスの素材は扱いが難しいものが多くなってくるので、無駄な魔力を使っている余裕はあまりない。

 身体防護を兼ねる作業服を脱ぐのは論外なのだが――というよりも熱を軽減する付与がかかっているため、実は脱いだほうがより熱い――冷たい飲み物でも用意しておいたほうがよかっただろうか、と頭をよぎったその瞬間、

「――つめたっ!?」

 突然左頬に冷たさの塊が来た。リリーシアは驚いて一瞬飛び上がってしまう。

「あら、ごめんなさい、リリィ。冷たいものでもいかがかと思いまして」

 完全に気配を消して後ろから奇襲をかけてきたのはコルウェ。その左手にはほのかに冷気を発する小瓶が握られている。

「お、おどかすのはやめてくださいよね……! 一応集中して作業してたんですから……と、これは――魔力ポーション?」

「ええ。セレネが量産していた中級魔力ポーションを数本頂いてきましたの。MPを使う作業にもぴったりでしょう?」

「なるほど、それは確かに妙案で……。そういえばコルウェさんってそんなに完璧な隠密技能を持っていたんですね。初耳です」

 リリーシアの探知能力は極めて高い。ただの一般人が足音を消して背後を取ろうとしても、周囲の環境などから気配を感じ取れるのである。

「リリィとは違って縛りがありませんので、有用な技能は見境なく取得しましたわよ? その一環で忍者系技能も極めましたから」

「忍者系は早い段階で闇属性魔術が前提になってましたしねえ……前衛としてはアレが取れないのは結構痛かったですよ、速度ボーナス的に」

 忍者系技能と総称されているのは、盗賊シーフから派生する暗殺者系技能を納め、影を操る技能や魔術すらも習得した末に忍者技能に辿り着く一連の技能ツリーである。そのどれもが素早さにかなりの補正値を持っているのだが、闇属性魔術師技能を必要とするせいでリリーシアは取得を見送らざるをえなかったのである。

 縛りはあくまで自分で決めたことであるので別に取得できないわけではないのだが、一度決めたものを覆すのも男らしくないと考えレベルカンストまで貫いてきた。

 ただし、これらの技能は速度に対するボーナスがかなり優良であり、攻略にも力を入れていたリリーシアにとってはそれなりに大きなハンデになっていた部分でもあった。

「それで、今から加工というところかしら?」

「そうですね。全員分とはいえ同じ素材なので今日中にはなんとか、と」

「なるほど。しかし、今のリリィたちの制服兼防具も、この世界基準だとかなり高性能だと思っていたのですけれど……あれでもまだかわいい弟子たちが心配で?」

 微笑んで聞くコルウェに、リリーシアは苦笑で答える。

「彼女たちはよくやっていますよ、本当に……彼女たちが頑張っているぶん、私もできることはしたい、と言う感じでして。それに、いつまた高レベルの敵に出会わないとも限りませんから」

「それもそうですわね。備えあればなんとやら――、それでは私はこのあたりで失礼しますわ、加工頑張ってくださいね」

 コルウェはリリーシアのそばに追加の魔力ポーション瓶を置いてひらりと去っていった。

「……たぶんこの中だと私は年下なほうだろうし、本当なら師匠とか言われるような人間でもないんだけどなあ……。まあ、今更仕方ない、か」

 細かいことを考えるよりはまず目先の加工に向かったほうが有益だ、そう考えてリリーシアは改めて火竜の鱗と対面した。

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