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Area《X-X》

 その祭壇は闇の中にあった。


 祭壇にはろうそくが置かれ、その僅かな光量を濡れた床が反射している。

 濡れた床は、血に塗れていた。


 その祭壇を囲むように、複数の影が立っていた。

「……セレネ・バツェンブールの暗殺・誘拐は成功するはずだった」

 影の一人がつぶやく。

「50年をかけて蓄え続けてきた骸骨兵スケルトンが、たった一人の魔術詠唱者マジックキャスターに消し飛ばされなければ」

 影の口調にも、苦いものが混ざっている。

「あれは……何者だ?」


 影のうちの一人――ニグル・ヘルヘイムは、その言葉を受けて顔を伏せたまま答える。


「蒼の髪に、蒼の瞳――名は、リリーシア・ピルグリム」

 その名を意識すると、ニグルの頭に苦いものが走る。

「素性は……何一つ判明していない。この100年、あれほどの魔法使いが存在した記録はないわ」

「素性が何一つわからないだと?」

「……奴の魔法力は異常だわ。あの力は必ず我々の脅威となる」

 そう言うと、別の影の一人が卑屈な笑いとともに口を開く。

「そういう想定外イレギュラーに対処するために君がいるんだろう? 近いうちにも冒険者たちがそこに攻め入ってくるだろう。その神殿を奴らから守ってくれたまえよ」

「……わかっているわ」


 祭壇のろうそくが消える。それと同時に複数の影は闇に薄れ、そこにはニグルのみが残った。


「地上に出せる戦力はもうない……また数十年程度の準備が必要でしょうね。でも、この祭壇周辺の防衛戦力はまだ手付かず。ここには”あれ”もある。今度こそ、あの忌々しい女を――!」


 執念に取り憑かれたニグルの顔は、闇の中で暗く歪んでいた。



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