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Area《3-1》


「次の報告は東方の監視室からです」

 その豪奢な部屋――いたるところに美術品や調度品の類が置かれ、まさに《絢爛豪華》という言葉の相応しい――には、複数の人間がいた。

 部屋の入り口側に跪く複数人の者達と、玉座に座り彼らを見やる一人の女性。今は、王女とその配下の報告会の最中である。

 その王女の容姿は、これまた部屋の内装に引けをとらない豪華なものであった。

 特徴的なのが赤色の瞳で、中に不思議な金色の光を灯している。気品と凛々しさを伴った顔は静かな微笑みを浮かべ、クリーム色のボリュームのある髪は玉座の背の間から優雅にこぼれ落ちている。

「まず、バレンス国は例年通り。目立った動きはありませんが、彼の国の軍事力の増強具合には引き続き注意が必要かと思われます」

「その程度であれば、この大陸中央に位置する我が国はしばらく無関係でいられそうですわね」

 跪いた報告員の言葉を吟味し、判断を返す王女。

「はい、その通りかと思われます。次にゲルデ国ですが……こちらも例年通りといえばそうなのですが、内戦状態は継続中です。閉鎖的な気風も相まって、調査もあまり進んでいないようです」

 その報告に、王女は静かにため息を返す。思うところはあるが、口に出すことでもない、という様子である。

「最後にバツェンブール国ですが――《終末》が出たようです」

 王女は《終末》という言葉に反応して微笑みを消した。

 《終末》――闇から現れ人間世界に害をなし、気付いた時には闇へと消えている者達。その総数、目的、出自等全てが謎に包まれている集団である。

 大陸中央に位置するこのグランデ国でもその影は見え隠れしており、麻薬や人身売買等の裏社会の組織には必ずと言っていいほど絡んでいるらしい、という調査結果が出ている。

 そんな忌々しい連中のことを思い出しつつ報告を聞いていると、バツェンブール国の王都ラツェンルールに現れた《終末》は、なんと王城に数万体の骸骨兵スケルトンを送り込んだのだという。

 いくら個々が弱い骸骨兵スケルトンとはいえ、数万体などという桁外れな量を送り込まれた王城はどうなってしまったのか――

「それで、バツェンブール王家の方々は無事なのですか?」

「――はい。というより、その襲撃による人的被害は皆無であった、という報告が来ています」

「皆、無……?」

 驚き、王女は息を呑んだ。

「はい、皆無です。さらに重大な報告として、その骸骨兵スケルトンの大軍はたった一人の魔術詠唱者マジックキャスターによって一撃で消滅させられた、と――」

「……その魔術詠唱者マジックキャスターの、名前は……?」

「――名を、リリーシア・ピルグリムというそうです」


「リリーシア、ピルグリム――リリー、シア?」


 王女はがたりと玉座から立ち上がり、驚きを顔に浮かべたまま固まってしまった。跪いた報告員はみな予想外の反応に動揺していたが、王女にはその様子も目に入っていないようである。

「か、監視室から、粗いものの、録画結晶が届いております」

 何かあったのだろうかと思いつつも忠実に職務を全うするべく、報告員は録画結晶を床に置き、再生を始める。


 空中に浮かび上がった魔術スクリーンには、遠く映しだされた王城の屋根に立つ一人の蒼い女騎士風の女性と、眼下の広場に氷の槍が次々と突き出していく様子が映しだされていた。

 その画面の解像度はお世辞にも高いとは言えずその女性の姿は夜の闇に浮かぶ幻のようにも見えるが――


「この魔術――美しい蒼――凛とした佇まい――やはり。……やはり、リリィ――」


 繰り返される映像を食い入るように見つめる王女は、たちつくしたまま呆然とつぶやく。

「……この魔術詠唱者マジックキャスターと、お知り合い……なのですか?」

 恐る恐る報告員が聞く。


「ええ――遠く、遥か遠い頃よりの友人ですわ。何十年、何百年ぶりかしら――ねえ、リリィ」


 ――そして、新たな物語は回り始める。



結構間が開きましたが、またゆっくりと更新開始です。

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