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Area《1-5》

 リリーシアは、改めて困惑していた。


 この村には風呂の文化はなかったが、数日おきに濡らした布で身体を拭くことはしているらしい。

 リリーシアもそれにならって布と水桶を借り、身体を拭くことにしたのだが。


「自分の裸体で恥ずかしがる必要はないはずだ…そう、そんな必要はない」


 自分でリリーシアの細部までキャラメイクしたのだから、自分の理想とする最高の女性には違いない。なのだが、それが他人ではなく自分だということがあまりにも不思議な感じなのだ。

「…まあいい。さっさと済ませてしまおう」

 この部屋に鏡がなくてよかった。服を脱いで盛大に赤面している蒼髪蒼眼の(そして中身がひきこもりネトゲーマーの)奇妙な美少女を見るハメになっただろうから。


 それからの数日は、自分の能力の確認に費やした。

 村の奥に山が広がっており、ここなら誰にも見られることなく武器術や魔法を確認できそうであった。


 この世界の魔法は、発動前に改変対象を厳密に定義する必要がある。たとえば、氷雪系詠唱魔術フロストスペル:《氷刃投擲アイスエッジ》の定義内容は、『生成する氷刃の大きさ・氷刃の温度・氷刃の鋭さ・氷刃を撃ちだす速度・氷刃が命中した場合に能力を発揮する対象』である。それぞれ、氷刃の大きさを大きくするほど消費魔力は増え、同じように温度を下げるほど、鋭さを増すほど、速度を上げるほど消費する魔力量は増大する。そして、最も大切なのが対象の定義である。一般に、影響を及ぼす範囲を広げるほど消費する魔力量は増大する。そのため、仮に対象を目前の敵一体と定義した《氷刃投擲》は、外れた場合には地面にもその他の物体にも能力を発揮しないし、刺さらずに霧散してしまう。


「漠然と『生物』と設定するより『人間』、『人間』よりも『目前のあの人間』、としたほうが魔力効率が高いということか」

 もちろんゲームであるファンタジア内ではこんな手順は踏まない。あくまでショートカットから魔法を呼び出し、マーカーの表示されたところに魔法を発動するだけだ。

「こういうゲームとは違う独自の構造の解析……結構楽しいかも」

 適当に魔法を練り上げ、山の中の湖に連射して満足したリリーシアは、今日で準備期間が最終日であることを思い出す。

「拾ってもらって、宿と飯を提供してくれたこの村には……また絶対戻ってこないとね」

 最後に気合を入れて発動した中級氷雪系詠唱術フロストスペル領域凍結エリアフリーズ》は、直径15メートルの湖の表面に分厚い氷を張った。


 そして出発の日。村の広場には5人の若者とリリーシア、そしてオッソリア村長とアリアが集まっていた。

「今回の討伐隊には付近一帯の村々の生活がかかっておる。必ず目標を達成し、そして全員生きて帰って来い」

 オッソリアがそう激励し、アリアとともに大きく頭を下げる。

 ダリア村の討伐隊の面々は、口々に任せとけ、絶対に帰ってくるからな、と声をかける。

「それと、今回は偶然この村に辿り着いた高位魔術詠唱者マジックキャスターのリリーシア殿が同行される。協力して討伐にあたってほしい」

 その言葉を受けて、6人は村を出る。ここから西に向かい、他の村の討伐隊と合流して王都へ向かうのだという。

 村の若者とは一度挨拶をしていたので面識はあるが、隣村へ向かう途中で改めて自己紹介をする。

「改めて、今回同行させてもらいます、リリーシアです。剣のほか、水属性攻撃魔術と支援魔術を使えますので、怪我をした時などは見せていただけると嬉しいです」

 竜は、リリーシアという存在について口調をどうするか探っていたが、普通に他人に接する時は敬語に統一することに決めた。

「おう、魔法が使えるってだけでも随分ありがてえのに、加えてこんな美人さんなんだから俺たちゃ幸運だよなあ」

と若者の一人が茶化すように言うと、他の男たちもやんややんやと賛同する。

 冗談なのかよくわからないリリーシアは曖昧に微笑して返す。自分の理想のクールビューティ的な外見にはしてあるつもりだが、この世界の男たちの好みがどうなのかは未知数である。

 王都へ向かう途中の村々のことなどを雑談交じりで教えてもらいつつ2時間歩くと、目的の村が見えてくる。休憩をはさみつつ、この流れを数回繰り返すらしい。


 その後も4つの村をまわり、1村5人ずつの、合計30人(+リリーシア)の若者が集まった。

 ここまでで丁度2週間程度の行程であったが、さらにこれから1週間かけて魔物の目撃地点へと向かうことになっている。

 そこで順当に問題を解決できれば、さらにあと2週間弱で王都着、という予定らしい。


 問題の地点までの最後の村となるオッフェン村で、リリーシアは30人の討伐隊の武器を整備していた。

 討伐隊唯一の女性ということもあり、信頼を得るために(ナメられないように?)自分から申し出た次第である。――元から視線に不信用なものはほとんど混ざっていなかったようにも思うが、念のためである。

 対象を複数にした《上級既成武器強化》は、それなりの魔力量を消費しつつ、30人の武器強化を数分で完了した。

 一箇所に並べられた武器を各々が持ち直すと、

「何か変わったのか?見た目は変わらないが」「お前、ちゃんと見ろ、さっきまであった穂先のグラつきが無くなってるだろ!」「なんだこりゃ、こいつはすげえ」「こんな魔法もあるんだな」「ダリア小隊のねーちゃん、やるなあ!」

と口々に褒めて認めてくれたようであったので、リリーシアは控えめに会釈をして返した。


 それからの旅路もイレギュラーは発生せず順調に進み、問題の地点に差し掛かる――その時。

「おい――あれを見ろ!」

 誰かが叫ぶ、その先では。


 行商人の馬車が魔物に襲われていた。


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