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Area《3-10》


 崩れ落ちる火竜ガヌトゥ。


「やっ……た……?」


 実際に強敵を倒してみると、フラグに聞こえる台詞のひとつも出るものだ、とリリーシアは実感する。

 そしてそのフラグは回収されることなく、火竜から魔力の反応が薄れていき、沈黙した。

 それと同時に、リリーシアの剣は刀身が粉々に砕けてしまった。もとより、あまり高級でない素材で無理をさせていたので致し方なかったのだ。

「師匠も呆れた奴じゃ、本当に竜種を討伐するとはのう……」

「もう動けない、です」

 倒れた火竜の前でリリーシアが放心していると、フラフラになったゼラとミコトが歩いてくる。

「みなさんのおかげですよ、本当に」

「それは光栄な事じゃなあ……」

 声音はもう勘弁してくれといった様子だが、その顔は達成感でいっぱいなのがまるわかりであった。

「お疲れ様、リリーシア」

「セレネもお疲れ様です。最後の一太刀、見事でしたよ」

「あそこで失敗するなんて恥ずかしいこと、できないでしょう? でも、バツェンブール王家にも竜種を倒したご先祖様はいないんじゃないかしら」

 まったくです、とセレネに笑って返す。

 思い返すと、この火竜の攻撃能力レベルは二百五十に届くかどうかといったところだったように思われる(ただしそこは竜種であり、同レベル帯の魔物と比べれば基礎能力値が桁違いなのではあるが)。

 しかし耐久力や総魔力量の面ではダンジョンボスの名に恥じない強化を経ていたようで、単純に消耗戦を続けていればこちらのリソースが枯渇していた予感が濃厚である。

 おそらくは、この都市に存在する冒険者たちだけでは討伐は困難だっただろう。自分たちがこのダンジョンの調査に呼ばれなければ、この火竜は何世紀にも渡って異界化を進めていた可能性が高いということだ。


「……それにしても、遺体が消えませんね?」

 ダンジョン内の通常の魔物は倒してすぐ魔素となって霧散してしまうのだが――

「ふむ。ダンジョンボスは倒した後も残り続け、何十年もかけてダンジョン内に還元されていくと聞いたことがあるのう。わらわは見るのは初めてだが、これがその現物ということなんじゃろうな」

 ふむー、と火竜の亡骸を眺めていたリリーシアはパッとゼラを見て、

「なるほど……、ということは、剥ぎ取ってしまってもいいんですね……!?」

「あ、ああ……そうじゃな。テンションの上がりようはよくわからぬが、これも踏破報酬ということにして存分に戦利品をもらっていくがよい」

「リリーシア、私も手伝うわよ」

「もちろん、みなさんにも手伝っていただきますよ。ここに、こんなときのために用意していた純金剛鉄アダマンタイト製の解体包丁四丁が――」

 その後の解体作業は戦闘よりも時間がかかったのだが、ここでは割愛することにする。


「あー……やっと地上に出たわね……」

 ぐったりとセレネがつぶやく。地下での長時間戦闘で完全に感覚が麻痺していたが、外は真昼であった。

「しかし、竜種の骨や鱗がここまで重いとは、知らなかった、です」

「師匠の重量軽減と容量拡張がかかった背負袋でこの重量とは……伝説に語られる竜種というのはほんに凄まじいものよ……」

 続いて、同じく疲労困憊した顔で地上に出るゼラとミコト。

 竜種を構成する部品は、その内包する魔力量もさることながらその密度が暴力的であった。改造された背負袋のおかげで四人に分けてほぼ全て持ち帰ることはできたが、その重量たるやというところである。

「いやー疲れましたね! 帰ったらそのまま寝てしまいたいです」

 最後に出てきたのは、言葉とは反対に非常に生き生きした様子のリリーシア。

 その背中には他のメンバーのモノを三倍に大きくしたような巨大な背負袋。その他にも腰に複数の袋を携え、ほとんど背負袋に埋もれているような格好だ。

 その内訳には竜種の骨や鱗、牙や爪はもちろん、非常に重量のある肉や血液も含まれている(腰の袋は全て容量拡張した液体袋である)。

 軽減されているとは言え、他の三人が持てばすぐに潰れてしまいそうな重量をやすやすと担いでいるあたりはレベル七百の面目躍如というところである。

「そういえば。何か珍しいものは出た、です? 竜種の素材というだけで希少価値は計り知れないですが」

 ミコトに聞かれて内容を思い出すリリーシア。

「そうですね、レアモノといえば――完全に無傷で残っていた逆鱗と、角、翼膜に……ああそうだ、体内から取れた一抱えもある球状の竜種のコアが」

 リリーシアがごそごそと手元の袋を探り、一つの球体を取り出す。

 溶岩のような赤色を湛えた透明な球体は、金属のようにも、魔力そのもののようにも感じられる不思議な物質である。

「……師匠、時々内部がうごめいているように見えるんじゃが、破壊しなくてもよかったのかのう……?」

「大丈夫でしょう、たぶん、おそらく。あくまで思考を司っていたのは脳であって、これは魔力を生み出し続ける魔力炉のような性質しかもっていないようですから」

 これを壊すなんてとんでもない、という顔で反論するリリーシアにため息を一つつくゼラ。

「まあ、よいわ。師匠が大丈夫というなら大丈夫なんじゃろ、おそらく。そんなことより、早く宿に帰って休みたいのじゃ」

「ええ、まったく」

 こうして、《蒼の旅団》のダンジョン調査は完遂されたのである。



 次の日の朝。

 揃って朝まで爆睡していたリリーシアたちは、以前にも訪れたコール本邸の会議室でエキナ・キルデ・コールと対面していた。

「……火竜? 竜種?」

 ぽかんと口を開けているエキナを見てゼラが吹くのをこらえている。気持ちはわかるが我慢して欲しい。

「そうです、そうです。コール区の鉱山、コール大鉱山に繋がったダンジョンには、最深部に火竜が住み着いていました。正確には、彼がダンジョンの主だったようですが……」

「……で、それを……討伐した、と?」

「はい。まあいろいろとギリギリでしたが……なんとか。あまり気持ちのいい映像ではないですが、解体作業の録画結晶がありますのでご覧いただければと」

 そう言って、エキナの前に火竜の鱗(手のひらほどの大きさがある)を一枚と、録画結晶を再生状態にして置く。

 再生されるのは、金剛鉄アダマンタイトの解体包丁でバッサバッサと火竜の亡骸をブロックごとにさばいていく四人の姿。

 あとで見返すとなかなかシュールな光景だ、とリリーシアはしみじみ思う。

「これが、火竜の……。おまえたち、本当に――本当によくやってくれた!!」

 長い黒髪を振り乱して、テーブルに額が着くほどの勢いで頭を下げるエキナ。実際テーブルがかなり硬質な音を立てたのでリリーシアは驚いてしまった。

「いえ、いえ。これは私達の、というか私の勝手でして。ダンジョンボスから珍しいモノが出るといいなあ、と思って軽率に挑んでしまっただけですので……」

「それで……ダンジョンはどうなったのだ? 主を失って崩壊したのか?」

「今のところは顕在のようです。ただし主たる火竜を失ったことで、魔物の発生は幾分穏やかになったようですね。ダンジョン自体は古くからあったようで、定着してしまっているものかと思います」

 それを聞いたエキナは考え込み――

「ふむ、ふむ。それはそれで、商売になる、か。冒険者を呼び込めるし、魔物由来のドロップアイテムを買い取れば名産品にも――ふふふ、これは新たな金の香り、よい、よいぞ……!!」

「ええっと、とりあえず私達の依頼はこれで完遂ということで……?」

 一人で盛り上がっているエキナに対してリリーシアが控えめに聞く。

「うむ、ご苦労であった! この地図と録画結晶を以って、諸君ら《蒼の旅団》への依頼は満了である! 報酬にも色を付けておいた、冒険者組合で確認してくれ!」


 冒険者組合でも同じような遣り取りをしたあと(《ハネツルギ》や《北風》の面々とも偶然出会って話し込むことになった)、一行はガルガンチュートの外門前に来ていた。

 用事は済ませたし名物の肉料理も十分堪能したので、出発である。

「長かったような、短かったような……でも、いい場所でしたね」

「料理が美味いというのは大事なことじゃな」

「ゼラ、食べ過ぎじゃない……?」

「摂った分はちゃんと消費しておるから問題はない!」

「冒険者にダイエットは必要なさそうね。リリーシア、次はどこへ行くんだっけ?」


「はい。一旦ラツェンルールで補給と整理を行ったあと――東端の村、ダリア村へ向かいます!」


あけましておめでとうございます。今年もゆったり更新ペースです。

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