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Area《1-2》

 竜は固い地面を感じながら目を覚ました。

 まずこの感触は…石だろうか。周囲も石造りの建物のようだ。薄暗い。

 身体は気怠く、寝転がったまま動けない。

 意識は朦朧とし、自身の存在までもがあやふやで知覚できない。

 何が起こったのか、ゆっくり一つずつ整理しよう。泥のように鈍重な頭で混乱しながらも思考した。


 まず自分はネトゲ――MMORPG「ファンタジア」をプレイしていた。

 仲間と釣りをしている最中、ノイズと共に意識を失った。

 そして今固い石の上で寝ている。


 ……まったくわからん。おおよそプレイ中に寝落ちして、夢でも見ているのだろう……。俺の部屋はもっと快適だったはずだ。


 身動きできずにしばらく長い息を吐いていると、右奥で扉が開く音が聞こえ、人が驚いた様子の小走りでこちらへ向かってくる足音が聞こえる。そして、まばたきをゆっくり繰り返す竜を覗き込んだ。

「目を覚まされましたか……? 返事はできますか?」

 綺麗な金の髪の女性だ。竜はぼんやりとそう思った。染色やコスプレとは違う、元から金髪を持つ女性特有の美しさを感じる。

「……はい」

なんとか一言だけ返事を声に出したのだが、明らかに自分の声ではない、しかし慣れ親しんだ不思議な声音が喉から紡ぎだされる。

「よかったです。近くの森で倒れているところを見つけてこの神殿へ運んできたのですが、3日間ほど目を覚まさないので心配いたしました」

 確かに3日間も寝続けていたら心配にもなるだろうなあ、と回らない頭で他人事のように考えつつ、覗き込んできた女性を観察する。

 女性というよりまだ少女と呼ぶべき年頃だろう。顔立ちは日本人と西洋人の要素を混ぜあわせた感じだろうか。それにしても流暢な日本語を話すものだ。夢の中なのだから当然なのだろうか。

 じっくりと見つめていると、少女がだんだん恥ずかしそうな顔になって、我慢しきれないような様子で口を開いた。

「え、ええと……まだ身体は動かせそうにないですか? この神殿は神の守護によって守られていますので、身体が動くようになるまではここでお休みください」

「……ありがとう」

 ここは神殿だったらしい。なるほど、白い石造りの建物からは静かという以上に神聖な感じがする。

「また元気になりましたら、お話を聞かせていただければと思います。夕方になったら夕飯をお持ちしますね」

 なにやらまだ少し恥ずかしそうにしながらそう告げると、少女は小走りに神殿から出て行ってしまう。


 その後しばらく休むと、声が出せるようになってきた。

「……いったいなんだろう、この状況は……うん? こ、この声はまさか……」

 自分の声ではない。というよりまず男声ですらない。しかし聞き慣れた女性の声。

「これは……日向碧の声だ」

 その気付いてしまった事実に声が震える。現実逃避気味に、震えた声も日向碧だなあ、と思った。そんな場合ではない。


「でも、声だけ日向碧じゃ俺の見た目には全く合わないよな……まさか」

回復してきた気力を総動員し、上体を起こす。その視界に映ったものは――


「女性……だな……」


明らかに自分のものではない女性の身体であった。

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