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Area《1-21》

 轟音とともに、その揺れは王の執務室まで届いていた。


「――っ! 水系詠唱魔術ウォータスペル:《水精ウンディーネ強化リインフォース/空間スペース》!」

 反射的に、執務室という空間自体の《強度》を強化する。その空間自体に攻撃が加えられた時には発動者の魔法発動領域に波紋が生じるため、脅威を知ることができるという効果もある。

「下でいったい何が…!?」

 動揺するセレネ。

 立ち上がりかけたセレネを座らせてから、リリーシアは執務室の窓に駆け寄った。

光系詠唱魔術ライトニングスペル:《暗視ナイトヴィジョン》」

 それは目に入る光を自動的に増幅・収縮させて夜の闇を見通したり、強い光に備える魔術。


 その窓からは城の中庭の一部しか見えないが――

「な……! 地面から骸骨兵スケルトンが湧き出している……!?」

 その言葉に、驚愕を露わにするルミナ王。

「馬鹿な! この王城には複数人掛かりで浄化の陣を巡らせておるのだぞ!そんなわけが……!」

 王の叫びの直後、執務室の扉が叩かれる。リリーシアが駆け寄ると、

「伝令兵です! 扉は閉めたままで聞いてください! 既に骸骨兵が城内になだれ込んでいます! 騎士隊が殲滅に乗り出していますが、あまりの量に連携が難しい状況です! どうやら城の外には湧いていない様子なので、街を警備していた巡回兵も呼び戻しています!」

「わかりました! なぜ、こんなに突然……!」

 リリーシアがそう返すと、王家の皆様を頼みます、と叫んだ兵士が扉から離れ、気配が遠ざかっていった。

「リリーシア、これは一体……」

 セレネが心配そうな顔で駆け寄ってくる。

「……暗闇の先に見えたのはおそらく通常の骸骨兵スケルトンです。しかし、いくら数が多いと言っても、この城の騎士隊の方々が通常の骸骨兵の対処に手間取るはずがない……そして今の伝令から察するに、かなり情報が錯綜している様子です。たぶん……城に攻め込んでいるのは骸骨兵だけではないのだと思います」


 リリーシアは考えこんでしまう。あまりに情報がなさすぎる。このまま手をこまねいていれば大きな被害につながりかねない。かといって、自分が城内に飛び出していくわけにもいかない。

 自分の手札たる魔法も、自分の認識できない不特定の対象には効果が薄い。曖昧すぎる条件の魔法はエラーを起こし、発動しないのだ。


 どうにかして情報を……と考えて、この城の構造を思い出す。ここは城の最奥部で、しかも最上階だ。

「ルミナ王、この執務室の屋根を使わせていただきます!」

「構わんが、どうするのだ?」


「――この最上階から、目に見える全ての敵性存在を駆逐します!部屋に異常があればすぐに呼び戻してください!」

 言うが早いか、窓から軽業のように飛び出し、円錐形になった屋根の頂点に飛び移る。再度《暗視ナイトヴィジョン》を発動し――リリーシアの目は驚愕でいっぱいになった。

「なんて数……!人が使役しているとして、どれほどの人数と時間を……」

 眼下には、城の中庭や通路を埋め尽くす骸骨兵の海が見えた。そしてその中には、装備が上質で、見覚えのある黒い気を発している固体がいくつか存在した。剣戟の音や魔法の光も散発的に発生しているが、あまりの物量に押され続けているようだ。

「1000どころでは……いや、桁が違う……!? いいわ、MPが尽きるまで付き合って差し上げます!」


 ――普段の魔法発動の何十倍にもなる魔素を空気中から吸収。自分の中で練り上げた魔力と混ぜあわせる。あまりに膨大なエネルギーの奔流に、腹のあたりで物理的な熱を感じ、顔をしかめる。

 ――改変対象を定義。視界に入った亜種を含む骸骨兵全て。

 ――改変内容を定義。それは――


「全て……貫く! ――氷雪系詠唱魔術フロストスペル:《氷槍マルチプル群招来アイシクルランス/広域化ワイド》!!」


 改変の手応えを感じ、唱え終わった瞬間に自分の中の魔力が根本近くからごっそりと奪い去られるのをめまいとともに感じる。


 しかし、その結果はすぐに現れた。

 視界の端から、無数の氷の槍が地面に生え、骸骨兵スケルトンの軍勢に殺到する。

 魔力の残光を残しながら次々と骸骨兵を貫いていく様子は、眼下に光の海が生まれているようでもあった。


 リリーシアが視線を一周した時、視界に動く骸骨兵はもはや存在していなかった。


 城の建物内部にはまだ骸骨兵は多数残っているようだが、外の対処に手を取られていた兵も中へ向かえるようになる。掃討は時間の問題だろう。リリーシアがそう安心すると同時に、頭のなかに警告音のようなサインが響く。執務室が攻撃を受けているサインである。

 すぐさま屋根から飛び降り、執務室の窓に滑りこむ。全員健在なのを確認してから、鈍い音で叩かれている扉に視線を向ける。

 破城槌というわけではないが、鈍器のようなもので複数人から殴られているらしい。

「何か、武器で扉を開けようとしているようです。そして私の空間強化の魔法ももうあまり長くは持ちません……、ルミナ王、どうされますか」

 振り返ってそう聞くと、

「悔しいが、ワシら自身には武力はない。リリーシア、方法は任せる。頼めるか」

「リリーシア、お願い。全部やっつけて……!」

 ルミナ王とセレネの言葉を聞いて、リリーシアは頷く。ルーンとセレスティアも頷いて同意している。

「では、多少手荒ですが……行きます! 氷雪系詠唱魔術フロストスペル――《氷柱招来アイスピラー》!」

 改変定義内容は《進路上の中立・友好的存在を含まない物質全て》。直径1メートル程の六角氷柱を生み出し、扉へ投擲する!


 強度と速度を強化された氷柱は一瞬で扉を突き破り、扉の破壊を敢行しようとしていた魔物を吹き飛ばす!

 氷柱はそのまま魔物の群れを蹴散らし、突き当りの壁に突き刺さってその改変を終えた。

「この魔物……上位屍体兵グレーターグール!? あの数の骸骨兵スケルトンのうえにこんなものまで出てきているなんて」

 上位屍体兵は、通常の屍体兵よりも筋力に優れ、装備も整っている固体である。通路でなぎ倒された20体前後の魔物も全て上位屍体兵らしい。混乱の隙に乗じてここまで乗り込んできたというのだろうか。

 警戒を緩めずに通路の先を注視していると、


「あら、強力な魔法だこと……かわいいペットが全てやられてしまったわ」


その声が、頭に直接響いた。


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