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Area《3-2》


「……っくしょん!」


バツェンブール王都ラツェンルールから鉱山都市ガルガンチュートに向かう馬車の中で、リリーシアは盛大にくしゃみをした。

「風邪、です?」

「だ、だいじょうぶです、ミコト。……誰かに噂でもされたんでしょうか」

「リリーシアもすっかり有名人だものね」

「セレネほどではありませんよ……」


 ミコトとセレネに返して、不可解な顔をしつつリリーシアは窓の外を見た。

 現在一行の馬車が進んでいるのは、遠くに山と森の見えるだけのなだらかな草原地帯である。

 見た目は代わり映えしないが、森の中や山の中など、危険度の高い魔物の出る可能性のある領域をある程度避けたルートを進んでいるためそれもやむなしといったところである。

「……若干遠回りになるとはいえ、改造した馬車は普通のものより快適ではありますし、最終的には早めに着くんじゃないでしょうか」

「です、ね。でも、師匠の技術には驚いた、です。馬車をほとんど揺れなくして、かつ普通の馬車よりずっと速いのですから」

「上手くできてよかったです。ただ、機構を魔術に頼っている部分に関しては魔力量に余裕のある術者が乗っていてこそ力が発揮されるわけではありますが」

「それでいいんじゃない? 魔力底なしのリリーシアが乗ってることがほとんどなのだし。それにミコトとゼラも、専業の魔術詠唱者マジックキャスターより多いくらいの魔力量を持っているんでしょ?」

 魔力の供給に関しては、確かにセレネの言うとおりである。まずリリーシアが乗っていれば、自然回復量にも影響しない程度の魔力で機構を動作させられるし、ミコトとゼラもこの程度の仕掛けなら余裕で一昼夜起動できるだろう。

 ちなみにゼラはというと、今は馬車を牽引する馬のほうで御者役を担っている。


 ここまでの行程で想定外の事態は起こらず、旅は実に快調であった。

 魔物の類には何度か遭遇しているのだが、ゴブリン・ウルフ・ワイルドラビットといった駆け出しの冒険者でも対処できる程度のものであった。このメンバーならば個々の軽い魔術の行使で殲滅できてしまっていた。

 荷物はといえば、内容量拡張と重量軽減、更に腐食防止の魔術を付与したコンテナにまとめて入れることにより、馬車一台とは思えないほどの物資を積載することに成功している。

 そのため消耗品にはまず困らない程度の備蓄が出来ており、食料に関してもこの先一週間は保つだろうと思われる。

 リリーシアとしては、ファンタジー世界の旅はもっと危険と隣り合わせなのかと思っていたため、正直拍子抜けの感が拭えない(なお旅に余裕があるのは彼女自身の技能によるものが大きく、下級の冒険者などはもっと苦労をして旅をしているものだ)。

「なんにせよ、余裕があるのはいいことです。このルートなら危険な魔物も出ないでしょう?」

「魔物は、です。村落もまばらになってきた地点ですので、警戒すべきはむしろ野盗の類かと思われますが――」

「それもまあ、リリーシアたちに襲いかかる野盗なんて不運としか言いようがないわよね」

 ミコトの言葉を聞いたセレネに逆に危険人物のような認定をされてしまって甚だ不本意なりリーシアではあるが、王都周辺でレベル二百以上の人物というのは聞いた限りでは存在しなかったので、下手に言い返すこともできないのであった。

 ちなみにその点ではミコトやゼラにしてもレベル百六十というのは王都冒険者組合史最高記録であり、工房の弟子などという位置に収まっているべき冒険者ではないので五十歩百歩というところではある。


 手持ち無沙汰なリリーシアは自身の冒険者カードを取り出し、裏面の能力値を眺める。

 この世界の人間はレベルに応じてゲームファンタジアのときと同じ成長曲線を辿る。レベルがあがるほど身体能力は格段に向上し(現実世界の人間など比較にならない)、スタミナや整腸機能までもが高性能化していくのである。

 HPと防御力に関しても同様であるため、リリーシアといった到達者級の人間のHPはレベル十や二十の人間から見ればあまりにも膨大な値になっている。

 その結果何が起こるのかというと――心臓や首筋、頭といった急所へ攻撃されてもまず即死することがなくなるのである。

 以前、リリーシアは「どんなにHPがあっても人間なのだから首を斬られたら死ぬだろう」などと想像していたが、実際にはそれはありえない。この世界の法則はあくまでRPGらしさが根底にあるらしく、どんなに急所に当たったと思ってもそれは浅い攻撃となり、通常より多いダメージは入るものの、致命打とはなりえないのである。

 このような世界の法則を当たり前のように説明されたときにはリリーシアは仰天したものだが、生まれたときからこの世界に生きる人々にとっては常識であり当然の理なのだろうと納得することにしている。

「……それでも、そんな危ない目には今後も遭いたくはないですが――」

 リリーシアがそうつぶやいていると、ゼラが前方扉から顔を出した。

「師匠、ようやく見えてきたぞ。……ガルガンチュートじゃ!」


 他三人が声に反応して窓から乗り出すと、前方遠くに高くそびえ立つ山脈が見え始めていた。まだ小さいながらも、麓に町並みが連なっている姿も確認できる。


「あれが――鉱山都市、ガルガンチュート……!」

忙しかったのと、導入どうすっかなあと悩んでたら一ヶ月経ってました。ウカツ!

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