表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/101

Area《3-18》


 その畑は、村から少し歩いた場所に広がっていた。

 まだ朝早くという表現がふさわしい時間だが、畑には既に多くの村人が出てきて働いている。

 こういった田舎の農村には魔法の灯りがないため人々は日の出とともに活動を始め、日没とともに眠るのである。


「……ひとまず来てみましたが、なんというか、普通に畑ですね」

 リリーシアがぼんやりとした感想を口にする。とはいってもリリーシアは農業に関しては完全に素人なので、その見た目からは異常を感知することはできないのだが。

「あら、リリーシアは《農耕》技能は取っていなかったのですの? あれはなかなか根気の必要な楽しい技能でしたわよ」

 根気の必要な作業を「楽しい」と表現するのがいかにもコルウェらしい、とリリーシアは思わざるを得ない。(自身もどちらかといえばそちら側なのだが、あまり自覚はない)

「あー……確かその頃《しおひがり》で《農耕》上げてた人が複数人いたから、一旦その人たちに任せて自分は後回しにしてたままだったんですよねー……。こういうことがあると分かっていたら、マスターするかはともかく取得くらいはしておいたんですが」

「後悔は先に立たず、ってリリーシアが技能取る時によく言ってたじゃないの。と、それはおいといても――見た目と、土などの状態は極めて正常なようですわね。よく耕されていて問題はないように思われるのだけれど……」

 土を少量取り、揉んだりしながら観察するコルウェ。リリーシアも他の技能で似た経験のある感覚なのだが、おそらく《農耕》技能を持っていればああしただけで土の細かい状態がはっきりとわかるのだろう。


「村長さんの言うとおり、土にも周囲にも異常はないとすると……原因は一体……? コルウェさん、星読ってこういうとき何かできないんですか?」

「無敵のなにがしでなんとかしてください、みたいな頼られ方ですわね……。詳しく話してはいませんでしたが、星読というのも万能ではないのですよ?」

「この畑の場合は何が問題になるんです?」

 コルウェは、どう説明したものかと少し考えてから、

「星読は、”人”の過去と未来を星から読む異能なのです。人は短い年月の間に、多くの物事を為す存在。その物事が織り合わさって、この世界の歴史は形作られている……。私が大きな災害や争いを予知してきたのも、人々の未来を視た結果というわけですわ。そして今回の場合、確かに畑の収穫量は少しずつ減ってはいるものの、その原因となるものが直接的に人々に害をなすことはないでしょうから……因果が手繰れないといえばいいのでしょうか」

 コルウェの説明はリリーシアの想像の及ばない世界の話ではあったが、後半の言いたいことはなんとなく理解することができた。

「ふーむ……そうなると、何が原因なんでしょうか。収穫量の減少傾向がただの偶然ということもなさそうですけど」

「……もしかすると、何か魔法的な要因で土地全体が冒されているのかもしれませんわね。今私たちが何も感じられないということは――地中、でしょうか」

「……掘るしかないですね」


 村人の目につかないところまで移動し、リリーシアは魔術を発動する。使うのは、土属性の初級掘削魔法。

 対モンスター用の簡易な落とし穴を作ったり、柱を埋める下準備等に使われる初歩的な魔法を連続で行使し、二人は十メートル前後の地点まで潜った。

「……これは……なんといえばいいものか。すごく弱いんですけど、何かが」

 リリーシアが首をひねる。確かに自身の感覚に引っかかるものがあるのだが、うまく言葉にできないほどその手応えは弱い。

「――この村に来て、正解だったかもしれませんわね」

 一方で、目を閉じて感覚を研ぎすませているコルウェは厳しい顔を見せた。

「コルウェさん?」

「本当に微弱だけれど、この村全体を……いいえ、どこまでなのかわからないほど広く、邪な術が侵食しているのを感じます。私たちクラスの術者でなければ気づけないほどの隠密性の魔術ですわね」

「そんな広域に……!? それで、その魔術の効果は……」

「……土地を、少しずつ摩耗させていく蛇毒……だと思います。それは今はまだ収穫量の微減という形でしか現れていないけれど、数十年後には、何らかの流行病が蔓延し始めるかもしれません」

「そんな……!」

「遠すぎるのか、発生源は感知できませんわね。この土地に魔術で浄化をかければ少しは抵抗できるでしょうけれど、大元を断たない限りこの蛇毒は土地を蝕み続けるでしょう」

 その言葉を受けて、リリーシアは少し考えて小さくため息をついた。

「調査、するしかないですよね。私たちくらいしか気付いていないでしょうし」

「そうですわね。これも、力持つものの義務というやつですわ。――まあ、リリィは義務だとか言われずとも自分から解決しに向かいそうですけれど」

「王都に戻ったらしばらくゆっくりできるかと思っていたんですが、そうもいかなさそうですね」

「とはいえ、一年や二年で劇的に影響が出るようなものではないですから、焦らずに行きましょう、リリィ」

 こうしてダリア村での手伝いから延長して、《蒼の旅団》の次の行動が決まったのであった。

あくまでゆるゆると次の展開へ。

コルウェの星読で対象となる”人”というのは人類種だけではなく、各種亜人種や肉体を持つ獣の類までもが含まれます。ただし大気中の魔素由来である魔物にはほとんど意味が無いようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ