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Area《1-4》

 討伐隊出発まで7日間の猶予があるというので、その間の最初の2日で村の案内をしてもらって村の住人たちに顔合わせをしたり、村長の館に出向き、(自分でもあまりわかっていないのだが)経緯を説明したりしていた。

 ダリア村の村長はアリアの実の祖父らしい。館の空き部屋を貸してもらえるというので、ありがたく借りることにした。ベッドが備え付けられ、清潔にされた小さな部屋は、改めて物事を整理し混乱を鎮めるのに十分な効果があった。


 その次の日。リリーシアは改めて村長のオッソリア・ペリヌ・ダリアと話をしていた。言うまでもなく、討伐隊のことを相談するためである。

「高位の魔術詠唱者であるリリーシア殿に同行していただけるのであれば彼らの道中も安心でしょう。願ってもいない話です」

 事前にアリアから話を聞いていたらしい。オッソリアにも役に立てるか自信がないという旨を繰り返し押したのだが、リリーシアの能力を彼がどのように取ったかは定かではない。

「彼らが身に付ける皮の防具と同じものをこちらで用意していますので、お待ち下さい」

 それからこの村やこのあたりの地域について聞いていると、がさがさと大きな荷物を抱えたアリアが奥の倉庫らしき場所から出てくる。

「アリア、おはよう。それが討伐隊が使うという……?」

「おはようございます。はい、これが彼らの使うものとして用意された装備類の、予備になりますね」


 そう言ってテーブルに置かれたのは、皮をなめし、左胸に鉄のポイントガードをつけた胸当て、同じくなめし革で作られた小手と膝当てである。リリーシアは拾われた時にボロ布同然の衣服しか着ていなかったため、一般的な村人の衣服の上下を付けてもらってる。


 ……王都への道に出没する魔物がどの程度のものか知らないが、これらの装備では気休め程度なのではないだろうか。


 リリーシアがそんなことを思っていると、顔に出ていたのか、村長が厳しい顔で口を開く。

「ええ、言いたいことはわかります。魔物に対してこの程度で十分なのか、と。確かに全く足りていませんし、不安になっている若者も多いと聞きます。しかし悔しいことですが、この付近の村で出せる装備はこれが手一杯なのです」

 聞けば、バツェンブール王国の東端にあたるこの村は同時にこの大陸の東端にもあたる海に面した土地で、人間・魔物問わず外敵が入ってくる要因が少ないため専用の防衛組織を持っていない。

 そういう理由でもともとまともな装備を揃えていなかったところに、街道の魔物の出現によって装備の類が全くこの地域に流れてこなくなったのだという。

 話を聞く限り、討伐隊の若者たちというのも、農民に武器を持たせて振らせているだけ、という印象が何一つ間違っていないという状況になってしまっている。村長とその孫娘の心配が尽きないのも当然といえる。

 話を聞いているリリーシアまでもが暗い顔になってきてしまったので、強引に話を戻すことにする。

「私にも何か武器を貸していただけるとありがたいのですが、可能ですか?」

「おお、そうでしたな。こちらから用意できそうなものといえば、鉄製の片手剣、斧、そして槍程度でしょうか」

「それでは、ありがたく片手剣をお借りしたいと思います。あるのであれば盾もお借りできればと」

「倉庫にあったと思いますので、見繕っていただければ」


 オッソリアの許可を得て、アリアの案内で奥の倉庫へ向かう。

 中に入ると、なかなかにほこりっぽく、薄暗い。

「剣が……この棚に。盾はその隣の棚から選んでください」

 棚に並んだ、作りが似たり寄ったりな鉄製の剣と盾を適当に一本手に取ってみる。

「予想通りというか……これではいつ折れてしまうかわからない、か……」

 アリアは他の棚の整理をしていて気付かれないが、小声でそうつぶやいてしまうほど、それぞれの状態はよくなかった。刀身自体が長く使われていない様子だったし、下手に打ち付ければ柄の部分からポキリと折れてしまいそうだ。

 ところでそんなものに全く縁のない現代日本に住んでいた竜になぜそんなことがわかるのかというと、竜は竜であると同時にリリーシアという存在であるらしく、彼女の経験や知識が自然に融合し、身についているのである。

「でも、取得した技能スキルに《上級既成武器強化》があるし対応できるのかな……?」


 《上級既成武器強化》は、聖遺物レリック級以下のドロップ武器を鍛え、強化する技能スキルである。

 ファンタジアでの装備といえば主に三種類であり、いわゆるNPC店売り装備、プレイヤーメイド装備、ドロップ装備とわけられる。

 NPC店売り装備は冒険の序盤で売っている文字通りの量産装備であり、後からの強化を何も受け付けない代わりにそれなりに高い耐久度を持つ。

 プレイヤーメイド装備は、生産系技能を修得した者が材料から作る装備である。材料の段階から完成後まで、生産者の技能による幅広い強化を施せるため、高性能なものは高価だが能力も折り紙つきで、愛用者も多い。

 そしてドロップ装備は、ダンジョンの宝箱ドロップやダンジョンそのものから生み出されるクリア報酬、そしてモンスターのレアドロップに代表される装備である。既成品がドロップするため、総合的な能力では高性能なプレイヤーメイドに劣ることが多い。ただし、レア中のレアたるユニーク装備は能力値が優秀だったり、プレイヤーメイドではつけられないような特別ユニークな付加能力を持つものも存在する。

 リリーシアはトップ層のプレイヤーとしてレアドロップを入手する機会も多かったため、既成品を強化する技能は必須であり全段階を完全修得マスターしていた。


「既成品強化には素材は不要、ただし細かい形状が変化することがあるが、技能レベル上昇で調整可能……だったかな」

 ゲーム時代のTipsを思い出しながらつぶやいていると、他の場所の整理をしていたアリアが戻ってきた。

「それで決定されるのであれば、お貸しいたしますね。とはいえそのままの足で王都に滞在されるでしょうから、その装備は差し上げてくれ、と祖父から伝言を預かっています」

「何から何まで……この村には感謝を兼ねてまた帰ってきますよ、きっと」

「そう言っていただけると、とてもうれしいです」


 本当に嬉しそうに言って、アリアは天使のような笑顔で頷いた。


 それから自身の貸し部屋に戻り、剣と盾を床に置き、手順を確認しつつ行使を開始する。

 《上級既成武器強化》自体は、魔術と錬金術の複合魔法らしい。実際に、技能修得条件が上級付加魔術と上級装備錬金術関係の複合だった記憶がある。


 ――自分の中に意識を集中し、埋没していた《上級既成強化》を潜在技能の海から掬い上げ、サブの技能として既存のものと入れ替え。

 ――魔法行使専用の器官ともいえる体内の魔力回路で空気中に充満する魔素を体内に吸収。

 ――自身の魔力を武器強化の技能として組み上げ、取り込んだ魔素を腹の底で混ぜ込み練り上げる。

 ――対象を鉄の剣に設定。付加能力は……耐久性上昇を主として切れ味向上を気持ち程度に。

 ――対象の改変が開始される。両手を揃えて当てた鉄の剣に、付加能力が流れ込んでいく。

 ――改変、完了。


 緊張を解き、鉄製の剣を手に持つ。見た目には全く変わっていないが、ボロが出ていた細部が調整され、刀身部分が輝きを取り戻し、十分に切れ味を取り戻したように見える。

 同じ手順で盾にも強化を施す。内容は耐久性上昇と打撃力上昇。聖騎士スキルには盾を交えた攻撃技が大量に存在するため、盾は武器とみなすことができる。


「これで完了…かな。成功してるのはわかるんだけど、ステータスウィンドウが開けないのがこうも不便とは……」

 武具鑑定系の技能をセットしてみると、それぞれの装備に先ほど付与した能力が宿っていることはわかるのだが、具体的な能力値や耐久値が確認できたりはしなかった。ただ、耐久値が本来の武具の9割程度存在するということはわかる。


 そして同じように、リリーシア自身の能力値も不明なままだ。ただし10年毎日付き合ったゲーム内のデータをそのまま受け継いでいるのであれば、330の技能の内訳とレベルはもとより、それぞれの修得経験値のパーセンテージの小数点1桁まで全て把握している。

「でも、普通に考えてゲームそのままのわけがないと思うのだけど。人間が剣で斬られたら死ぬでしょ」

 本来のリリーシアの基礎能力値を受け継いでいるなら、防具が初期装備すっぱだかだったとしても鉄の剣で斬られた程度では最低保証の「1」しかダメージを受けないはずだ。

 現実の物理法則でそんなことはありえないわけだが、試しにここにある鉄の剣で自分を刺すというのもためらわれる試験方法である。

「……これはまた、おいおい確かめていくということで。身体能力も十分に上がっているみたいだし回避すれば大丈夫だと思いたい」


なぜか鉄の剣で切腹をする自分の姿をありありと想像してしまい、気持ちが萎えてしまうリリーシアであった。


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